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ロンドン、ミラノ、パリ、東京と、世界各国で2025年秋冬ウィメンズの発表シーズンが終わった。多くのラグジュアリーブランドでは、中国経済の減速とともに成長が鈍化したため、血の入れ替えをしようとクリエイティブディレクターの交代が目立ち(この流れはマチュー・ブレイジーのシャネルやデムナのグッチなど以降も続く)、トレンドとしてはシアリングなどを用いた毛足の長い素材を用いたアイテムや首が隠れるほどの高い襟が頻出したシーズンでもあった。
そんな2025年秋冬ウィメンズコレクションを、ミラノ、パリ、東京の順に見てきた筆者が選んだ、良かったブランドTOP5を紹介。評価軸は、1. コンセプト(思想・メッセージ)、 2. スタイル(型・構図)、 3. キャラクター(作家性・手ぐせ) 、4. コンテクスト(歴史・文脈)、5. アティチュード(振る舞い・スタンス)だ。
1位:ジバンシィ ─ サラ・バートンによる古典の再解釈 ─
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アレキサンダー・マックイーン(Alexander McQueen)の亡き後、マックイーンの2代目クリエイティブ ディレクターとして13年にわたりチームを率いてきたサラ・バートン。絶頂期だった天才の跡を継いで、ブランドを任されるという心労は、凡人には察することも難しいが、偶然か必然か、1996年に弱冠27歳で「ジバンシィ(GIVENCHY)」のデザイナーに抜擢された天才アレキサンダー・マックイーンと同じ道を辿ることとなった。
サラ・バートンによるアレキサンダー・マックイーンでの13年分のコレクションでは、パンクテイストが繰り返し登場する。前任が築き上げたDNAは踏襲しつつ、その中でオーバーサイズ全盛の時代でも体のラインを強調するテーラリングによるフォルム形成はサラ・バートンの真骨頂で、これはジバンシィに入ることでより先鋭化されることとなった。
サラ・バートンによる初のコレクションとなったジバンシィの2025年秋冬は、1952年にユベール・ド・ジバンシィが手掛けた最初のショーまで遡る。起用されたばかりのクリエイティブデザイナーがまず着手することはメゾンのアーカイヴをリサーチすること。サラ・バートンは、「麗しのサブリナ」(1954)でのジャケットや映画「ティファニーで朝食を」(1961)のカクテルドレスなど、オードリー・ヘプバーンの衣装で一世を風靡したユベール・ド・ジバンシィの無駄を削ぎ落としたデザインに、ブランドのアイデンティティを見出す。
特に良かったのは、ウエストを絞り、プレスをかけた袖が特徴の構築的なジャケット。ファーストコレクションのアーカイヴパターンを参照しながら生み出したであろうフォルムは、しっかりサラ・バートンにより咀嚼され、面白味に欠けると思われかねないクラシックに時代性を帯びさせる。ジャケットを前後逆にしたかのような襟が高いスーチング地のトップスもコルセットで締め上げたかのようにウエストを絞ってあり、マックイーンのあと2代目として長くキャリアを築いた彼女だからできる"古典の再解釈"は存分に発揮された。もちろん、ファッションはビジネスであるので、稼ぎ頭となるバッグやシューズの開発、メンズのクリエイション、クチュールの復活に関しては今後注視していきたいところだ。
2位:プラダ ─ ファッションを通じていかに世界を更新できるか

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「プラダ(PRADA)」の2024年通期売上高は前年比4.2%増の35億6337万ユーロ(約5673億988万円)、「ミュウミュウ(miu miu)」の2024年通期売上高は同93%増の12億2805万ユーロ(約1955億1292万円)と、好調が続くプラダグループ。ここに「ヴェルサーチェ(VERSACE)」が加わることで、更なるシナジーを生み出すのは間違いなさそうだが(ドナテラ・ヴェルサーチェの後任はミュウミュウのデザイン・ディレクターを務めていたダリオ・ヴィターレ)、やはり核にあるのはミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)の存在だ。
1980年代にナイロンバッグを世に放って以降、伝統と前衛を掛け合わせ新しい時代のプラダ像を築き、現代トレンドを牽引する存在となったミウッチャ・プラダは、プラダの2025年秋冬ウィメンズコレクションで「女性らしさ」の概念を再考。ガブリエル・ココ・シャネルが考案した黒一色のドレスをモードの洋装として発表した「リトルブラックドレス」をシワ加工した生地を用いるなどしてキッチュに仕上げ、近代ファッション史におけるリトルブラックドレスが社会的に果たしてきた完璧さや洗練さとは異なる方向性を打ち出した。
ファミリーマートのクリエイティブディレクターに就任したことでも注目を集めた「ケンゾー(KENZO)」を手掛けるNIGO®の言葉「未来は過去にある(THE FUTURE IS IN THE PAST)」にもあるように、ファッションの世界のトップクリエイターたちは、素晴らしき過去のアーカイヴを先入観なく読み解き、現代の問題に接続させる。「女性らしさは単なる見た目や装飾の問題ではない」と、誰しもが潜在的に持つ女性らしさの再定義を試みたプラダは、ジェンダーの境界線を自由に行き来するアイテムを作り、伝統的秩序と現代社会の複雑性とが真っ向から衝突する場をつくり出した。ラフ・シモンズ(Raf Simons)とともにミウッチャ・プラダが体現する、ファッションを通じていかに世界を更新できるかという可能性の提示は、過去を参照するところからはじまるのである。
3位:サカイ ─ "新しさ"の追求続く、どこまでも ─

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ファッションショーの歴史は19世紀にまで遡る。ファッションショーを最初に行った人物として知られるのが「オートクチュールの父」と呼ばれるシャルル・フレデリック・ウォルト(1825-95年)。顧客から注文を受け、服を仕立てていたオートクチュール全盛の時代に、初めてモデルを起用して自身のデザインを顧客に披露した。その後パリコレが1960年代にスタートし、プレタポルテ(既成服)が世界に浸透したわけだが、こうした長い歴史の中で、現代におけるプレタポルテでの"新しさ"の追求は一筋縄ではいかない。1999年に5型のみのコレクションでデビューし、今や日本を代表するブランドとなった「サカイ(sacai)」でさえもそれは同じだろうと思っていたが、特に更新が顕著だったのが2025年秋冬メンズ&2025年オータムウィメンズ、そして今回の2025年秋冬ウィメンズだ。
サカイと言えば、ウールとナイロン、テーラードとスポーツウェアなど、対照的な要素を組み合わせる“ハイブリッド”なデザイン手法。そこに今回は、"ラッピング"を深く探究することで見慣れた服の新しい形を提示した。ラッピングは優しさや包み込む安心感を象徴するが、同時に着用者に着方を託すことで、個々人の個性を解放する役割を担う。ファーストルックのジャケットの袖を切り落としたような、芯地が覗くダブルブレストジレはその代表格で、スカートの大胆なスリットやマーメイドシルエット、フリンジ付きのショールなどで生まれる流動的なフォルムは、サカイが近年強化しているテーラリング志向とハンドワークの要素を結びつけており、ラフな実験性と美しい仕立てが両立していた。
4位:ドリス ヴァン ノッテン ─ プレッシャーをはねのけ─

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「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」もまた、ジバンシィと同様に2025年秋冬コレクションで新しい旅路に出た。数多くのモードファンを長く魅了してきたドリス・ヴァン・ノッテン(Dries Van Noten)が前線から退き、後任としてジュリアン・クロスナー(Julian Klausner)に託されたわけだが、ファーストコレクションは卓越した色彩感覚と素材の組み合わせが見事に昇華され、ブランドの美学に新たな深みを与えていた。特に、ドリス ヴァン ノッテンの象徴でもある大胆なプリントやテキスタイルを軸に、ジュリアン・クロスナー独自のコントラスト表現を加えた点は評価ポイントだろう。ディテールの詳細は、レポートに記したので割愛する。
ドリス ヴァン ノッテンには日本人のパタンナーが働いているが、ショーのあと彼は「ショー直前まではもっと"重くなる"予定だったんです」と力が入りすぎていたという制作の裏側について教えてくれた。デザインチームで臨んだ2025年春夏コレクションに賛否があったことも関係してか、偉大な先代を見てきたジュリアン・クロスナーが感じていたプレッシャーは甚大だっただろう。アドバイザーとしてブランドに携わるドリス・ヴァン・ノッテンの一声があったからかどうかはわからないが、現代性で"軽さ"を出したクリエイションにはドリス ヴァン ノッテンらしさも共存し、「これぞドリス」と呼べるコレクションになっていた。
5位:ヨウヘイオオノ ─ LVMHプライズ受賞も十分あり得る ─

Image by: YOHEI OHNO

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ドレスなどで着飾る場が少ないため、コンサバティブなデザインに消費が集中しやすい日本のウィメンズ市場において、数少ない"新しさ"を追求するブランドとして挙げられるのが大野陽平が手掛ける「ヨウヘイ オオノ(YOHEI OHNO)」だ。「造形ブートキャンプ」とデザイナーは名付けているが、布と対話し、さまざまなテクニックを用いて作る新しく自由なフォルムは、2025年フォールコレクションでさらに輝きを放った。
特に目新しかったのは四角形のパターンから展開し、着物のような平面と西洋的なドレーピングやテーラリングの技術を組み合わせた造形。10周年を迎え、円熟味が出てきた同ブランドのクリエイションは世界でも十分通用するものだろう。「ソウシオオツキ(SOSHIOTSUKI)」の大月壮士がファイナリストに選出され話題を集める今年のLVMHプライズだが、来年大野陽平が応募すれば、「TOKYO FASHION AWARD 2017」でともにパリで展示を行った「ダブレット(doublet) 」井野将之ように、グランプリ受賞の可能性もあるのではないか、そう期待させるコレクションだった。
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