外出する機会が減ったことを受けて、おしゃれの「晴れ舞台」がおうち空間に移りました。この変化を受けて、世界4大コレクションに参加している主要ブランドからも、新たな装いが提案されています。2021年春夏のキーワードのひとつは「ホームドレッシング(Home Dressing )」。文字通り、自宅でまとうドレスです。全体が上品にまとまるワンピースやセットアップを中心に据えながら、リラクシングで軽やかな着映えに整えている点に特長があります。
(文・ファッションジャーナリスト 宮田理江)
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ステイホーム生活がまだ続きそうな中、「イエナカ」の装いも様変わり。これまでは「おしゃれ=外出」というイメージでしたが、着て行くシーンが減ったことから、おうちルックに華やぎを求める気持ちが強まりました。家で過ごしながらも自分らしい装いを。「ホームドレス(Home Dress)」はこうしたモチベーションを受け止める新発想ウェアです。
ルームウェアはお約束的な存在のスウェット上下やパジャマに代表される、イージー寄りの装いがこれまでの主役でした。しかし、ホームドレスは、ルーズなリラックス感ではなく、適度に凜々しさやリュクスをまとった"凛ラックス"の雰囲気が持ち味です。
◆「着るリゾート」のような心地よいロングワンピース
楽な着心地のワンピースはホームドレスの主役的な存在です。従来のワンピースに比べ、全体にゆったりしていて、服の中で体が泳ぐような流麗なシルエットが持ち味。実際には旅行が難しくなった事情を映して、家に居ながらにして、トラベル気分を味わえる「着るリゾート」のような雰囲気もあります。
ハッピー感が漂う大きな花柄や、ポジティブなイエローがアイコニック。海や山の大自然モチーフを写し込んだワンピースは旅心をそそります。年々、夏が長くなり、暑さが増す中、体に張り付かないワンピースは着心地も快適。中東・アフリカの装いを彷彿させる感じでもあります。外出する際は、バッグやシューズで引き締めるのが着こなしのポイントです。
◆きちんと感のあるエフォートレスなセットアップ
老舗ブランドからはクラフトマンシップ(職人技)を生かしたウェアが相次いで打ち出されました。2021年春夏コレクションでは各ブランドの原点回帰が進み、強みを証明する形でのクリエイションが目立っています。手の込んだディテールはその典型例。刺繍やレースに工夫を凝らして、趣の深いルックに。上質な素材を用いて、ノンシャランとした雰囲気なのに特別感を寄り添わせる仕立ては、トップブランドの強みです。
襟なしのロングアウター風羽織り物と、風をはらむたっぷりしたパンツを組み合わせたセットアップのように、そのままどこへでも出られそうな「内外自在」の装いが用意されました。白シャツをインナーに迎えるようなアレンジで、きちんと感のあるエフォートレス(気張らない)ルックに仕上げるコーディネートです。
◆シアー素材でつくる涼やかレイヤードスタイル
年を追うごとに蒸し暑さを増す夏を意識して、涼やかさを重視した装いが2021年春夏の軸に据えられています。先シーズンからヒットしているシアー素材の多用がさらに目立ち、色や柄で表情を深くするアレンジが加わってきます。
ホームドレスの隠れた魅力に挙げられるのは、周りの視線を気にせずに済む点です。これまでは周囲を意識して、服を「他人目線」で選ぶところがありましたが、外出を前提にしないおかげで、いい意味での「自己中心的」なおしゃれを楽しめるわけです。大胆なモチーフをあしらったり、素肌が透けたりするデザインも、本来の自分好みで選びやすくなりました。エアコンの効いた室内ならではのレイヤードも組み立てやすくなっています。
◆進化系パジャマルックは格上感たっぷり
従来のルームウェアをバージョンアップさせるようなスタイリングも試されています。ワンピースから気負いを抜く「引き算」とは逆で、部屋着に格上感をプラスする「足し算」の味付けです。たとえば、パジャマにあでやかな柄を配したようなルックは、意外性があります。最もプライベートなはずのナイトウェアを、街着と兼用のホームドレスに格上げする発想です。
パジャマならではのくつろぎイメージと、ドレスのゴージャス感が交差して、シーンフリーで着やすい装いに。さらに、共布のスカーフを添えるような演出で、レディーライクな着映えに導くことができます。上下を別々にばらして、手持ちの服と合わせる単品使いもセットアップの魅力です。
◆アシンメトリーで優美なシルエットに
不ぞろいの美しさを印象づける「アシンメトリー(非対称)」の流れを受けて、片方の腕だけをさらすような肌見せを生かすカッティングも提案されようになってきました。リゾートルックを思わせる、風に遊ぶシルエットは「ポジティブな現実逃避」に誘うかのよう。ボディに付かず離れずのゆるやかフォルムも、張り詰めた気持ちをほどいてくれそうです。
マリンモチーフはリゾート気分を高めてくれます。まるで旅に出かけているかのようなムードに誘ってくれるモチーフ使いも2021年春夏の傾向。装いを通してリラックスと高揚の両方を得られる、ドラマティックなプリントとシルエットは、家ごもり生活にこそ迎え入れるメリットがありそうです。
◆上半身映えは貴族風「ジャイアント襟」で
オンラインで注目を集める「上半身映え」に生かせる、新たな演出が「メガ系ディテール」です。袖にボリュームを持たせる「袖コンシャス」は以前からの継続トレンドですが、さらに進化を遂げて、肩周りや袖先といった部分的な量感のデフォルメ(誇張)が盛り込まれています。
袖以外のスポットでは、襟がターゲットに。過剰なまでに大きな「ジャイアント襟」が登場。中世ヨーロッパ風の貴族テイストを醸し出しています。量感のほかに、レースやフリルをどっさりあしらうという形での「盛りディテール」は、装いをグラマラスに華やがせる効果を発揮。オンライン映えに加え、「日常の中の非日常」を味わえる技ありディテールです。
◆◆◆
ホームドレスが盛り上がる背景には、ここ数年にわたって続いてきた、コンフォート(着心地重視)やオーバーシルエット、エフォートレスなどのロングトレンドがあります。そうしたうねりに加えて、コロナ禍に伴う「家ごもり」がさらに人気を後押ししました。「楽なのにきれいに見える」「コーディネートを考えなくて済む」といったメリットを兼ね備えたワンピースやセットアップには、世代を超えて支持が集まる気配。着る人本来の望みを引き出せるところにも魅力があり、この先も"凛ラックス"のキーアイテムとして人気を広げていきそうです。
文・宮田理江
ファッションジャーナリスト・ファッションディレクター。多彩なメディアでコレクショントレンド情報、着こなし解説、映画×ファッションなどを幅広く発信。バイヤー、プレスなど業界での豊富な経験を生かし、自らのTV通版ブランドもプロデュース。著書に「おしゃれの近道」(学研パブリッシング)ほかがある。
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