(左から)チャーリー・コンスタンティノウ、LUEDER、シネイド・オドワイヤー、YAKU
パリ、ミラノでショーを開催するブランドが多い中で、ロンドンはやはり等身大のリアリティさを求めてクラブシーンやカルチャーシーンと繋がる若手ブランドが醸成していく場なのだと改めて感じさせるユニークなプレゼンテーションが連日展開された。
「リューダー(LUEDER)」
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すでに2月にベルリンファッションウィークでコレクションの一部をランウェイ形式で発表した「リューダー(LUEDER)」。NEWGEN(New Generation)のサポートのもと、ロンドンではランウェイではなく、まるでクラブに入ったかと錯覚するような演出のプレゼンテーションを発表。リューダーに身を包んだモデルたちが、日本でも度々リリースパーティーを開いている匿名デュオ「トゥー・シェル(Two Shell)」のDJに身をまかせて自由に踊る。タンクトップにグラフィックデザインされた「Oops…」の文字は、会場で先行リリースした彼らの新曲のタイトルで、全体のアートディレクションも担当したトム・シュナイダー(Tom Schneider)によるセットデザインとともにスポットライトを当てられたモデルたちは、飛び跳ねるように激しく踊ったり、身体をうねらして来場者を魅了するなどリューダーへの愛を持ったチーム全員の熱量を間近で感じることができた。時にはロンドンファッションウィーク全体のスポンサーであるフランスのビール「1664ブラン(1664 Blanc)」を片手に、時にはモデル以外にもマスクで匿名性を高くしたダンサーたちが自由に会場を闊歩しながら終盤にかけてさらに盛り上げる。残念ながら、照明の関係で服ははっきりと見えなかったが、クラブとファッションの密な関係性を持つロンドンならではのプレゼンテーションになったように見えた。

Image by: LUEDER
デザイナーのマリー・リューダー(Marie Lueder)は、ロンドン・カレッジ・オブ・アートを卒業後の2019年にブランドを創設。一見ただ単なるカジュアルウェアに見える服たちは、ハンブルク国立歌劇場でテーラーとして働いていた彼女のバックグランドをもとに、複雑性のあるテーマをしっかりと服に落とし込む技量を見せる。画期的なシルエットに挑戦したというパンツは、従来のスキニーパンツへの再考として取り外し可能なレイヤードを加えた。また巻型のスリットスカートが描く曲線は本コレクションで曖昧にしたかったという性別の境界線を軽やかに自然体で超えてきた。ほかにも活動当初から継続したサステナブルの取り組みにも熱心で、木材パルプから作られたフェイクファーコートや食肉産業からの副産物的に出てきたレザーを使ったジャケットが登場した。

Image by: LUEDER

Image by: LUEDER
「シネイド・オドワイヤー(Sinéad O’Dwyer)」
今年2025年のLVMHプライズ(LVMH Prize)セミファイナリストにノミネートしている「シネイド・オドワイヤー(Sinéad O’Dwyer)」。ロンドンファッションウィークの中で、最もボディポジティブでありボディコンシャスなコレクションを発表した。NEWGEN(New Generation)のサポートを受けるのが今回のコレクションで最後ということもあり、「Character Studies」というテーマのもと、過去のコレクションに登場した秘書、体操選手、ダンサーなど多様なキャラクターに改めて尊敬の念を持って進化させた。しかし単に過去のルックをノスタルジックに展開するではなく、今後の自立を示すような洗練されたコレクションに仕上がったように感じた。
「多様性」という言葉が普及する現代社会の中で、メゾンからインディペンデントブランドまでさまざまな人種や体型のモデルを起用することは一般的となったが、その中でもどうしてもリアリティを感じられないものも中にはあるように思う。しかしシネイド・オドワイヤーには嘘がない。幅広い体型、車椅子利用者など多様なオーディエンスで賑わう現場から感じた。服作りのプロセスとしては、今までにシリコン成型や革新的なパターンメーキングに挑戦。ストレッチ性のあるレースアップを特徴としたシグニチャデザインは、機能性と同時に、着用者が身体を自由に誇らしく自分のものとして表現する自信を後押しをしていたように感じた。足元には2025年春夏でコラボレーションした「グラウンズ(grounds)」と再度協業し、レースアップしたようなデザインのハイブーツを展開した。











Image by: Sinéad O’Dwyer
「チャーリー・コンスタンティノウ(Charlie Constantinou)」

Image by: ©Launchmetrics Spotlight

Image by: ©Launchmetrics Spotlight
「チャーリー・コンスタンティノウ(Charlie Constantinou)」は、2022年にセントラル・セント マーチンズ校のファッションデザイン修士課程を修了してからまもなく、「イッツ(ITS)」の新人デザイナー部門のグランプリを受賞。翌年にはLVMHプライズのセミファイナリストに選ばれるなど、ブランドを創設してから5回目となるコレクション発表まで上り調子で活動を続けてきた。東京でも昨年11月にポップアップを開催し、デザイナー自身も来日時に「チャーリー・コンスタティノウ」を着た日本人を道端で見たというほどには、すでに日本でもファンを持ち始めている。実際に過去のインタビューでもファッションに興味を持ったきっかけとして、「アンダーカバー(UNDERCOVER)」の名前を挙げるほか、創作のインスピレーションにも漫画「ワンピース」を挙げるなど意図せずとも自然と日本のオーディエンスが惹きつけられる美学がそこにはあるのかもしれない。
とはいえ、イギリス生まれのキプロス人デザイナーというルーツから、ブランドのコアの美学には、さまざまな帝国に支配された歴史を持つキプロスという島に残る遺跡や神話、自然の色合いがある。「Season 4.5」と題した本コレクションでは、前回のコレクション「4」の続きとして、サハラ砂漠の風景を彷彿とさせる会場セットに包まれ、寒暖差をグラデーション的に表現するカラーパレットとスタイリングが登場した。シグニチャである染色技術をふんだんに使ったカラーパレットは、イエローから、ブラウン、グリーン、ブルー、グレー、パープル、ピンク、レッドへとショー全体を通して移いを見せる。そのさまは、日没前・後を表現するような詩的な表現であり、同時にアイテムとしても薄着から寒暖差を防ぐアウターまで機能性も兼ね備えたものだった。他にも雑誌「1Granary」の協力のもとECCOレザーとのコラボによって、新たなテクスチャ表現を目指して実験的な取り組みを行った。














Image by: ©Launchmetrics Spotlight
「ヤク(YAKU)」

Image by: YAKU
チャーリー・コンスタンティノウが尊敬するブランドのうちのひとりとして挙げるのが、「ヤク(YAKU)」。NENGENのトリを飾り、ナラティブ性の強いワークショップ形式のプレゼンテーションを発表した。入り口で渡されたパスポートのようなノートとペンを持って会場に入ると、ノートに書いてある7問のパーソナル診断のアンケートを答えるように促される。「決断を促す最後の決め手は?」、「グループの中でどのような役割になることが多い?」など自身の性格を考えさせられるような芯をついた質問に答えたすえ、水たまりのような演出がされた受付でスタッフにノートを見せると自身の性格を表すようなキャラクターのシールと缶バッチが渡される。(筆者はコンバットだった)、奥に入ると、さまざまなクリチャーを演じるモデルたちが横並びでファンタジーの世界を描く。「The ImPossible Family Reunion in RPG Space 」と題したコレクションタイトルをよく見ると、「Im」に取り消し線がはいり、「Possible」と強調させている。それは、あるファンタジーの種族を主人公に辛い過去と未来への希望を見出した前章から続くストーリーとして、また新たな未知なる未来へ突入する前夜を描いているのだという。
演劇監督のダーモット・デイリーとともにディレクションしたプレゼンテーションとは別で、箱状になっている中央のスペースでは、片方でムードボードや綿密に考えられたキャラクターの説明が書いてあるフィクションの部屋が広がり、もう片方ではTシャツとビニーを即売。特に受付でもらったパスポートがプレゼンテーションと直接的に相互作用することはなかったが、単なるファンタジーの世界を見せる手前でオーディエンスを自己に向き合わせることでより没入感が高まったように感じた。




















Image by: YAKU
1991年生まれ。国内外のファッションデザイナー、フォトグラファー、アーティストなどを幅広い分野で特集・取材。これまでの寄稿媒体に、FASHIONSNAP、GINZA、HOMMEgirls、i-D JAPAN、SPUR、STUDIO VOICE、SSENSE、TOKION、VOGUE JAPANなどがある。2019年3月にはアダチプレス出版による書籍『“複雑なタイトルをここに” 』の共同翻訳・編集を行う。2022年にはDISEL ART GALLERYの展示キュレーションを担当。同年「Gucci Bamboo 1947」にて日本人アーティストniko itoをコーディネーションする。
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