“完全なレジなし”は普及する? モバイルアプリ「スキャン&ゴー」と「セグウェイ」を比較して考える

■全店の改装を発表しているサムズクラブは、レジアプリにフォーカスしたレジなしDX店舗を推し進める。

■全店の改装を発表しているサムズクラブは、レジアプリにフォーカスしたレジなしDX店舗を推し進める。
“完全なレジなし”は普及する? モバイルアプリ「スキャン&ゴー」と「セグウェイ」を比較して考える

■全店の改装を発表しているサムズクラブは、レジアプリにフォーカスしたレジなしDX店舗を推し進める。

チェーンストア最大手ウォルマートの傘下でメンバーシップ・ホールセール・クラブは先週、投資コミュニティ会議で改装内容を明らかにした。
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サムズクラブによると会員の約3人に1人の割合で商品バーコードをモバイルアプリでスキャンしていく「スキャン&ゴー(Scan & Go)」機能を利用しており、利用率は過去3年間で50%以上増加している。
会員基盤も若年化しており、新規会員の増加分の約半分をZ世代とミレニアル世代が占めているのだ。
デジタル・ネイティブな会員が増えていることでAIとテクノロジーを活用し、顧客体験の深化を目指す。
つまり改装されたサムズクラブはダラス郊外に昨年10月改装オープンした"レジなし"サムズクラブ・グレープバイン店になるのだ。
会員のほとんどがスキャン&ゴーで買い物することはアプリ片手で買い物することが当たり前になる。
デジタルを介したマーケティングが容易になり、顧客データを活用しながらリアルタイムで会員とつながることも可能にする。
また潜在会員や休眠会員に対しパーソナライズされたマーケティングを提供し、再入会や新規入会を促すことができるとしているのだ。
スキャン&ゴーの課題となる、スキャンしない不正には人工知能(AI)とコンピュータービジョンを使ったエグジット技術「ジャスト・ゴー(Just Go)」で対応するのだ。
セルフレジや有人レジを撤去する改装は見方を変えればダラス郊外の完全デジタル店が成功していることを意味する。
新たな製品(商品・サービス)などの市場における普及率を示すマーケティング理論「イノベーター理論」でスキャン&ゴーは普及の障壁であるキャズムを超えてアーリーマジョリティに移行していることを強く示唆するのだ。
スタンフォード大学のエベレット・ロジャーズ教授が提唱したイノベーター理論では普及の過程を5つの層に分類している。
新製品や新サービスを積極的に採用するのがイノベーター(革新者)という層だ。次にイノベーターほど急進的ではないものの、これから普及するかもしれない製品・サービスにいち早く目をつけて購入するユーザー層であるアーリーアダプター(初期採用者)が続く。
新製品や新サービスで普及の問題となるのは、この後の層であるアーリーマジョリティ(前期追随者)だ。
初期採用者となるイノベーターやアーリーアダプターとこのアーリーマジョリティは価値観が大きくことなる。
アーリーアダプターが「新しさの価値」をみているのに対して、アーリーマジョリティは「実益が価値」となる。
それまでとは価値観が異なる新たな大きな層を獲得するには深い溝を意味するキャズムを超えなくてはならない。
IoT製品などの多くのイノベーションが普及せずに市場から静かに消え去るのは、キャズムを超えられなかったからだ。
キャズムを超えられなかった最も象徴的なイノベーションは、スティーブ・ジョブス氏が「パソコン以来の最も驚異的な技術」といった"電動立ち乗り二輪車"の「セグウェイ(Segway)」だ。
アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏をも魅了したセグウェイは「インターネットよりも重要になる」とも言われた発明だった。
自動車が馬や馬車にとって代わったようにセグウェイは移動手段の革命と見られていた。
しかし市場では受け入れられず、ほとんど売れなかった。セグウェイはニッチな市場のみにしか浸透しておらず、著名な投資家も「投資としてのセグウェイは失敗だったことに疑いの余地はない」と認めたほどだ。
タイムズ誌も「この10年でトップテンに入るテクノロジーの失敗」と評した。
最近ではアマゾンが開発した自動決済システムの「ジャスト・ウォークアウト(Just Walk Out)」かもしれない。
発表された当初、世界を騒がせたがほとんど普及していないサービスだ。これもスタジアムや病院・大学の売店などニッチな市場での普及にとどまっている。
一方、サムズクラブのスキャン&ゴーは2016年に全店に導入して以来、着実に会員に支持が広がっていった。
3人に一人の割合での利用はニッチなサービスではない。サムズクラブ・グレープバイン店の成功を受けて、アーリーマジョリティにもレジなし店が同意されると見ての全店改装となる。
全店が"完全なレジなし"になるのか、一部に有人レジなどを残すのか等は現時点では分からないが間違いなく小売イノベーションにはなる。
ただ注意すべきなのは、スキャン&ゴーのようなレジアプリは全小売業には普及は難しいということだ。
ウォルマートのスキャン&ゴーがサブスク会員の特典として3度目の復活となったように特定のお客を対象にした際に普及するということになる。
トップ画像:サムズクラブ・グレープバイン店。デジタルオンリーストアでは、セルフレジや有人レジがある場所に自動車等が展示してある。
⇒こんにちは!アメリカン流通コンサルタントの後藤文俊です。後藤は2016年11月、サムズクラブのスキャン&ゴーについて「これを『実店舗のショッピング革命』『リアル店の買物イノベーション』と言わずして、なんと言えば良いでしょう!」と当ブログで絶賛しました。コンサルタントの視点だけでなく生活者の視点もあるからこそ当時から、その凄さを見抜いていたのです。同時に9年前「ただ完璧ではありません。レジ素通りも出口にいるチェッカーの確認があります。ここで行列になります」と書いています。その時に指摘していたチェッカーの問題もサムズクラブは昨年にAIの「ジャスト・ゴー(Just Go)」を導入して行列問題を解消しています。アマゾンのジャスト・ウォークアウトについても当時から「レシートがすぐに来ない」問題点を指摘していました。で、当社のワークショップ研修では両者を比較するカリキュラムも行っています。いつも強調して言っているのは日本の流通にもアプリの時代が来るということ。エントリー記事にもあるようにサムズクラブはレジがない代わりにアプリで買い物です。
米国の最先端事例のように、単に"いいものをより安く"以上に買い物の不便さを解消しなければいけないのです。よく「自己否定」と言ってる人がいますが、現状の商品を否定するのではなく、買い物方法を見直さなければならないのですよ。
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