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国産デニムの価値を訴求、高島屋の体験イベント「デニムスクランブル」

クリエイティブディレクター
HAKATA NEWYORK PARIS

 アパレル業界は今年も初っ端から気候変動に悩まされている。冬のクリアランスセールが終わったものの、暖かい日は長続きせずすぐに冬に逆戻り。3月半ばでさえ低温の日が続いたのだから、春物が動くはずはない。総合アパレルの売上げ速報値も、例年より低気温だった影響で春物の動きが鈍く低調だったという。個人的には今年は春物を購入することはなく、コットンウール混の冬物セーター、綿100%で12オンスのジョギングパンツの方が活躍した。寒い日はレザーやポリエステルのジャケットの方が体温調整がしやすい。だから、パッキンから春アイテムを取り出すこともなく、初夏物を着ることになりそうだ。

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 百貨店やショッピングセンターのアパレル小売りはかなり大変なようだ。天候不順や低温で、春アイテムが動かないと、服を主体にした集客は難しくなる。代わって従来は端境期に売っていたバッグや靴、アクセサリーがシーズンに主役になりつつあるのではないか。ラグジュアリーファッションより高級時計やジュエリーに触手が伸びるのも、天候不順が少なからず関係している面もあるだろう。これから気温が上がって熱くなれば、もうTシャツで十分だから、ますます売れるアイテムが決まってきてしまう。

 洋服屋を主体にする都市型のショッピングセンターが苦戦する一方、百貨店はいろんなイベントを仕掛けて集客に躍起だ。福岡の百貨店で言えば、北海道や東北、北陸、沖縄など旅行でしか行けない地域の物産や食を集めた催事は人を集める。全国の有名駅弁や地元名店の隠れたランチ、パンやスイーツのフェスタなども人気だ。異常気象が続く中で、お客さんの興味は「着る」よりも「食べる」が鮮明になっている。ただ、百貨店は一般客だけでなく、売上げに貢献してくれる顧客=ロイヤルカスタマーも育成して行かなければならない。また、その予備軍である30代、40代の掘り起こしも重要になる。

 従来は友の会や外商がロイヤルカスタマー育成のカギだった。しかし、賢くポイントを貯めることに慣れ、接客を受けないEC購入に躊躇いもない30代、40代は、従来の手法のままでは捉えきれない。また、服の低価格化に伴って着古したものは廃棄する習慣が浸透する一方、高額で買取や再販できるブランドに注目が集まる傾向もあるなど、若年層の購買スタイルも変わっている。大手百貨店と言えど、顧客予備軍である30代、40代にどうアプローチするか。いろんな仕掛けが試みられているが、興味深いイベントがある。高島屋が2024年から開催している国産デニムがテーマの体験型イベント「デニムスクランブル」だ。

 高島屋は循環型の物作りプロジェクト「デパート・デ・ループ」に取り組む。廃棄プラスチックの削減など、高島屋がサステナブルを進めていく中で、大きな課題となったのが衣料品のリサイクルだ。ファッション業界は年間約9,200万トンもの廃棄物を発生させている環境負荷の高い産業と言われており、衣料品を扱う百貨店もその当事者と立場になる。そこで、リサイクルパートナーと協力し、循環型商品を通したファッション産業の未来モデルを構築した。顧客から回収したデニムをクラボウと組んでアップサイクルし、その再生デニムを使った5ブランドが商品化される。販売・回収・再生のスキームで従来の「売りっぱなし」ではなく、新たな地下資源を使用することもない、サステナブルなビジネスモデルを推進している。

 具体的には、客から回収したデニム製品を国内でリサイクルし、製品化する活動に取り組むものだ。これに共感した三備地区(岡山、広島の両県にまたがる備前・備中・備後エリア)から、消費者への認知拡大の協力を求める声が上がり、デニムスクランブルを開催するに至った。第1回には10社が参加し、デニム製造用のミシンを使い、その場でデニム地のバッグを縫い上げる実演と販売を実施。文化服装学院の学生がデザインし、岡山・児島の工場が製品化した一点物のデニム衣料の販売なども行われた。こうした企画が奏功し、売上げ予算も達成したというから、30代、40代へのアプローチも企画次第で可能ではないだろうか。

蘊蓄ではないデニムの価値を伝える

 高島屋側は、イベントを通して三備地区の国産デニムの魅力を再確認。そこで、より多くの人に知ってもらいたいと、4月16~21日には大阪でも規模を拡大して第2回を開催するという。東京で好評を博したミシンを使った実演は、バッグだけでなくジーンズにもアイテムを広げる。参加企業のブランド数も増やし、製品そのものの魅力の訴求も強める。百貨店の場合、通常の販売はどうしても1ブランドの箱で勝負しがちだが、お客の側からすればジーンズ一つでもいろんなブランド、種類を比べてみたい。イベントという一過性の販売機会であっても、選択肢が増えることは購入を喚起する。

 専門学校生によるデザイン、縫製、一点ものの販売も、大阪でも系列校の学生が加わる。さらにドクターデニムホンザワの本澤裕治社長が三備地区の企業の特徴や強みなどについて講義する。三備地区のデニムを使ってデザインした服の中から厳選した物を、産地企業が実際に製品に仕立てて展示し、ファッションショーも開くという。高島屋は「1本の国産ジーンズには、できるまでのストーリーがある。それをお客さんに伝えることで、より商品の価値を高められるイベントにしたい」と、意気込む。

 もっとも、高島屋が進めるデパート・デ・ループ、循環型社会づくりに向けた活動は、まだまだ建前の域を出ない。デニムスクランブルもロイヤルカスタマーの育成に直接は結びつかないことを考えると、百貨店がここまでデニムに注力するのは異例だろう。しかし、そこには顧客予備軍である30代、40代に時間をかけて国産デニムよる物作りの技術や魅力を伝えることで商品を知ってもらい、上質なデニムを販売したいという高島屋の強い意志を感じる。過去には大丸がジーンズセレクションコーナーを展開したり、福岡の井筒屋が地元デザイナー発掘の一環でデニムアイテムのポップアップを行ったりしていたが、低価格ジーンズを売り出すSPAを前に常設化すら実現できなかった。

 一方、ジーンズ専門業態も厳しい状態が続いている。中でもライトオンは2024年8月期の最終損益はマイナス121億4200万円。赤字は6期連続で、大手アパレルのワールド傘下となり、新体制下での5カ年の中期経営計画を発表した。そこでは不採算店舗のリストラや人員削減も実施したものの、業績が回復する見通しは立っていない。識者の中には、「デニムについて蘊蓄するのは50代以上のアメカジシンパのおじさんたちに過ぎず、今の若者世代はそこまでデニムにはこだわらない」とおっしゃる方もいる。確かにそれは一理あるだろう。

 だからと言って、国産デニムを埋没させていいわけではない。別にどこで生まれたのだの、歴史がどうだの、織りや赤耳、染めの方法だのと、そこまでの蘊蓄に拘るのはマニアに任せておけばいい。逆に若者世代ではデニムはシンボリックなアイテムではなくなっており、価格の安さで選ぶならグローバルSPAのラインナップで十分だ。そうではなくて、日本にも誇れる技術を生かした上質な製品があるのだから、それをお客に伝えて売りに繋げていくのは百貨店としては極めて常道のはず。高島屋がそう感じたのであれば、まず顧客の予備軍でデニムに親近感が湧く30代、40代へのアプローチが先決になる。

 百貨店に並ぶ大手アパレルのブランドは、海外生産による原価圧縮で素材にコストをかけないものが増え、素材感を主張しないものが多くなった。お客の中にもそう感じている人は多く、それが百貨店アパレルの売上げ不振を招いたのは、紛れもない事実だ。そのため、国内デザイナーズ系ブランドは素材の開発に注力し、コストをかけたものづくりを進めているが、カジュアルアイテムは販売価格が優先されるので、どうしてもグローバルSPAの牙城になってしまう。そこに風穴を開けるとすれば、国内に産地を持ち製造も可能なデニムではないか。少なくとも候補にはなるだろう。

 デザイナーを目指す若者にとっても、与しやすいアイテムだと思う。30代、40代には世代が近いから、デザインしたアイテムが感性的に共感されやすいからだ。それより上の世代も70年代、80年代にはジーンズを穿いた経験を持つ。街中の中高年を見ると、男女とも意外にデニムアイテムを着用する人を見かけなくなった。高島屋をはじめとする百貨店がこの層にデニムでどうアプローチするか。陳腐化した戦略ではあるが、やはり価格競争に巻き込まれるのではなく、品質やデザイン、ブランドストーリーといった付加価値を持たせることがカギになる。その条件の一つが産地だ。

 個人的に言わせてもらうと、今後のイベント展開としては象徴的なブルーより、ホワイトのデニムもテーマにしてはどうか。すでにホワイトデニムはあるのだから、それを使用するものづくりは不可能ではない。学生がアイテムをデザインするにしても、ホワイトデニムの方が色がないので創造力を掻き立てられるはずだ。産地企業がそれを下敷きにして製品に仕立てるにしても、お客に響く柔軟な企画力が求められる。イベントはロイヤルカスタマーの育成の手段の一つである一方、顧客との接点を増やすことで、彼らのニーズに迅速かつ的確に応える仕組みを考える場にもなる。

 デニムイベントは色より中身の濃さで勝負する。定番デザインのジージャンや5ポケットのジーンズではない、スタイリッシュなホワイトデニムが登場すれば、ぜひ着たり穿いたりしてみたい。

最終更新日:

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