

基本的に繊維の製造・加工業が順調に稼働するには一定の数量が必要になる。
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各工場が言うところの「ミニマムロット」というものである。この「ミニマムロット」の設定は工場ごとに異なる。特に機械設備や人員数によって大きく左右されるが、業界とは無関係の人やメディアが夢想するような「一個、1メートルからの製造・加工」というのは最も作業効率が悪く、そして工賃は割高になる。
これは覆せない事実である。
だから本来は、生地工場も縫製工場もある程度まとまった数量の発注が欲しくてたまらないのだが、量産品ということになると低価格ブランドになってしまうため、国内工場では工賃でも場合によっては数量でも対応できにくいことから、現在の産地企業の多くは、数量は少ないが工賃が高い有名ブランドとの取り組みを模索する場合がほとんどになっている。
よくある「産地総合展示会」のほとんどは、数量はあまり望めないが有名なブランドとの取引開拓を目的として、東京で行われる。
実際に当方もその手の展示会に業務として携わらせてもらったこともあるし、今も、製造加工業系の知り合いからその手の展示会の様子がSNSを通じてシェアされてくる。まあ、シェアされたところで当方はいいねを押すくらいなのだが。
たまに会って話を聞くこともあるが、概ねそういう有名ブランドとは幾何かの取り組みは微増しているという感触を受ける。
これはこれで非常に喜ばしいことだが、現在のやり方の行き着く先は「多品種小ロット」になる。もちろん、仕事があるということは良いことなのだが、この「多品種小ロット」の獲得のための有名ブランドとの取引開拓をこのままずっと続けて行くつもりなのだろうか。
各工場の事業形態が当方のような個人事業主で、本人が引退して仕事も全て終わるつもりなら、その手もありだろうと思う。当方なんて予定では66歳で引退して、ほそぼそと最低限度の支出で暮らして行こうと思っている。だが、そうではなくて例えば次世代の経営を息子さんや親族に譲りたいと考えているなら、多品種小ロット対応ばかりでは心身ともに疲弊してしまうことになるだろう。(零細規模のままそれ専門に対応するという生き残り策もあるが)
如何に量産品と結びつくかという視点も必要になる。
当然、すでに大量量産品に目を向けていてすでに受注している工場もある。しかし、その他多くの工場は有名ブランドの小ロット契約を開拓することだけを目的化しているように見える。
まあ、業界メディアも含めた各メディアが有名ブランドとの小ロットコラボを最上の価値があるかのように報道し続けているため、よけいにそのように見えてしまうという側面もあるだろう。
ただ、これは繊維業界でよく言われる「オカズ」に過ぎない場合が多く(零細工場においてはそうではないが)、経営を安定させたいのであれば「主食」に相当する量産品が必要不可欠になる。
もちろん、現在はそんな受注が簡単に無いことはよく理解している。特に衣料品ではなかなか難しいだろう。
そのように考えると、デニム生地製造で名高いカイハラがユニクロとGAP向けのデニム生地製造を受注していたことは、極めて正しい戦略だと改めて思えてくる。
業界内には「あんな安いブランドと取り組んで・・・」という批判の声があったことも事実だが、カイハラの当時の企業規模を考えれば、安かろうが大量生産品の受注も「コメの飯」としては必要不可欠だったといえる。
むしろ、有名高級ブランドからの受注だけならステイタス性は上がったかもしれないが、カイハラの工場規模は縮小せざるを得なかっただろう。
また、当方が携わっていた13年くらい前までは、妙中パイルはスマホの画面を研磨するための工場用起毛布の製造を請け負っていた。「受注金額は安いが、数量が大きいので自社の生産ラインを維持するために請け負っている」と当時説明しておられた。2025年現在はどうなっているのかはまた改めて尋ねてみたいが、これも効果的な取り組みだといえる。
このほかにも、自動車向けや機械向けの「産業資材」用の生地製造を請け負っている工場は数多くある。衣料品向けよりも数量が多く受注が安定しているというのが、各工場共通の答えだった。
有名ブランドとの取り組みはたしかに一般的には華やかで夢があると受け取られる。
だが、実際のところ一定規模の工場の経営を支えるだけの数量が求められるケースは多くない。そのため、各工場はその手の複数のブランドと契約することで経営を維持しようとする。必然的に多品種小ロットになる。
それは「オカズ」として残しつつ、産業資材も含めて、雑貨などの大量生産向けの受注も確保できるような取り組みを国内産地企業はもっと積極的に考えた方が良いのではないかと思う。
例えば、近年ならアニメ・漫画グッズやエンタメ向けのグッズといった雑貨類なんかは数量が見込め易いのではないかと思う。また当方が思いつかないような用途も世の中には存在するだろう。そういう取り組みを積極的に開拓してもらいたいと切に願っている。
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