

子供のころにはプロ野球選手、相撲取り、政治家は随分と老けて見えた。
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「オッサン」「おじいさん」に見えていた。今でもそんな風に見えてしまうことがあるが、よく考えてみると当方よりも年下ばかりになってしまっている。
4月が終わると当方はついに55歳になってしまうのだが、よく考えてみるとついに「サザエさん」の波平の年齢を越えてしまう。波平は永遠の54歳なのである。
まあ、現在にあんな54歳はなかなか存在しないのだけれども。
波平の服装もアニメでは時代が下るごとに少しずつモダナイズされてはいるが、当方が子供の頃の祖父世代のイメージをいまだに色濃く残している。
ざっくりというと45年前の60代・70代のイメージが波平だと感じる。
さて、昨年4月から隣組の組長を持ち回りで務めてきたが、今年3月末で任期が終わる。これまで亡父に丸投げしていた近所づきあいをやったわけで、近所の60代・70代・80代と関わる機会が圧倒的に増えた。
もちろん、俳優や歌手みたいにイケてるジジババはいない。いないどころか皆無である。が、服装に関していうと、波平みたいな人はいない。服装でいうと若い世代とほとんど大差がない。
男女ともに服装のエイジレス化が進んでいると感じ、特に男性はほぼエイジレス化が行き渡ったのではないかと思う。
チノパンや綿パンに夏ならTシャツかポロシャツ、冬なら長袖トレーナーやフーディーの上からダウンジャケットやフリースといった服装ばかりである。そしてアディダスやナイキ、ニューバランスのスニーカーを履いている。
もちろん、顔を見れば相応に老けているのだが、例えば黄昏時に後ろ姿を見たら、年齢がわからないという男性は格段に増えた。
2010年代の半ばにラジオ番組にゲスト出演したことがあるが、その時の話題が「服装のエイジレス化が進んだ」という話題だった。そこから10年前後が経過して、今ではもっと服装のエイジレス化が進んでいる。
かくいう当方も30代、40代、50代とあまり服装を変えていない。なんならビッグサイズが復活してから、30代のころに買った服をまた着用したりもしている。
このエイジレス傾向には様々な理由が考えられる。
1、昔ながらの中高年らしい服を売っている店が減った
2、店が減っているのでメーカーも減っている
3、良くも悪くも気持ちだけが若い中高年が増えた(暴走している人もいるが)
4、ユニクロが全国に普及した
あたりではないかと思う。
特に自宅の近所では、ウルトラライトダウンジャケットの老人着用率は驚異的で体感では7~8割に上るのではないかと感じられる。
今回、何が言いたいのかというと、今のように服装のエイジレス化が行き着いてしまえば、業界が画策して失敗し続けてきた「シルバー向けブランドの確立」というのはもう不可能なのではないかということである。
不可能というより不要なのではないかと感じる。
近所の老人層とそんな話をすることはないが、今の服装に不便を感じているというそぶりは見えない。また母方の叔父二人も70代に突入しているが、ワークマンやユニクロを愛用していて、不便だと言う話を聞いたことが無い。
「もっと安くて丈夫な服が欲しい」とか「もっと吸水速乾性が高い服が欲しい」とかそんな要望は聞いたことがあるが、「テイストが云々」とか「ディテールやシルエットが云々」という要望は聞いたことがない。
そうなると、ワークマンやユニクロの服で対応可能だということになる。
もちろん、老人になると背が縮んだり、背中が丸くなったり、筋力の低下によって太ったりと、体型が変わる。それでも恐らくは既存のユニクロやワークマンのサイズアップなどで対応できるだろうし、そのことにひどく不便を感じているという老人層からの声を聞いたことが無い。
これが、業界各社が2005年ごろから画策を続けてきたのに「アクティブシニア向けブランドの確立」が失敗し続けてきた理由だろう。
ワークマンやユニクロに限らず、多分、中年時代から愛用しているブランドの製品で十分だという今の老人層も多いだろう。サイズアップや丈詰めくらいで対応できるのだろう。
そうなると、今後も「アクティブシニア向けブランド」というのは確立できないだろう。というか恐らくは求められていない。ユニクロに満足できなければドゥクラッセあたりで十分だろう。
そして、後期高齢者になって体の様々な機能が低下すると、シルエットやテイストが云々よりも尿漏れ対応とか消臭抗菌とかそういう機能性の高い服が求められるようになるだろうし、さらに機能が低下すると寝たきりでも着せ替えやすい機能とか体に負担がかからない機能とかそういう服が求められることになる。
そのように見て考えると、2005年ごろにぶち上げられた「アクティブシニア向けブランドの確立」というのは、需要自体が極端に少なかったのにそれを業界関係者やマーケティング関係者が見誤ったか、ポジショントークをしたか、のどちらかと言えるのではないか。
結局メディアやセミナーでは大騒ぎされたものの、何も起きずに終わった。これが答えであり、今後も需要は増えないだろうと思う。
そんなわけで、来月末には当方はついに磯野波平の年齢を越えるのである。
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