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20代は推し活や海外旅行に積極的、背景に賃上げの影響か

クリエイティブディレクター
HAKATA NEWYORK PARIS

 1月の半ばくらいだったか、日経新聞のある記事が目に止まった。ヘッドラインには「20代、消費けん引役に」「賃上げ、海外旅行も旺盛」「11月、全体は4ヶ月連続減」とあった。総務省が1月10日に発表した2024年11月の家計調査をもとに作成した記事のようだ。それによると、実質の消費支出が4ヶ月連続のマイナスになる一方、若者層は海外旅行や家電の購入に積極的という。背景には若年層で賃上げが先行している恩恵もあるようだ。本当にそうなら、若者の消費を持続させることがアパレル業界にも好影響をもたらすと思うのだが。実際にはどうなのだろう。

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 2024年11月の家計調査では、消費支出は実質で前年同期比0.4%減だったが、名目では3.0%増となり、年代別では25歳~34歳の働く若者層が前年同期比3.8%増と全世代を上回っている。データ分析会社のナウキャストがクレジットカードのJCBがカードの決済額を元に算出したデータでも、11月の20~24歳の消費額は前年同期比で24%も増加。25~29歳も9%増といたって堅調に推移している。ナウキャストは20代前半は家電などの機械器具、宿泊や旅行などへの消費が強いと分析する。

 観光庁も海外旅行の消費額を発表した。こちらは2024年1~9月が19年同期比で20代が15%増と、年代別で唯一19年を上回っている。それに対し、全体の海外旅行消費額は15%減というから、若年層の旅行需要が突出しているということか。ただ、これらのデータを見て、20代が個人消費のけん引役になっていると、本当に判断していいのか。以下のような20代の消費マインドと実需の傾向には因果関係がある。

20代の消費マインドと実需の傾向
●家電購入に積極的 → ガジェット(デジタル家電)などの消費が堅調
●アイドルやアニメの人気 → 若者は推し活には惜しみない投資をする
●旺盛な海外旅行 → 人気の韓国は近場で旅行に行きやすい
●クレジット消費額の増加 → スマホ決済の普及で与信力が必要

 つまり、20代が何にお金を使っているかの因果関係を考えると、消費額が増えるという必然ではないかということだ。

 例えば、「家電の購入に積極的」のは、若者にはデジタル家電無しの生活はありえないのだから、消費が堅調なのは当然である。「アイドルやアニメなどの推し」は、若者にとって生きがいや活力を得るものだ。他を削っても惜しみない投資をすれば、消費が上向くのは言うまでもない。「K-POPやコスメ、グルメなどの韓国ブーム」は若者の間では根強い。しかも、韓国は距離的に日本から近く、LCCといった格安の交通手段も旅行を後押しする。クレジット消費額は、若者層の間で買い物などをスマートフォンで済ませる行動(キャリア決済は利用額に限界があるので、与信力の高いクレジットも利用)が定着した以上、こちらも増加するのは当たり前だ。

 さらに人手不足で賃上げしていることもある。若者の場合、独身であれば可処分所得は比較的自由に使うことができる。食費や家賃、教育費、貯蓄などを考えなければ、収入が増えるとその分を自分の趣味などに費やすことができるわけだ。円安の影響で原材料費や物流費が値上がりし、物価が高騰している。その分、賃上げが追いついていないことで、実質所得は低下していると言われる。これは全世帯に言えることだが、若者層はガジェットにしても、アイドルやアニメにしても、韓国旅行にしても、自分の趣味嗜好に合致すれば値上がりも気にせず、お金を注ぎ込む。インフレ消費が生み出した結果とも言えるだろう。

 ただ、課題がないわけではない。デジタル家電やアイドル、アニメ、韓国旅行で、若者の消費が増えているのは、商品やサービスの価格が比較的手頃だということ。安くて数千円から高くても十数万円でしかない。だから、自分の収入を考えてもお金をかけやすいのである。消費増のデータは相対的なものだから、ファミリーや高齢者と比べ需要が多ければ、若者層が消費する額は増えることになる。ただ、少子化で若者の人口は高齢者層に比べると少ないから、消費額が増えても全体の個人消費を押し上げるまでには及ばない。今後、マイカーや欧米旅行などより単価が高いものへの消費が進むかがカギを握ることになる。

古着人気を上質品販売の追い風に

 では、若者層の消費増がアパレルにも波及するのだろうか。日経新聞の記事には、アパレル関連の消費が増加しているとの記述はない。衣料品については、デジタル家電や推し活、韓国ブームほどの消費意欲は起きていないと見られる。ただ、唯一の光明は古着市場の拡大が起きていることだ。Z世代を中心に若者の環境意識が高まり、新品より古着に目をむける傾向が顕著になっている。あるシンクタンクによると、中古ファッションの市場は2025年に1兆4900億円と24年比で16%も増える見通しという。

 また、デフレの長期化で格安の衣料品が浸透したが、すでに飽和状態になっている。しかも、アパレルメーカーや商社などが価格を抑えるために、素材の調達から企画デザイン、製造までにおいてコストダウンを図り生産を効率化させた。これにより、市場には同じようなデザイン、カラー、素材の商品が溢れてしまった。そうした商品に対し、若者層の間では没個性を感じ始めているのも確かだろう。その反動として、元がデザイナーブランドやインポートものの古着はデザインや色、柄などが個性的で、クオリティが高い。ヴィンテージの商品はなおさらだ。ファッションに関心がある若者層を惹きつけるわけだ。

 アパレル市場は新品が1991年までは拡大していたが、以降は年率で2%ずつの縮小に転じている。このペースでいけば、2050年代には現在の半分の4兆6000億円まで縮小する見通しというから、アパレル業界にとってはまさに危機的な状況がすぐそこまで来ている。ただ、見方を変えれば、古着がアパレル市場の半分を占めるわけだから、前出のように着古してもデザインが個性的だとか、クオリティが高いもの、ヴィンテージのニュアンスを感じるものでなければ、古着になってもすんなり売れるとまではいかない。つまり、新品でそうした魅力的な商品が一定程度売れないと、古着市場にも売れる商品が流通しないと、考えることもできる。

 2024年8月、ある広告代理店が生活者調査を公表した。それによると、10~20代の2人に一人が買い物の際に「新品を買わず中古品を意識している」との結果を得たという。しかし、これも突き詰めれば、ファッションに敏感な若者は、単に安いだけでデザイン性や素材感、クオリティなどに価値(再販価値=リセールバリュ)を感じなければ、購入しないということではないか。逆に中古品でもブランド価値が高ければ、進んで購入するのだ。国内ブランドではコムデ・ギャルソンやエンフォルド、サカイなど。海外ブランドではジルサンダー、ヴィヴィアンウエストウッド、マルニ、メゾン・マルジェラ、マッキントッシュなどが中古品でも爆発的な人気を誇るのがそうだ。

 当然、これらの人気ブランドは再販価値が高いわけだから、新品も一定程度は売れていく。今はネットオークションやメルカリなど、古着店以外でも中古品売買のチャンネルがいくらでもある。だから、新品を購入する際に「中古品になるといくらで売れるか」を考えて服を選ぶお客も増えている。メルカリの調査によると、中には値札を外さずに服を着る人もいるというから、新品の価格やブランド価値が中古品の流通を決める裏返しであるのは間違いない。

 デザインや素材感が良く、クオリティが高いブランドが中古品でも売れるのは、新品よりも価格が安いからだ。若者層はいくら可処分所得が多いといっても、年齢的には年収がそれほど高いわけではないから、消費する額も限られてくる。ガジェットや押し活、韓国旅行で消費が進むのは、自分の懐を考えた時、数千円から十数万円の範囲で収まるからだ。とすれば、若者の収入が欧米並みになれば、どうだろうか。少なくとも、デザインや素材感が良く、クオリティが高いブランドは新品でも売れていくのではないだろうか。つまりは若者を含めて全世代の年収をアップさせることがカギになる。

 そして、アパレルが復権するには低価格、大量生産のモデルを改め、中古品になっても売れるような商品開発を進めていくべきではないか。大量生産、低価格、大量消費。そんな時代に逆行するアパレルビジネスも登場している。創業からメイドインTOKYOを旗印に国産100%のウエアを手がける「Re made in tokyo japan」がそうだ。代表はコムデギャルソンやイッセイミヤケなどのブランド向けに国産品を提供する繊維会社の出身。東京都内に残るボタン加工、生地の裁断など工場を活用しサプライチェーンを生かしてカットソーなどを製造したところ、全国の衣料品店から百貨店までに販路が広がった。東京都中央区製の服を銀座のお店に卸す。出来立てを売るベーカリーのようなビジネスモデルが若者を中心に受けているのだ。

 全国どこでも買える安い服より、歴史やストーリーをもつ逸品へウォンツが若者の間にでも拡大。それには工場より工房、量販店より個店という事業者の方が相応しい。今後、全国的に若者の収入が高まり、金銭的な余裕が生まれれば、割高な商品でも購入できるようになる。一方、そこまではできなくても、中古品なら手を出せる。そんな消費意識に変わりつつある。2024年10月の国政選挙で国民民主党は、「基礎控除等を103万円から178万円に引き上げる」政策を掲げ、議席を4倍に増やした。若者層を中心に多くの消費者が103万円の壁が撤廃=減税されれば、手取り額が増えてその分を消費に回せると考えたからだ。

 この政策は先の臨時国会で、自民党税調のラスボス、宮沢洋一氏に国民民主党はうまく丸め込まれ、2025年中には123万円にとどまることになった。財務省は減税に反対するわけだから、国民民主党の政策を呑めるわけではないのは理解できる。ならば、若者層を含めて働く全世代の年収をアップさせていくことを優先的に考えなくてはならないのではないか。でないと、消費マインドは改善しないし、個人消費も増えてはいかない。若者だから自由に消費できることも、景気の回復には欠かせない。

 若いうちは使える金があれば、使う。それは何も無駄遣いをしろという意味ではない。使うべきものを絞り込んで、大いに投資しようということだ。これもありだと思う。ただ、こればかりはアパレル業界単独ではどうすることもできない。若者層を含め、全勤労世帯の年収を増やすことが不可欠になる。その政策が実現することを期待して、それに対する商品開発などを準備しておくしか、今のところは手がないようだ。

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