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ネットスーパーを制するものがECの覇者になる? ウォルマートが提供する独自のネットスーパー体験

ネットスーパーを制するものがECの覇者になる? ウォルマートが提供する独自のネットスーパー体験

在米28年のアメリカン流通コンサルタント
激しくウォルマートなアメリカ小売業ブログ

■筆者のコンサルティングはクライアントにタブレットを差し出すところから始まる。

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雑談を交えた後、アップルiPad Proを机に置くのだ。起動後にウォルマートのアプリを指差す。

参加者の目が13インチのスクリーンに釘付けになる。

「世界最先端の売り場を見せますね」と言うと「画面を動画撮影して!」との声が飛ぶ。

未来の売り場となるアプリ下のタブ「マイ・アイテム(My Itmes)」を示すのだ。

ウォルマートはバーチャルな売り場を決して「セールス・フロア」とか「ショッピング・エリア」とは言わない。

"私の品"となるマイ・アイテム(正確には複数形となるアイテムズ)が「本物の売り場」だ。なぜなら自分が購入する"私の商品"しか、そこに並んでいないからだ。

画面のトップには食品スーパーの売り場に入ったときのように「フレッシュ・プロデュース(Fresh Produce)」が最上段にくる。

これまで購入した履歴から、購入する可能性の高い順番で野菜・果物が並べられているのだ。

顧客が売り場に入った途端に商品陳列が自動で配置転換しパーソナライズ化されるようなものだ。

野菜・果物売り場の次には「乳製品と卵(Dairy & Eggs)」が表示される。その下にはグローサリーで常温保存が可能な缶詰等の「パントリー(Pantry)」がくる。

そして「キャンディ(Candy)」に「シーズナル・グローサリー(Seasonal Grocery)」「ベーカリー&ブレッド(Bakery&Bread)」「コーヒー(Coffee)」「デリ(Deli)」等と並ぶ。

買い物頻度によってセクション売り場が構築されるように表示される。カートを押して売り場にはいると野菜・果物コーナーそして顧客がいつも購入する頻度に応じてフロア構成に商品配置が変更するようなものだ。

クライアントは「こりゃー、凄い!」と声を漏らしながら夢中になって画面を覗き込む。

あとは購入したい野菜等を商品画像の下にある「+加える(+Add)」ボタンをタップしてカートに入っていく。

ネットスーパーのバーチャル売り場を見てもらいながら、ウォルマートのEコマースが2022年第2四半期から二桁成長を続けており、ここ8四半期(2年間)の平均成長率が22%の増加と安定していることを告げる。

「100兆円企業の1事業部が全体売上の18%に達している」と話すのだ。

控えめに言っても"熱狂状態"にあるウォルマートのネットスーパーは米国内で40%近くのシェアを獲得。

調査機関のブリック・ミーツ・クリック(Blick Meets Click)とマーケイタス(Mercatus)による共同リポートによるとウォルマートは昨年6月末時点でネットスーパー市場でダントツとなる37%のシェアを得ている。ネット通販最大手といえばアマゾンだ。

アマゾンのEC全体のシェアは40%前後。ただしウォルマートがネットスーパーでアマゾンをジリジリと追い詰めている。

筆者はウォルマート・ネットスーパーを「オセロの角(四隅)を取っている」と喩える。オセロゲームで角を取ると拠点として「絶対にひっくり返されない石」を増やすことができる。

4,000店舗以上の店舗ネットワークを拠点とし、毎日の買い物である生鮮品等をネットで購入でき、宅配にピックアップと便利に受け取れる。

ネットスーパーを制するものが今後、「ECの覇者になる」と予言しているのだ。

 商品をカートに入れた後にチェックアウトを行う。直前に「買い忘れないですか?」とリマインダーだ。いつも購入している品で今回カートに入っていない商品がポップアップするのだ。

チェックアウト後には代替品のチョイスができる。

ネットスーパーで購入する商品がすべて店在庫としてあるとは限らない。ときには売り切れになっている場合もある。

ネットスーパーでは顧客が「諦めるか?別の商品にするか?」を決められるようになっている。

ここでチョイスされる代替品の選択で、ネットスーパー売上に大きく影響することはあまり知られていない。

なぜなら代替品となる類似品3アイテムを列挙される場合、スポンサードが可能になるのだ。

日本のカレールーでトップシェア2社を喩えとして事例に上げると分かりやすいだろう。

日本のカレールー・トップはエスビー食品とハウス食品の2強だ。

例えばウォルマート・ネットスーパーでハウス・バーモントカレーをカートに入れて注文した際、ピッキング時に在庫になかった場合に代替品として「エスビー・ゴールデンカレー」や「とろけるカレー」を選択できるようにしておく。

食品メーカーとしては顧客にブランド・スイッチしてもらいたいため代替品でスポンサーになる。

ハウス食品もブランド・スイッチに対抗してバーモントカレーがない場合に「ジャワカレー」「こくまろカレー」を代替品としてスポンサーする。

ネットスーパーにおける代替品スポンサーはウォルマートにとってカレーよりも美味しい。代替品にスポンサー商品が増えるほど、広告代理店事業部にお金が入ってくるのだ。

クライアントに「ウォルマートでは広告の利益が数年後、世界に展開する1万店以上で上げる利益を超えます」と話すと、両腕を組み、天を仰ぐようにして考えを巡らす。

 日本の流通コンサルタントはウォルマートのネットスーパーを必死に隠す。なぜならば彼らにはバーチャルな売り場をもっていないからだ。

筆者は普段からネットスーパーで買い物しているからこそ「マイ・アイテム(My Itmes)」に商品が揃うのだ。

たまにアメリカにやってくるだけではアプリで最適化されたネットスーパーはできない。それ以前にアメリカに現住所等がないからネットスーパーにサインアップ(新規登録)ができない。

もっといえば日本でも日常的にモバイルアプリ等を使っていないから、そもそもネット展開が理解できていない。

したがってアメリカに視察で来てもネットスーパーを行わず店舗を見て回るだけとなる。

 米国流通視察にウォルマートのネットスーパー体験は絶対に欠かすことができないカリキュラムとなるのだ。

トップ画像:ウォルマートのネットスーパー体験をするクライアント。「動画で撮影して!」の声に、売り場となる「マイ・アイテム」に目が釘付けとなる。

⇒こんにちは!アメリカン流通コンサルタントの後藤文俊です。後藤のコンサルティング手法は助言等のアドバイスをしないことです。コンサルティングを英語にすれば、リアルに事例を見せながら「だから何?」の"So What?"に、原因として「なぜ?」の"Why So?"を共有することです。洞察として「では我々は何をすべきか?」の"Now What?"をシェアします。昔のコンサルタントは上から目線で「アレやれ」「コレやれ」の一方通行でした。それが今、通用しません。なぜならアメリカにまで勉強しにやって来る人は、抜群に仕事ができることに加えて地頭が良いから。したがって知識の全部を言って「教える」ということは返って非効率となるのです。むしろコンサルティングで工夫をするのは"喩え"でしょう。ストアアプリをテレビとリモコンの関係に喩えたり、買い物のパーソナライゼーションをドライバーシートに喩えたりすること。ひらめきや気づきの「あっ!」と感じる"アハ体験"をしてもらうのです。ウォルマート・アプリにある「マイ・アイテム」を「売り場」としているのも実は"メタファー(喩え)"です。

 メタファーを見つけるには結構、脳のカロリーを消費します。つまり面倒だからこそ、競合他者はやらないし、したくもない。これもコンサルタントの差別化戦略です(笑)。

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