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身勝手は盗まれる 置き配の盗難が深刻化

身勝手は盗まれる 置き配の盗難が深刻化

クリエイティブディレクター
HAKATA NEWYORK PARIS

ちょうど1年前だったか。政府はネット通販などで注文した商品を「置き配」で受け取る利用者へのポイントを通販事業者に与えると、発表した。トラックドライバーの時間外労働時間が年間960時間を上限に規制する「2024年問題」に備え、運送事業者の負担になる再配達を削減する狙いからだった。このコラムではその課題についても書いた。

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 筆者が懸念したのは置き配に指定した荷物の「盗難」だ。自宅を置き配に指定する場合、戸建住宅では玄関前に荷物が置かれると、無防備なことから盗まれる確率が高くなるからだ。ドライバーがファスナー付きの宅配BOXに収納していても、過去にはBOXごと盗まれたケースもある。オートロックのマンションでも、別の住民が入口ドアを開ける時に、窃盗犯がすれ違いで入ることはできるし、非常階段の塀を乗り越えれば侵入できるマンションもある。このことからすでに置き配の盗難被害が出ていると指摘した。

 筆者は宅配ドライバー風の窃盗犯らしき人物が事務所マンションの非常階段に潜んでいたところに鉢合わせしたことがある。名札は付けず、伝票や業務端末、小型プリンターも一切携行していなかった。窃盗犯であっても、姿形が宅配業者風なら盗んだ荷物を持っていても、すれ違った住民は荷物の受け取りか、不在または誤配かとしか思わない。という実体験をもとに盗難のリスクを取り上げた。

 最近ではマンションからオフィスや店舗、戸建住宅までに防犯カメラが設置されているが、窃盗犯が堂々と犯行に及ぶのはテレビニュースでも枚挙にいとまがない。映像は容疑者が逮捕・起訴されると裁判の証拠になるが、犯罪の抑止力としてはあまり機能していない。率直な感想を書いた。

 ところが、政府の置き配の推進からちょうど1年。筆者の懸念は現実のものになっている。11月のブラックフライデーから年末商戦にかけて、宅配便の置き配が増えるに従って盗難も増加していると、テレビ各局が報道した。その中には筆者が取り上げなかった新たなケースもあった。それが以下である。

◯ガスメーターボックス内への「置き配」を指定
→帰宅後、ガスメーターボックスを開けたが荷物は見当たらない
→宅配業者が提示した配達時の画像には確かに荷物が置かれた様子が写っていた。
→通販サイトに相談しても対応を断られた

◯30代の女性はフリマアプリを利用しネックレスを販売
→荷物を発送し、スマホの画面に配達済みと表示された
→購入者から受け取り評価のメッセージが届かない
→置き配指定で盗難に遭い、商品を受け取っていないと
→受取連絡がないと取引未完了で入金なし

 国民生活センターによると、置き配荷物の盗難相談はコロナ禍の2020年から増え始め、現在では増加傾向にあるという。だが、窃盗犯が検挙され商品が戻ってくることはほぼないとか。すでに2023年度で東京都内で置き配が盗難に遭ったケースの相談は、何と368件。このうち、盗難保険の補償によってトラブルが解決したケースはわずか5件だった。仕方ないと相談しないケースもあるだろうし、全国規模で見ると相当数が盗難に遭っていると考えられる。

 置き配荷物が盗難に遭った場合の保険も万全ではない。ヤマト運輸、佐川急便、日本郵便の宅配大手3社のうちで、盗難保険を用意しているのは日本郵便だけとなっている。ただ、1事故当たりの支払い限度額は1万円(送料、消費税および使用ポイント分を含む)というから、それを超える分は補償されない。しかも、補償を受けるには被害者が盗難の証拠を集めて、警察に被害届を提出することが前提になる。だが、警察でも盗難かどうかを判断しにくいため、被害届を受理しないケースがあるという。

 あるマンションの住人男性は玄関前の置き配が何度も盗難に遭った。そこで犯人を捕まえようと「架空の荷物」を玄関前に置き、位置情報を検索できる器具を貼り付けた。その荷物も盗まれたが、位置情報が同じマンションで、窃盗の容疑者は同じマンションの住人だったのだ。その後、男性は警察に相談し、商品は手元に戻ったそうだ。ただ、警察が窃盗事件として捜査したのか。荷物が戻ってきたのは警察が容疑者を逮捕したからか。このケースを報道したテレビ局は商品が戻った詳しい経緯には触れていない。

 大手宅配事業者が導入した置き配は、指定された場所に荷物を置いた時点で宅配完了となる。ドライバーは荷物の写真を撮って、その添付データと宅配完了の旨を荷物の受取人に送付する。だが、写真を添付しないで配達完了メールだけを送る業者もいるというから、荷物が盗まれたのか、誤配されたのか、わからないケースがある。警察は荷物が確実に配達された証明がなされないと盗難届は受理しないから、荷物の受取人としては厄介なのだ。

ポイント付与よりも法整備を急ぐべき

 そもそも置き配が導入された背景には、ネット通販などで再配達が増える中、ドライバーの残業時間を規制する2024年問題がある。本来なら宅配事業者、ドライバーにとっては救世主となるはずだったが、ここに来て盗難などのトラブルが増えていることは、制度自体に欠陥があると言わざるを得ない。問題を整理してみよう。

荷物受取人:置き配指定
宅配事業者:配達完了(写真添付メールの送付)後
フェーズ1 荷物盗難  置き配後に何者かが盗む→受取人は確認できない
フェーズ2 宅配業者  盗難保険→日本郵便(補償額最高1万円)
フェーズ3 宅配業者  ヤマト運輸・佐川急便→原則補償なし 
フェーズ4 警察    要証拠提出→盗難届→受理
フェーズ5 通販事業者 商品を再配送する場合も(盗難届が条件)

 上記のフェーズ1~5を考えると、置き配の荷物が盗難に遭うと戻ってくるケースは極めて少ないと言える。さらに警察に被害届を出しても受理されなければ捜査はされないし、通販事業者からの再配送もないのだから、利用者は泣き寝入りするしかないのである。そうなると、窃盗犯の思う壺で、置き配荷物の盗難はさらに増えることが予想される。

 また、送り状に書かれた氏名、住所、電話番号といった個人情報が流出する恐れがあり、ストーカーなどの犯罪に発展する可能性があると指摘する専門家もいる。通販事業者や宅配事業者は置き配荷物の盗難は受取人の自己責任だとすることはできても、凶悪犯罪が発生するようなことがあれば、企業としての姿勢が問われるのは間違いない。置き配を推進した政府も、制度を見直して法改正を進めなければならないのは確かだ。

 考えられる対策は盗難団体保険の強制加入である。商法の第三編第十章第三款では「運送保険」が規定されている。ただ、この保険は「運送される運送品の運送中に生じる損害(火災・盗難・破損・水ぬれ等)を補填するもの」で、置き配のように荷受人宅に到着したケースでは適用外となる。そこで、この法律に特例を設けて拡大解釈するか、新たに別の盗難保険を設けるかである。保険の場合、通販サイトの会員で置き配を選択したものを被保険者とし、保険料の支払いを義務付ける。徴収は通販事業者が購入時に商品代金と一緒に行えばいい。

 盗難被害者が位置情報を検索できる器具を貼り付けて自ら捜査し商品を取り戻したケースもあるが、器具の貼り付けを通販事業者に義務付けるのはコスト面から現実的ではない。位置情報の履歴が残るにしても、窃盗犯が器具を取り外すことも考えられる。そもそも警察が位置情報を元に捜査してくれる確証はない。できるとすれば、宅配BOXごと盗まれることを前提に器具を取り付けるくらいだ。ただ、それを義務化するには時間を要するし、どこまでの利用者が取り入れるかは未知数。警察が捜査に乗り出すにしても法改正が不可欠になる。

 2023年の国内の犯罪情勢は、刑法犯認知件数が前年比17%増の70万3351件に上り、2年連続で増加した。自転車盗や傷害などの街頭犯罪は24万3987件に上り、前年から2割も増えている。新型コロナウイルスの感染が収束し、人流が戻った影響から治安が悪化したと見られる。そんな中で、置き配荷物の盗難は事件化されないケースがほとんどだから、これらを加えると街頭犯罪は有に30万件を超えるかもしれない。置き配が犯罪を助長していると言っても、決して言い過ぎではないだろう。

 置き配で盗難に遭う荷物の大半は、通販サイトで購入した商品だという。ほとんどが未使用で、転売可能でもあるから、窃盗犯が自ら使用したり、換金目当てで犯行に及んでいると考えられる。また、通販事業者によっては、AmazonやZOZOTOWNといったロゴマークが印刷された宅配段ボールを使用している。これも中身が想像できるため、窃盗犯を犯行に駆り立てやすい。まさに「盗んでください」と言っているようなもので、ブランディングが仇になっているということだ。

 ここからは炎上も覚悟の上で私見を述べる。日本は法治国家だから、物品の売買には法律が適用される。通販も同様で配送が伴うため、運送契約が結ばれる。そこでは運送人(宅配事業者)が運送品(荷物)を移動する約束をし、荷送人(通販事業者や出店者)がこれに対し、報酬(運賃)を支払うことを約束する。運送状(送り状)には、物品の内容、到達地、荷受人(物品の購入者や受取人)、運送状の作成地、作成年月日を記入する。運送人はこれが運送準備の助けとなり、荷受人は到着品との照合、運賃の確認ができるのだ。

 宅配事業者は荷物の受け取り、引き渡し、保管及び運送に関し注意を怠っていないことを証明できなければ、荷物の滅失(なくなる)、毀損(傷つき壊れる)又は延着(遅れる)した場合は、損害を賠償しなければならない。言い換えると、宅配事業者は注意を怠っていないと証明できれば、損害を賠償しなくていいのだ。その他、宅配に関する細かな取り決めは、各事業者が定める運送約款に規定されていて、通販事業者や出店者が宅配事業者と運送契約を結んだ時点で、それに従わなければならない。当然、受取人も約款に縛られることになる。

 通販では受取人が置き配を承諾した以上、ドライバーが荷物の写真を撮ってそのデータと宅配完了の旨を荷受人に送付すれば、配達は完了したと看做される。宅配事業者は置き配でも荷物の受け取り、引き渡し、保管及び運送に関して注意を怠っていない=物品を受取人宅まで届けて写真を撮影しメールで送付したのなら、荷物が盗難になってもその責任は問われないと解釈される。それが法的な根拠なのだから、通販事業者は荷物が盗難にあっても運送業者に損害賠償を請求できない。つまり、物品の購入者や受取人も補償してもらえないのである。

 ヤマト運輸は2024年の10月28日から11月11日に公式LINEユーザーを対象にアンケート調査を実施した。それによると置き配を選択する理由は、「ドライバーに何度も来てもらうのは申し訳ない」が9割近くを占める。以下、「家にいなくても荷物を受け取りたい」「荷物が届くまで待たなくていい」「再配達の依頼が面倒」と続く。他にも「仕事が忙しくて、指定した時間に受け取れない」「部屋着で会いたくない」などがある。しかも、置き配利用のうち、4人に1人は在宅しているにも関わらず置き配を利用しているとの結果が出ている。

 ドライバーに何度も来てもらうのは申し訳ないというのは、おそらく建前だろう。仮にそんな気持ちでいるのなら、コンビニや営業所でも受け取ることもできるはずだ。しかし、そこまでしないところに、在宅・対面で受け取るのが面倒という本音が透けて見える。仕事が忙しいとか、部屋着で会いたくないとかも、受け取る側の都合でしかない。運送契約では荷受人が指定した時間に荷物を受け取り、本人確認のサインをすることで契約が履行される。それを自己都合、勝手な理由で行わないのなら、盗難に遭っても自己責任と言わざるを得ない。百歩譲って荷物の盗難を防ぎたいのなら、受取人が保険など応分のコストを負担すべきなのだ。

 法整備、運送約款の見直しということでは、置き配では戸建住宅では厳重な盗難防止策を施した宅配BOXの使用を義務付ける。マンションなどの集合住宅でも複数の荷物が収納できる宅配BOXで受け取ることを条件すべきだ。戸建住宅で置き配指定にも関わらずBOXがない場合、ドライバーは置き配せずに持ち帰る。マンションのBOXがフル収納の場合も同様だ。そして、置き配指定で持ち帰った場合の再配達は行わなず、受取人に営業所(PUDOなど)まで取りに来てもらう。生鮮品は期限まで保管するが、それを越えても受け取られない場合は廃棄する。通常配送における不在も再配達に要望は受けるが、再び不在の場合は同じ仕組みにする。

 運送契約、運送約款という法律を改正し、荷物の受け取りに関しては厳格化する。当然、それに違反した場合は当然ペナルティを受けるのだ。ZOZOTOWNの元社長、前澤友作氏風に言えば、「無防備で無事に届くと思うんじゃねえよ」である。大切なことは、荷物が安全に受取人のところへ届くこと。そして、できる限り効率の悪い再配達などを避けてトラックドライバーの負担を減らすこと。そのためには、通販事業者、宅配事業者、受取人の三方が負担しなければならないことがあるのだ。

 政府も置き配荷物の盗難が増えていることを注視する必要がある。通販事業者に対する上限5円分(1回あたり)の補助よりも、盗難による損失の方がはるかに多いことを考えれば、制度設計の見直しや法改正に取り組まなければならない。身勝手は盗まれるということ。2024年問題は解決していないのだから、対策が急務なのである。

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