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再開発後、福岡の街とアパレル事業者はどう変わる?

再開発後、福岡の街とアパレル事業者はどう変わる?

クリエイティブディレクター
HAKATA NEWYORK PARIS

 付き合いが長い専門店系のアパレルがある。そこの社長が年末年始の休みを利用して、九州にやってきた。メールではやり取りをしていたが、直にお会いするのは2年ぶりだ。奥さんと二人で初めての九州旅行。かつてJRが国鉄時代に始めたフルムーンのキャンペーンはすでに終了したので、自らネットを利用して交通手段や宿泊先を手配した催行といったところ。お二人とも東京生まれの東京育ちだから、地方に住んだことはない。社長は展示会や商談で地方に出張することはあっても、2、3日で東京に戻ってしまう。お二人とも海外旅行は何度かあるが、国内をゆっくり巡ったことはなかったようだ。

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 今回の旅行はまず、大晦日に宮崎に飛び、新年を迎えた。2日目は鹿児島の霧島、3日目は熊本の阿蘇で、それぞれ温泉を満喫。4日目、5日目は「福岡に立ち寄るから、会おう」とのことだった。福岡には美味しい食べ物が多いのは、お二人ともご存じのご様子。それも楽しみにされていたようだが、会うとどうしても仕事の話になってしまう。再開発事業の天神ビッグバンや博多コネクティッドの完成後、「福岡の街がどう変貌し、それに沿ってアパレル事業者はどう動くのか」。それは自分たちメーカーにとってメリットなのか、それとも否なのか、気になっていらっしゃるようだ。

 こちらの答えは、「何とも言えません」である。確かに西日本鉄道の本社でもある旧福岡ビルが取り壊され、隣接する都市型SCの天神コア、天神ビブレも解体された。跡地には今春、大型複合施設「ONE FUKUOKA BLDG.(以下、ワンビル)」が開業する。コアとビブレの延べ床面積は合計で約24万平方メートルだった。それだけの売場が再度登場すれば、出店するところも相当数に及ぶだろうから、アパレル業界の期待も高くなる。ところが、西鉄本社から発表されたワンビルのフロア概要とテナント構成では、都市型SCの機能も持たせ、アパレルを一堂に集める計画は示されていない。だから、こちらとしても何とも言えないとしか答えようがなかったのだ。

ワンビルの商業&サービスのフロアは以下

◯地下2階 b!olala(ビオラ♪ラ♪)イオン九州 オーガニック&ナチュラルストア ◯地下1階  iiTo TENJIN /天神のれん街 
◯1階 CHANEL 福岡天神ブティック(~3階)/THE CONTINENTAL ROYAL&Goh
◯2階 NIKE FUKUOKA TENJIN/Maison Kitsuné /Café Kitsuné 
◯3階 SPIRAL GARDEN /中川正七商店
◯4階 福岡天神蔦屋書店 スノーピーク ワン・フクオカ・ビルディング
◯5階 天神福食堂

 ワンビルはビジネス都市のランドマークとなるべく、オフィスやコアワーキングスペースなどを充実させホテルを合体するなど、ビジネスマンの利用をメーンとしている。だから、若い女性が好むアパレルなどのテナントは誘致していないのだ。こうした手法は東京の大手町、日本橋界隈の再開発ビルに倣ったとも言えるが、天神ではコアやビブレの解体前からすでにアパレルはオーバーストア気味だったから、オーナーの西鉄としては両館が無くなってもテナントビジネスでは、それほど困らないとの判断だったと思う。

 ワンビルの東南側では目下、天神ビジネスセンター2が整備中だ。こちらは以前にMMTビルがあったが、メーンのテナントは書店や文具、飲食、雑貨でアパレルはなかった。再開発ビル概要の用途は事務所、店舗、駐車場等なっているが、詳細はわからない。同南側のイムズは多数のアパレルテナントを抱えていたため、2026年12月の新生イムズでもアパレルが出店するとは思われる。概要では用途は事務所、ホテル、店舗、駐車場と発表されているだけで、こちらも詳細は不明だ。開業予定まで2年を切ったから、各テナントとの出店交渉が始まっているのではないかと思われる。

 天神ビッグバンでは他にも再開発中のビルが3つある。これらも計画ではオフィスや店舗などのテナントが入るようだが、大々的に商業フロアを確保してアパレルを誘致するような計画はないと思う。天神には百貨店が岩田屋、福岡大丸、福岡三越と3つ、大型専門店のバーニーズもある。都市型SCは3館が解体されてもミーナ天神、福岡パルコ、ソラリアステージ、ヴィオロ、ソラリアプラザが残る。そして商店街が天神地下街と新天町。さらに天神西通りにはファストファッションを含めた海外ブランドが並び、大名や今泉、警固のストリートにも路面のアパレルショップがひしめく。

 店舗単位で出退店、新陳代謝はあるが、再開発ビルに大々的なアパレルのフロアが求められるとは思えない。天神西通りには無印良品の旗艦店ビルがあったが、それも撤退したくらいだ。とすれば、新しいビルが次々とできても、リーシングされるテナントは各ビルを利用するターゲットに即したものになると思う。アパレルが仕掛けるにしても、何が必要とされるのかをじっくりリサーチして、作り込むなり編集するなりしないと難しいだろう。来福した社長には、「東京もヒルズシリーズでは業態も変化しているでしょ。福岡も多分同じようになるのではないですか。ただ、売れるとは限りませんが」と答えた。

テイストやデザインで誘客は難しい。ならば…

 メーカーの社長も熟慮されていらっしゃるようだ。このままアパレルを続けて後任に譲るべきか。別の事業にも進出し多角化すべきか。いっそのこと、無借金のうちに事業を閉じるべきか。アパレルを続けるにしても、マーケットは完全に成熟している。どうやって生き残っていくか、期することもあるようだ。「お客さん(顧客)のニーズに対し、さらなる価値(企画デザイン)を提供する」「バリュ(価値)に対する価格をお客さん(顧客)示す」「企画デザインや営業に注力するための人材(部下)を育成していく」と、今年はこの3つのテーマに取り組みながら、ビジネスを修正していかなければならないと仰った。

 福岡の再開発が進めば、アパレルの市場が広がると期待する反面、市場の成熟は加速度的に進んでいると、社長は感じていらっしゃるようで、当方の何とも言えないとの答えもある程度は予測されていたようである。デジタル面の整備を進める中で、数年前からはデジタルトランスフォーメーションにも取り組み、単に取引先のバイヤーや販売スタッフの声だけでなく、直に服を着るお客さんの要望なども吸い上げるようにしたという。福岡を含めた大都市圏を除き、地方の市場縮小は避けられない。

 既存のお客さん(顧客)に対し、これまで以上の接点を設けて、さらに上のバリュを提供するためには、「お客さん(顧客)が年収の中で消費にどれくらいの金額を費やすのか」「その中で服飾の比率はどのくらいの額になるのか」「その金額が今後も維持されるのか」「縮小していくのかを見極めながらものづくりを進めていかないと」「お客さんもふところ具合を考えながら物を買っていくはずだから、そこに今後も食い込んでいけるかだよ」と、社長はポジティブな考えを示された。心の中ではそれができなくなれば、ビジネスを畳むしかない。話す言葉の端々にそんな覚悟も見え隠れする。

 価格の安いアパレルはいくらでもある。だから、普段着使いの服にはそこまでお金をかけなくてもいいと考える。だが、ある一点だけにはお洒落したいとか。着るとテンションが上がる服が欲しいとか。TPOを考えた時に着る服にはこだわりたいとか。そんなお客さんがいるのも確かで、そこに年齢軸はない。お客さんの気持ちを捉えた服作りをしないと、自社の価値は提供できないというのが同社のスタンス。社長は常々、それを極めていきたいと仰っていた。言い換えれば、お客さんが服を買う時に高揚する気持ちや服を着る楽しさ体験を創造できることを自社の価値にしたいのだ。

 この考え方はオーバーストアが指摘される大都市の小売業にも共通するような気がする。こんなブランド、こんなセレクション、こんな編集で行くから、結果としてこんなお店になった。従来の店舗価値はこうだったが、それはあくまでお店側の理屈でしかない。自分が着たい服を探しているお客さんには店側の論理など通用しない。購入手段がいくら増えようとも、お客さんは着たい服を揃えていそうな店に行き、買いたいものが見つかれば買うし、そうでなければ買わずに店を去る。これはネット通販でも同じだろう。お客さんは急激に成熟し、アパレル、いわゆる服を買うという行動はここまで変化してきているのだ。

 時代とともに変化したお客さんの買い物行動。アパレルにしても、小売りにしてもこれをしっかり捉えておかなければ、生き残っていけない。もちろん、そこには注力するための人材を確保し、育成していかなければならないのだが。そして、都市が拡大したからといって、並行して市場が広がる=店を出せば売れるということはもうないと言える。それよりも、本当にお客さんが買いたいと思えるものをいかに提供するか。お客さんのウォンツに向き合い、お客さんに選んでもらえる服作りがアパレル受難の時代に生き残るカギになるのではないか。

 年始早々にアパレルの社長にお会いしていろんなお話をし、有意義な時間を過ごすことができた。自戒を込めて今年のテーマにしなければならない。

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