ライトオンとマックハウスの凋落は、ジーンズカジュアル専門店チェーンという売り場がマス層に支持されなくなったということを表している。
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これはジーンズというアイテムが支持されていないわけではなく、ジーンズカジュアル専門店チェーンという売り場がマス層向けではなくなったということである。
ジーンズは、ユニクロにもジーユーにもハニーズにも無印良品にもウィゴーにもグローバルワークにも売っている。マス層はそういうところでジーンズを買うようになったと考えるのが適切だろう。一方の熱心な層はもっと高いブランドのジーンズを買っている。
では、なぜジーンズカジュアル専門店チェーンがマス層からの支持を失ったのか。
1、ジーンズに特化した品揃えが逆効果
要因は様々あるだろうが、個人的には、たくさんのブランドのジーンズを揃えるという品揃えが支持されなくなったからというのが一因ではないかと思う。
基本的にライトオン、マックハウスに限らず、ジーンズカジュアル専門店チェーンというのは、壁面にズラっと各ブランドのジーンズを並べている。
従来型なら、エドウイン、リーバイス、リーの3ブランドは鉄板で、90年代ならそこにビッグジョン、ボブソン、ラングラーが加わった。
ただ、現在の目で見ると、そんな数ブランド以上のジーンズを揃える必要があるのかとどうしても思ってしまう。
せいぜいエドウイン、リーバイス、リーの3ブランドのうちの2ブランドを揃えるだけで十分なのではないか。
各ブランドのジーンズはそれぞれ4シルエットから5シルエットある。現在ならスキニー、スリム、ストレート、ワイドストレート、ブーツカット(フレア)という感じだろうか。
そして、色展開もブルーの濃淡だけで少なくとも5種類くらいあり、そこにまだブラックも加わる。
仮に5シルエットでブルーの濃淡4色ずつを揃えたとすると商品の種類は20種類ということになる。1ブランドで20種類あるのだから、これを2ブランド揃えればもう十分だろう。2ブランドでも多すぎるかもしれない。
今のマス層はカジュアルパンツという商材で、ジーンズだけをそこまで求めてはいないだろう。
メンズだけに限っても、カジュアル時に穿くパンツは2010年代以降は多岐にわたっている。ジョガーパンツあり、スラックスあり、ワークパンツあり、ミリタリーパンツあり、デザインパンツあり、チノパンあり、である。
そうなると、ほぼジーンズだけに特化して、数種類以上のブランドのジーンズばかりを集めている店に行く回数というのは固定客でも減少してしまうことになるだろう。
もちろん、ジーンズカジュアル専門店チェーンにもジーンズ以外のパンツもあるが、ほとんどの場合、チノパン、ミリタリーパンツ(カーゴ、パラシュートなど)、ワークパンツ(ペインター、ベイカーなど)のみであり、結局のところは大枠としては「ザ・アメカジ」の範疇にとどまった商材のみといえる。
一方、ユニクロ、ジーユ―、グローバルワークなど現在のマス層が支持している売り場は、ジーンズもあるが、それ以外のパンツも数多くある。とりわけ、現在のメンズのトレンドを反映するとスラックスタイプはジーンズカジュアル専門店よりもはるかに豊富に揃っている。
そうなると、カジュアル時のみならず、ビジカジ用途としても購入する男性客は増える。女性向けのスラックスタイプも必ず揃えられているので、女性でもこちらで買う頻度は増える。
「ジーンズ基調のアメカジ服しか買えない」ジーンズカジュアル専門店よりも、カジュアル服以外のビジカジ服も買えるとなると、マス層の男性客も女性客もそちらに流れてしまうのは無理からぬことだろう。
2、中間価格帯ジーンズを捨て去ったため
次に価格帯の問題である。
かつてエドウインを筆頭とする鉄板ジーンズブランドのジーンズの中心価格帯は6900~9900円だった。
98年のユニクロブーム以降、ジーンズにも低価格ブームが起きた結果、現在のユニクロのジーンズの価格は3990円である。ジーユーは2990円、ハニーズは2490円である。
その一方で、2005年のインポートジーンズブームでは2万円台~3万円台のブーツカットジーンズが男女ともに飛ぶように売れた。その10年前のビンテージジーンズブームから「高価格ジーンズ」というジャンルが生まれたといえる。
その結果、「二極化」や「中間価格帯の崩壊」などといわれ、6900~9900円のジーンズという商材を、鉄板ジーンズブランドもジーンズカジュアル専門店も軽視する雰囲気が強まった。
円安や原材料費の高騰などの影響によって、エドウイン、リー、リーバイスのジーンズも現在では1万円越えの商品が当たり前になっている。
しかし、例えばユニクロの3990円ジーンズに物足りなさを感じた人が、いきなりエドウインの12000円のジーンズを買うだろうか。
当方はそういう確率はかなり低いと思っている。
ユニクロ価格に2000~5000円をプラスする程度で異なるブランドの物が欲しいと思う人の方が多いのではないだろうか。そうなると、鉄板ジーンズブランドやジーンズカジュアル専門店が捨て去ったかつての中間価格帯ジーンズが求められることになる。
中間価格帯(6900~9900円)ジーンズが完全消滅したかというとそんなことはなくて、現在でもしっかりと残っている。それを展開しているのが例えばアーバンリサーチであり、グローバルワークなどを擁するアダストリアである。実際にアーバンリサーチ、アダストリアの公式通販サイトを見ていると、かなりの品番数で6900~9900円のジーンズが販売されている。
となると、「見捨てられた」とされてきたはずの中間価格帯ジーンズへの需要は実は相当数残っており、それをアーバンリサーチやアダストリアなどが獲得したと考えるべきではないだろうか。
少し以前にライトオンは「圧倒的なジーンズの品揃えを目指す。様々なブランドのジーンズを揃える」と抱負を述べたことがあったが、他ブランドのジーンズを集めれば集めるほど、実は逆効果になる悪手だったのではないかと思えてならない。
少数のコアなジーンズファンはさておき、今のマス層はジーンズを独立した「特別な商材」ではなく、数あるパンツアイテムの一つに過ぎないと捉えていると考えるべきだろう。だからジーンズを多品種集めても効果は薄く、逆にジーンズ「も」あるよ、という品揃えの方が支持されやすいと考えられる。
結局のところ、最大手と2位であったがゆえに、従来型ジーンズカジュアル専門店の品揃えにこだわったライトオンとマックハウスは凋落し、ついでに言うとジーンズメイトも大幅に縮小してしまった。一方、SPA型総合カジュアルブランド化したポイント(現アダストリア)や、都心型セレクトショップチェーンに変貌したジグ三信(現アーバンリサーチ)が企業規模を拡大しているのが、その答えだったのではないか。
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