今年のお買い物を振り返る「2024年ベストバイ」。3人目は登山専門誌「山と溪谷」編集長 五十嵐雅人さん。椎名誠の紀行エッセイ「わしらは怪しい探険隊」を読んだことがきっかけでアウトドアに興味を持ち、大学では山岳部に入部。在学中からアルバイトをしていた山と溪谷社に新卒として入社後、今に至るまで一貫してアウトドア関係の雑誌をつくり続けてきた五十嵐さんが、今年買って良かったモノとは?
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ONCメリノ ロングスリーブTEE
Image by: FASHIONSNAP
FASHIONSNAP(以下、F):1点目は、「ONC メリノ」のロングスリーブTEEですね。ブランドのインスタグラムを見てみると、アウトドアよりもファッション寄りのようなブランドですが、どういった基準で選ばれたのでしょうか?
五十嵐雅人(以下、五十嵐):一番気に入っているポイントは、シルエットですね。適度にダボッとしているので、普段着感覚で着られます。あと、生地が柔らかくて手触りが上質なことや、リブがあることも気に入っています。
F:アウトドア愛好者の間では、インナーはウール派と化繊派で分かれるそうですが、五十嵐さんはウール派ですか?
五十嵐:臭くなりにくい、という点でウールのインナーを着ることが多いですね。あと、化繊のアイテムは「ガチ感」が強くなってしまうのでちょっと苦手なんです。僕は登山に行くときも、できるだけ街に溶け込めるような服装を選んでいます。一番下にファイントラック(finetrack)などの化繊インナーを着るときもありますが、その上にはONC メリノを着ています。組み合わせによって、秋冬春と3シーズン着られるので、使い勝手が非常に良いです。下着のパンツもメリノウールがいいですね。「アイスブレーカー(icebreaker)」や「スマートウール(Smartwool)」など、ウールを専門的に扱うブランドのアイテムはオススメです。
F:周りの登山愛好家の間では、ウールと化繊、どちらの支持率が高いのでしょう?
五十嵐:山登りの種類によりますね。いわゆるハイカー(ハイキングをする人)は、ウールが多いような気がします。沢登りをするような人は、化繊を選んでいますね。ウールは生地の強度があまりないので、ハードな使い方をするとすぐに破れてしまうんです。沢登りをする人の間では、価格が手頃で破れても気にならないという点で、「ワークマン(WORKMAN)」も人気です。
F:五十嵐さんも沢登りをされるんですか?
五十嵐:好きですよ。登山道を歩くのも楽しいんですが、結局誰かがつくった道なので、どこか「歩かされている感」があるんです。ですが、沢は元からそこに存在しているので、自分で開拓ができる。「やらされている感」がないんです。そこが魅力ですね。
山と道 5-Pocket Pants
F:続いては、日本のアウトドアブランド「山と道」 の5-Pocket Pantsです。このアイテムのことは今回初めて知ったのですが、スマートフォンが邪魔にならないという触れ込みに非常に惹かれました。
五十嵐:スマートフォンは、前のポケットに入れると歩くときに腿にあたって邪魔ですし、後ろのポケットに入れるとしゃがんだときに落ちてしまうので、必需品でありながらずっと収納方法に悩んでいました。でも、このパンツに出会ってからは、完全にノンストレスになりました。走っても、中に入れたスマートフォンが揺れないんです。
五十嵐:登山愛好家必携の昭文社の地図も、このようにスムーズに出し入れできます。登山をするとき、スマホと地図は絶対に取り出しやすい場所に収納していたいんですが、サコッシュだと邪魔に感じてしまうことがあるんです。その点、このパンツは必需品が全部ポケットに入る上に、ずり落ちてこないし、重量もあまり感じない。山と道は、社長の夏目彰さんが素材から吟味して、試作品を何度もテストしてから商品化しています。そんなブランドだからこそ、こんなに優秀なパンツができるんだなと、感心しました。
F:今回は5-Pocket Pantsのバリエーションをたくさんお持ちいただきました。
五十嵐:夏用や冬用など、素材違いでたくさん買ってしまいました(笑)。短パンも予約していて、来年の夏に届きます。
F:かなりのお気に入りですね。これは沢登りのときも着用されるのですか?
五十嵐:山と道のはそこそこお値段がするので、沢登りのときは着ませんね(笑)。
パランテ ミニジョーイ
F:3点目は、アメリカのブランド「パランテ(PA'LANTE)」のミニジョーイというザックですね。
五十嵐:トレイルランニングのジャンルのひとつに、FKT(Fastest Known Time=史上最速記録)というものがあります。とにかくスピード重視で、寝るとき以外はずっと走り続け、食事も走りながら取ります。普通だったら半年くらいかかる行程を1ヶ月で走破したりするんですが、パランテはそんなFKTの愛好者が始めたブランドです。ですので、このザックは歩きながら色々なことができるようになっているんです。ストラップ部分に飲み物のボトルやスマートフォン、モバイルバッテリーなどが入れられるようになっていて、充電しながら地図が見られますし、ザックの下部分に設けられたポケットに、歩きながらアウターを出し入れできたりもします。
F:五十嵐さんも、走りながら食事をされるのですか?
五十嵐:FKTに関するウンチクに惹かれて買ったんですけど、そこまではしません(笑)。今、僕がこのザックで気に入っているポイントは、「肩荷重」だということです。登山のときは、荷物が約12kg以上になると「腰荷重」にしないと辛くなります。ですので、たいていの登山用のバックパックは「腰荷重」なんですが、荷物が約10kg以下だと「肩荷重」のほうが楽なんです。
F:パランテは、ウルトラライトハイキングという、できるだけ荷物を軽くする登山スタイルの愛用者が多いブランドだそうですね。五十嵐さんが普段山に持って行かれる荷物の重量はどれくらいなんですか?
五十嵐:本当はひとつひとつの装備の重量を計測しなきゃいけないのですが、僕はそこまでは厳密にやってないんですよ。でも、おおむね8kg台だと思います。10kgを超えることはまずありませんね。ウルトラライトのアイテムは軽さを重視しているので、どうしても耐久性がトレードオフになってしまいます。乱暴に扱うと破れたり壊れたりするので、ハイキングのときだけ使っています。沢登りのときは、耐久性を重視したアイテムを使うことが多いですね。
F:ミニジョーイは3万9600円。なかなかのお値段ですね。
五十嵐:小規模なガレージメーカーなので、どうしても高くなってしまいますね。こういったウルトラライトアイテムは大手のブランドも作っていたりするんですが、心情的にガレージメーカーのアイテムを買って応援したいと思っています。
F:こういうザック類がたくさんあると、収納スペースに困ってしまいそうですが、ご家族の理解は得られているんでしょうか?
五十嵐:確かに収納は大変ですが、使わなくなったギアはできるだけメルカリで売るようにしています。価値があるアイテムだとそれなりの値段で売れるので、メルカリが登場してくれて本当に良かったと思います。それまではショップに買い取りに出しても、驚くような低価格を提示されたりしていましたから。メルカリでは、廃盤になったギアを買ったりもしています。
ギア類は僕の仕事道具でもありますし、妻も登山をするのであまりとやかくは言われませんが、山と関係ない服をたくさん買ってしまうと、一悶着あったりしますね(笑)。
F:ファッションもお好きなんですか?
五十嵐:好きですね。青春時代に「ポパイ(POPEYE)」や「ホットドッグ・プレス(Hot-Dog PRESS)」「宝島」などの雑誌カルチャーの影響を強く受けました。「原宿キャシディ」や、神保町の「メイン(MAINE)」などのアメカジ系ショップでよく買い物をしています。
F:社内でも、山での服装と普段の服装が分かれている方が多いのでしょうか?
五十嵐:山の服を普段でも着る人と、完全に別にしている人で二分されていますね。僕は割とラフな服装で仕事をしていますが、広告部などのいつもスーツを着ていて真面目なイメージの人と休みの日に山で会うと、意外とスポーツ系の吊り目のやる気な感じのサングラスをかけていたりして、びっくりすることがあります(笑)。
スポルティバ エクイリビウムST GTX
F:次はイタリアのシューズブランド「スポルティバ(LA SPORTIVA)」のエクイリビウムST GTXというモデルですね。かなり本格的な雰囲気です。
五十嵐:数年前から山で履いている人をよく見かけるようになって、興味を持ちました。冬の初めなど、それほど寒くないけれど、ちょっと雪が積もっている、というような時期に使っています。特に気に入っているのが、アイゼン(靴底に装着する滑り止め)がきっちりと装着できるところ。あと、こういうゴツめのシューズにしては素材が柔らかく、疲れにくいという点もいいですね。雪の時期以外の登山には、たいていトレイルランニングシューズを履いています。
F:アメリカのランニングシューズブランド「アルトラ(ALTRA)」のトレイルランニングシューズを長年愛用されているそうですね。
五十嵐:アルトラは足の指が伸びるので、とっても楽なんです。初めて履いたとき、感動しました。だいたい2年くらいの周期で、履き潰したら同じのに買い替えています。本当は毎年買い替えたいんですが、そうすると妻に怒られそうなので(笑)。
F:ちなみに、街着のときはどんなシューズを履かれるのですか?
五十嵐:「ヴァンズ(VANS)」のスニーカーや、「クラークス(Clarks)」のワラビーなんかが好きですね。
[La Sportiva] スポルティバ エクイリビウムST GTX男性用 31A ブラック×イエロー 43
ブランド: La Sportiva
メーカー: La Sportiva(ラ スポルティバ)
価格: ¥54,450(2024/12/06現在)
「山と溪谷」オリジナルキャップ
F:最後は「山と溪谷」のオリジナルキャップですね。
五十嵐:以前「山と溪谷」のロゴTシャツを作ったことがあったのですが、意外と好評だったので、色々グッズを作ってみました。そのなかで一番人気なのが、このキャップです。登山と繋がりがない方にも面白がって被っていただいているようで、このキャップを着用したピエール瀧さんの画像がSNSにアップされた、なんてこともありました。
F:この「山と溪谷」のロゴは、第二次世界大戦前の1930年からずっと継続して使われているそうですね。
五十嵐:「山と溪谷」という誌名は、同名の田部重治さんの名著から生まれました。山と溪谷社を創業した川崎吉蔵が、田部さんに「誌名に使わせて欲しい」と交渉して快諾をいただいたんですが、当時はそのいただいた誌名をロゴにするのにかかるデザイン費用が捻出できなかったそうなんです。仕方なく、川崎が手先が器用な友人に下書きを頼んだそうなんですが、なんとその下書きをそのまま雑誌のロゴにしてしまったんです。つまり、90年以上ずっと、下書きのロゴを使っているんです(笑)。
2024年を振り返って
F:改めて、2024年はどんな一年でしたか?
五十嵐:2023年から、台湾の山にハマっています。実は台湾って登山大国なんですよ。日本に、3000m峰(標高3000m以上の山)が21座あるんですが、台湾には200座以上もあるんです。台湾ローカルのアウトドアギアブランドもあり、「山と溪谷」も台湾で結構知られているみたいです。
現地の山好きの方とお話ししていると、気付かされることが多くあります。例えば僕は、アライテントという日本のメーカーが作っている「ライペン(RIPEN)」というブランドのバックパックをよく使っているんですが、台湾の方がこれを見て、かなり興味を持ってくれるんです。どうしても僕らは欧米のブランドに憧れてしまいがちですが、台湾での経験から、最近は日本の良さを再認識するようになりました。
F:私は「山と溪谷」をスマートフォンアプリで拝読しています。登山についての知識はほとんどないのですが、専門的なことがわかりやすく説明されているので、ありがたいです。
五十嵐:そう言っていただけると嬉しいです。登山が好きな人間が集まって、専門的な内容の雑誌をつくっているので、どうしても「これくらいはわかるだろう」なんて思ってしまいそうにもなるんですが、できるだけ丁寧でわかりやすい表現にして、多くの方に伝わるように心掛けています。
F:メディアとしての「山と溪谷」の今後はどうお考えですか?
五十嵐:僕らの命題は、登山者に対して有益な情報を発信することです。紙の雑誌がメインですが、今は若い人は紙媒体をどんどん読まなくなってきています。ですので、全ての登山者に情報を届けるために、ウェブやYouTubeを活用したり、イベントを開催したりするなど、多角的に展開していけたらなと考えています。
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