マーケティング会社のミトリズが実施した衣替えに関する調査によると、「衣替えで不要となった服を捨てる」と答えた世代は、50代と60代以上は8割弱。一方、古着の買い取りなど再利用にまわすと回答したのは30代が4割以上に達したという。ただ、調査データを見ただけで、中高年が不要になった服を廃棄し、若年世代がゴミそのものを減らすリデュース、ものを繰り返し使うリユースを意識していると、一概に決めつけることはできない。なぜなら、以下のような理由が考えられるからだ。
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服を破棄する理由
1.シミや傷が目立ち、劣化が激しく着用不可
2.着用可能だが、流行遅れ、サイズ不適合
3.着用可能だが、リサイクル店が受け付けない
4.着用可能だが、買取価格が極端に低い
5.オークション、フリマアプリは出品が面倒
6.オークション、フリマアプリでも買い手がつかない
5を除いて上記の理由なら、30代でも廃棄に回さざるを得ないのではないか。むしろ、若年世代は着古した服の処分については学習しており、新品の時点でこの服はリユースにまわすことができるか、中古価格がどれくらいになるかを念頭に入れて購入するようになっている。買う側も中古衣料に対しほとんど抵抗がない。そのため、若者向けの服の方が買い手がつく可能性が高く、再利用されやすいのだ。こうした環境がリユース意識の醸成につながっていると言える。
しかし、購入した服を長期間にわたって着続ける中高年では、単純に服自体が劣化でもう着られないのに加え、流行遅れや体型の変化でサイズが合わない場合がある。もしくは、着用可能でも買い手がつかないことから、リサイクル店などが買い取らないケースだ。買い手がつかない場合には廃棄するしかないため、買い取り価格が極端に低くなる。これらは中高年も学習しており、他に選択肢がなければ廃棄を選択せざるを得ないのだ。
中高年は古着の着用には抵抗があるが、若年層はほとんどない。リユースや廃棄にはそうしたジェネレーションギャップも関係している。ただ、中高年だろうと若年層だろうと、服を棄てればそれだけゴミを増やすことになる。行き着く先は地球環境への負荷を増大させる。リユース意識が世代間で極端に違うとは思えないが、服を棄てるのは50代と60代以上が8割弱にも達するのだから、不要な服を棄てないで済む方法を啓発をし、周知、徹底することが不可欠になる。では、具体的にどうすればいいのだろうか。
これまでは、自治体などがゴミを減らす活動として3Rを唱えてきた。前出のリデュース(Reduce)、リユース(Reuse)に加え、資源として再生利用するリサイクル(Recycle)の頭文字をとったものだ。最近ではこれらに物を修理修繕して使うリペア(Repair)、ゴミになるものを買ったり貰ったりしないリフューズ(Refuse)を加えた「5R」が提唱されている。無駄な消費を避け、身の回りのものを大切にしようという考え方である。
これを服に置き換えたらどうだろうか。中高年が服を棄てる6つの理由のうち、2、3、4、6で服の着用が可能ならリユースにまわしていくべきではないか。服を修理修繕して使うリペアは技術が必要になるし、リフューズもすでにある服の廃棄をなくす意味からはズレるので、ここでは言及を保留する。まずはリユースについて現状よりきめ細かな方法を提示し、フローチャートなどで啓蒙していくことが必要だと考える。それをどこがやるかと言えば、個人と自治体や地域社会、企業、学校などが共同で活動していくべきだと考える。
グリーンフライデーを浸透させていくべき
服を購入した以上、その処分についてはあくまで購入者に責任がある。ただ、リサイクル店が買い取りを受け付けないとか、オークション、フリマアプリでも買い手がつかないなど、個人ではこれ以上処分の方法が見つからない場合に限っては、第三者が手を借りる必要もある。菅義偉元総理がかつて語った自助、共助、公助というフローであり、自治体や地域社会、企業、学校が関わることも重要だと思う。目指す目標は共にゴミを出さないということだからだ。では、不要になった服を棄てないためにはどんな方法が考えられるのだろうか。
●シミや傷が目立つ(着用不可) → コットン(Tシャツなど)はウエスに
→ ウール、合繊は自治体や企業が回収
●劣化が激しい(着用不可) → 自治体や企業が回収
●流行遅れ・サイズ不適合(着用可) → 地域のフリマイベントで販売・交換
→ 学習教材として提供(専門学校含む)
→ NPOなどへの寄付
→ 自治体や企業が回収
●リサイクル店が受け付けない(着用可)→ 地域のフリマイベントで販売・交換
→ 学習教材として提供(専門学校含む)
→ NPOなどへの寄付
→ 自治体・企業が回収
●価格が低い、買い手がつかない(着用可)→ 地域のフリマイベントで販売・交換
→ 学習教材として提供(専門学校含む)
→ NPOなどへの寄付
→ 自治体・企業が回収
現状、中高年の中にはネットオークションやフリマアプリの利用に慣れていない人が一定数はいる。それが出品が面倒という気持ちにさせているわけだ。でも、不要になった服をそのまま廃棄すれば、ゴミを増やすことになるわけだから、やはりネットを利用した服の処分方法も学習しなければならない。
また、ネットオークションやフリマアプリで買い手がつかないからといって、廃棄するのは時期尚早だ。不要の服でも着用が可能なら、リアルなルートで処分することも考えるべきだ。地域などで開催されるフリマイベントなどがそうだ。ここでは販売のみならず、同程度の品物との「物々交換」という手法もありだ。また、一般には浸透していないが、学校などへの授業の教材として寄付することも考えられる。小中学校の総合学習で「服は何からできているか」「一枚の布をどうやって立体化しているか」などを、解体することで学ぶことができる。
ファッションのプロを育成する専門学校ならこうしたテーマをさらに突き詰めていくべきだし、素材やリサイクルの研究を行っている大学や研究機関に対しても、教材にしてもらえるなら有益なはずだ。そして、寄付という活動がある。フランスでは「循環型経済のための廃棄物対策法」の一環で、2022年1月から売れ残った衣料品の廃棄が禁止された。売れ残りは寄付やリサイクルにまわさなければならない。違反した場合は最大15,000ユーロ(約190万円)の罰金が科される。今後は個人の不要な服の廃棄も禁止されるかもしれない。
では、どこが服の寄付を受け付けてくれるのか。これは処分する側が調べなくてはならない。寄付を受け付けて、必要な世界中の人に届ける活動を行っている団体である。まずは、Webサイトで各団体の活動内容を調べる必要がある。そして、「ここなら寄付してもいい」と思うところを選べきなのだ。また、本当に寄付した服が必要な人に行き届いているか。どのような地域で、どのように使われるのか。活動団体がサイトなどで公開していることを寄付する前に確認しておくことも重要だ。
ここに来て、「グリーンフライデー」という持続可能な消費を啓発する活動も注目されるようになった。具体例を挙げると、さる11月11日、フリマアプリのメルカリとアパレル11社は啓発イベントをスタートし、リユースなど長く使える品質や普遍的なデザインなどの魅力を訴えた。また、メルカリは同22日から東京・原宿で衣料品のリユースや長期活用を促すグリーンフライデープロジェクトをスタート。これにはアダストリアなどが参加し、回収した衣料品を使ったファッションショーも開催した。
また、会場では来場者が持ち込んだ不要な衣料品をアパレルなどが用意した衣料品と物々交換できる試みも実施された。これにはオンワードHD、ベイクルーズの衣料品やイオンの衣料補修店リフォームスタジオで回収したものが提供されている。メルカリでは男女の衣料品の国内取引が30.5%を占めており、これは2024年3月までの1年間に約5.2万トンの廃棄を回避する量で、日本で年間に破棄される衣料品の10%に相当するという。
グリーンフライデーという活動は日本では緒についたばかりで、認知度はそれほど高くない。というか、活動やムーブメントの趣旨は、できるだけ衣料品の廃棄をなくしていこうということだ。11月には消費を促すブラックフライデーも実施され、こちらはすっかり定着した。ただ、食品などの日用品を除けば、低価格の衣料品は最初からコストダウンを図って生産されているものが少なくない。安価ですぐに買い替えられることを前提にしているため、長期利用にはそぐわないとも言える。つまり、リユース向きとは言い難いのだ。
やはり、長く着ることができて、さらにブランド価値があれば、リユースなどの二次流通でも高値がつく。もちろん、服が割高になれば低所得者は購入できないという意見もあるだろう。だから、中古衣料など値ごろなものの二次流通を進めていくべきなのである。目先の消費喚起を狙って、格安の商品を販売するのではなく、リユースを想定して寿命の長い商品を生み出すこと。これが結果的には廃棄される服を減らすことに繋がるのである。
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