一ヶ月ほど前、Jフロントリテイリング(以下、Jフロント)は、宝石・貴金属や高級時計、バッグなどの買い取り専門店「コメ兵」と合弁会社を設立し、ブランド品などの買い取り事業に参入すると発表した。合弁会社は傘下の大丸やパルコに買い取り店を出店し、顧客が持ち込んだ品物を買い取る。買い取った品はコメ兵に売却し、同店が販売することはない。品物の査定など店舗運営はコメ兵から派遣されたスタッフが行うが、Jフロント側は百貨店の外商客向けにサービスの利用促進や自宅訪問買取をアピールする。百貨店などのスタッフにブランド鑑定に必要な資格取得の支援も検討している。
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Jフロントでは、2024年3月から3ヶ月間、買い取りの実験店舗を大丸神戸店に出店。宝石貴金属やブランドのバッグなどを買い取る事業モデルの検証を行った。また、外商スタッフが顧客の自宅を訪れて買い取りを行ったところ、目標を超える申し出があったという。買い取った品物には状態が良いものが多かったことから、Jフロントにとって収益につながると判断。実店舗の出店にこぎつけた。1号店は2025年夏、大丸松坂屋に開業し、28年2月期までに同店やパルコの約20店に拡大する計画。また、テナントとして出店している既存の中古品買い取り店は期間が満了すれば契約を終了し、自店に入れ替えるという。
ブランド品の買い取りについては、三越伊勢丹HDがすでに買い取り専門店の「なんぼや」を運営するバリュエンスHDと協業し、買い取り店の「アイムグリーン」を運営している。さらに都市型のショッピングセンターや駅ビルもテナントで買い取り店を誘致するなど、リユース市場の広がりに伴ってブランド品の買い取りは活況を呈している。ただ、品物を持ち込む客の側も、買取額はどこが一番高いかを見極めており、買取店は厳しい選別にさらされている。そのため、各社は査定無料、即現金渡し、LINEによる見積もり、買取額アップのキャンペーンなど、様々なサービスを打ち出して競争力を発揮しようとしている。
リユース市場の規模は、2022年のデータ(リユース新聞推計)で2兆9000億円。対前年比7.4%増と13年連続で伸びている。これは同年の全国百貨店売上高(約5兆円)に比べても、6割に相当する規模だ。品目別では、衣料・服飾品が5119億円、ブランド品が3062億円、家具・家電が2747億円、玩具・模型が2119億円となっている。ブランド品を含めたファッション関連が約8000億円に達し、全リユース市場の3割近くを占めている。
リユース市場の拡大を後押しするのが、メルカリなどのCtoC、いわゆる個人間取引だ。CtoCの売上高は2022年で1兆2485億円。10年余りで4割以上を占めるまでに成長している。BtoC(企業対消費者取引)は店舗販売が1兆643億円、ネット販売が5385億円と、全体の約55%を占めるが、市場拡大の勢いはCtoCの方にある。ブランド品などプロの鑑定が必要なものはBtoC、個人の不要品処分はCtoCに、販路が分かれていると考えられる。
Jフロントが展開していく買い取り店はどうか。宝石・貴金属や高級時計、バッグなどの買い取りは、既存の買い取り店を自店と入れ替えることで継続していくという。だから、新店の業態内容はブランド品の衣料やバッグ、宝石・貴金属、高級時計の買い取りを主体にすると思われる。ただ、百貨店の大丸松坂屋と都市型ショッピングセンターのパルコでは客層が違うので、買い取る品目にも多少の差が生じるのではないか。
一概にブランドの衣料といっても、アルマーニやグッチなど海外のラグジュアリーから国内の高級品までと様々。そこで、買取対象衣料の線引きをどうするかだ。パルコの地方店には古着店が出店しているが、これらは販売のみで買取はしない。高価なブランド衣料の買い取りについては、コメ兵の買い取り基準に添っていくのではないか。また、ブランドスニーカーについてはコメ兵が買い取り専門店を運営しているため、鑑定ノウハウを持っているはずだから、大丸松坂屋では展開が無理でもパルコの店舗なら受け付けるかもしれない。
ブランド買い取り店は寡占化し、選別されていく
リユースの市場規模は2030年に4兆円規模に達する(リユース新聞予測)と言われる。百貨店が買い取りの店舗を構えるようになったのも、それだけ市場が拡大しているのならビジネスとして十分成り立つとの目論見からだ。加えて顧客が高齢化している中、百貨店としては顧客の自宅に眠る宝石・貴金属やバッグ、ブランド衣料などを現金化してもらうことで、新たな買い物を促す狙いもあるだろう。もう高級ブランドは必要ないにしても、デパ地下の食品、洋品やアクセサリー、インテリア雑貨は買いたい。ならば、その原資にしてもらえばいいわけだ。
まさに、買い取るから、買って。百貨店の切実な願いではないだろうか。もちろん、客層がぐんと若返るパルコでも、本音は同じだろう。Z世代のお客は新品を購入する前に、中古価格を調べると言われている。つまり、中古価格が高い商品なら新品でも売れる傾向にあるということだ。自店でそうした商品を買い取れば、Z世代のお客はそれを原資にして新品を購入してくれるかもしれない。このサイクルをうまく作って行くことがビジネスになるのである。
一方、闇バイトによる強盗事件が多発している。犯罪者は高齢者宅には金目のものがあると踏んで闇バイトの実行犯をリクルートし、強盗に差し向けている。また、犯罪とは言わないまでも、不要品を買い取ると謳って高齢者宅を訪れ、ブランド品を安く買い取る押し買いなどのケースも増えている。中には、不要になった衣料や靴を買い取ると電話をかけながら、自宅に来るとそれらには目もくれず貴金属はないかと居座り、見せると難癖をつけて代金を支払わないで持ち去ったり、苦情は言わないと誓約書に署名させる業者もいるという。
本来なら消費者保護の観点から、特定商取引は法律で規制されている。突然訪問し勧誘すること、事前に承諾した物品以外のものを売るように迫ることはできない。契約時には書面の交付が必要で、交付時から8日間は無条件でクーリングオフできる。にも関わらず、業者側はあの手この手で法律の隙を突き、巧妙に宝石・貴金属やブランド品を安く買い叩いていこうとする。筆者の自宅にも一度、業者が来て上記と同じような態度で迫ってきたが、たまたま当方が居たので魂胆を見透かし、法律を盾に追い返してやった。
ブランド品の買い取り店は乱立気味だ。つまり、買い取り店は寡占化しているわけで、お客の側に選別されている状況とも言える。買い取り事業者はサービスや利便性の面で差別化しようと、店舗を構えるだけでなく自宅まで買い取りに来てくれる。いわゆる、出張買取だ。Jフロントがこれから大丸松坂屋やパルコに出店していく買い取り店がどこまでサービスを展開するかはわからない。ただ、高齢者としては百貨店の外商がブランド鑑定の資格をもつスタッフを連れ立って、自宅まで来てくれるのならありがたい。何より顔馴染みなら安心だし、百貨店という信用も後押しになる。
パルコは別にして大丸松坂屋では店舗買い取りを原則としつつ、外商顧客には出張買取のサービスも有りにするのではないか。そこで、重要なのが買い取りで得た資金をいかに自店での商品の購入に繋げていくかの二次的な施策だ。せっかくの資金が他店で商品を購入されたのでは意味がない。しかも、買い取るにはキャッシュが不可欠だ。百貨店グループの信用力があるとは言え、買い取りと購買がうまくシンクロしなければ、キャッシュフローは生まれない。そこでポイントで支払うという手法も考えられる。
大丸や松坂屋、パルコは共にポイントカードを発行している。カード会員に対して買い取り額アップのキャンペーンを実施し、全額ポイントにして付与することで囲い込むこともできるだろう。当然、Jフロントとしても想定してはいると思うが。
不況の長期化で中間層が没落し、貧困層が拡大。高額な商品が売れないデフレ禍が続いてきた。しかし、安価ですぐに買い替えられる品物は、リユースされ難いことから買い取りは難しく、廃棄に回りやすい。それが環境に負荷をかけているとも考えられる。マーケティング会社のミトリズが実施した衣替えに関する調査でも、不要になった服の処分については「ごみとして捨てる」が20代以下で70.8%、30代で67%、40代で69.4%、50代で78.2%、60代以上で77.2%と、圧倒的に廃棄される傾向にある。
また、リサイクルショップなどで買い取られても低価格で販売されるため、リユース市場の拡大という点では限定的だ。特に低価格の不要衣料は実店舗で対応すれば、人件費などコスト負担が重荷になるため、買い取り価格を抑えなければならない。多くのお客はリサイクルショップでの「衣料品の買取額は何十円程度」と学習しているから、メルカリなどで処分しようとする。個人売買でフリマアプリが主流になっているのはそうした理由もある。
ただ、ここに来てフリマアプリによる個人売買でトラブルが発生している。購入者が品物が破損していたとか、機器が作動しないなどの理由で返金を求める一方、品物を全く違うものにすり替えて送り返すケースだ。被害者がSNSに投稿したことで、同じ経験をした利用者からもコメントが寄せられ、#メルカリ詐欺がトレンド入りした。今回のケースは、プラモデルやスマートフォンだったようだが、今後衣料品でも詐欺が起きないとは限らない。メルカリ側は最終的に出品者に対して補償を行ったようだが、当初は「個人間の取引には責任を負わない」と突っぱねている。
Yahoo!オークションもそうだが、ネットによる不要品取引では間に人間が入らないことでトラブルが発生するケースがある。宝石・貴金属やバッグ、ブランド品の買い取りにもAIを活用するところが出始めているが、多くの事業者は鑑定資格をもつ専門スタッフの手を借りている。やはり高価なブランド品の買い取りは、人間が対面で当たることで安心や安全が担保される。そうした運営には百貨店グループの方が向くだろう。また、買取額が高いことで市中に流れる資金が大きくなるから、新品の購買を促す契機にもなる。マクロ的に見ると、中古品になっても再利用に十分足り得る商品を生み出すことがリユース市場の拡大につながるわけだ。
エルメスのバッグは中古でも高額で販売され、訪日外国人が好んで購入している。そこにはブランド価値が高いこともあるが、職人による手作りでリアぺサービスが充実し、長く愛用できることもある。子供や孫へと引き継いでいけるからだ。分解掃除が可能な機械式高級時計、リメイクが可能な宝石・貴金属も同じ次元だと言える。ブランド品だから二次流通が可能になるというだけでなく、寿命が長く再利用を前提に生産された商品なら、次のユーザーにも商品価値を理解してもらえる。宝石・貴金属や高級時計、バッグの買い取りビジネスは、そうした視点を持って取り組むことも重要ではないかと思う。
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