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「ネット通販は安い服しか売れない」と言われる理由

「ネット通販は安い服しか売れない」と言われる理由

繊維業界記者・ライター兼広報アドバイザー
南 充浩

繊維・アパレル業界は「業界」とはくくられているものの、それぞれの工程が大きく異なるため、各工程が見ている景色がまるで異なる。

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個人的に気になるのが、素材関係やメーカー寄りのアパレル関係者では「ネット通販で売れるのは激安も含めて割安感のある服が多い」という点である。もっと直截に「安い服しか売れない」という人もおられる。

どれくらいの価格をもって「高い」「安い」と判断するのかは人によって基準が異なるとは思うが、他方、ジャケットが1着5万~10万円するようなブランドが「ネット通販が好調に売れています」と答える例は今となっては珍しくない。

これは恐らく「見ている景色」が異なるのだろうと思われる。

素材関係やアパレルメーカーなど製造寄りの人は、取引される数量ベースで見ていて、数量の大きい方を指して「安い物しか売れない」「安い方が売れやすい」という評価をくだしている。

一方、1品あたり5万円とかの値段の製品が好調に売れているというブランドやサイトは恐らく販売数量はそれほど多くないし、売上高としても100億とか200億円とかには届きにくい。しかし、自分たちの事業体としては好調に伸びているし、営業利益率も高いから「好調」というのは正しい。

恐らくはざっとこんなところではないかと推測される。

当方はご存知のようにケチで値引きされた服しか買わないが、例えば5万円~10万円の服を買うとなった場合、ネットで見ただけでネット通販で買うかというと、それは無い。

せめて店頭で試着したり生地を触ったりしてからネットで買うだろう。何ならそのまま店頭で買うだろう。

理由は、ネット画像で見ただけでは生地や着心地はまるで分からないからである。

以前にも書いたが、練習のつもりで毎月、ネット画像を見ただけでネット通販で買うということを繰り返しているが、正直買ってみて「予想と違う」というのは2~3割ある。体感だとざっくり2割くらいだろうか。

「予想と違う」と感じることの大きい要因は

1、生地

2、サイズ感

の2つである。

まず、1についていうと、画像だけで生地を判断するのは不可能に近い。

手元に届いて触ったり試着してみたりして「思ったよりも柔らかすぎる・堅すぎる・薄すぎる・分厚すぎる」という不満が出てくる。

また表面感も「思ったよりもツルツルしすぎている・ザラザラしすぎている」ということもある。

生地の触感が全くわからないという欠点をネットはいまだに克服できない。消費者向け通販だけでなく、BtoB向けの生地卸サイトがイマイチ重宝されないのはこの点が大きいだろう。

つぎに2についてだが、多くの方も同じ経験があると思うが、サイズ表を見ながら判断したにもかかわらず、荷物が到着してみて試着すると「思ったよりも大きい・小さい」という場合があるのではないか。

当方がネット通販で買うのは、ルーズシルエット商品ばかりなので「小さすぎて着られない」ということはないが、同じサイズ表記の他品番と比べて、小さ目に感じたり逆に大きめに感じたりすることがある。

これは恐らくサイズ表記がトップスなら着丈・ゆき丈・袖丈・身幅・肩幅くらいの表記しかないことが原因ではないかと思われる。シャツならあとは首周りが加わるくらいである。

しかし、トップスならサイズ感を大きく左右する部分としてアームホールの広さがある。袖ぐりというやつである。

アームホールが広ければサイズ感は大きくなるし、アームホールが狭めなら「思ったよりも小さ目」ということになる。

さらに考えられるのが品番によるパターン(型紙)の違いである。

Tシャツとセーターとブルゾンとコートとテイラードジャケットのパターンはそれぞれ異なる。パターンが異なるということは、サイズ表記上の数字が同じでもサイズ感や着心地が同じになるとは限らない。むしろ絶対異なると考えるべきだろう。

そして、同じ製品でも例えばシャツでもパターンの工夫によって、この部分は細く、この部分はゆとりを持たせるというようなことも可能なので自ずと着心地とサイズ感は異なる。

ただ、この辺りのことはネット通販の画面上で数値として表しにくい。またこれらを数値化してサイト掲載するには「ささげ業務」がさらに煩雑で難しいものとなり、ささげ業務の料金がさらに上昇してしまうという難点もある。

そうなると、当方は数万円する衣料品を画像を見ただけでネット通販で買うということはできなくなる。

もちろん、現在は返品もできるが、返品作業をすることがめんどくさいし、場合によっては返品送料が余分にかかってしまう。数万円する商品は店頭で試着をして十分に確かめてからでないと怖くて買えない。

一方、1品5000円前後までのような商品なら外れても「あまり惜しくない(全然惜しくないわけではない)」。多少は惜しいが我慢できる範囲である。

特に1品で990円とか1500円くらいなら当方が感じる傷みはかなり緩和される。それゆえに当方は毎月、値下がりして1品1000~5000円強になった衣料品しかネット通販では買わない。

もっとも、実店舗でも1品590~3990円くらいまでの衣料品しか買わないようにはしているが(笑)。

以上のようなことを考えると、ネット通販で数万円とか10万円を越える衣料品がどんどん売れて、マス層のシェアを獲得するとは到底考えにくい。今のように割安感のある衣料品が今後もマス層にネット通販で買われるのが常態化するのではないかと思っている。

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