気象庁は9月24日、沖縄地方を除く全国各地で9月30日頃から向こう2週間の気温がかなり高くなる可能性があると、早期天候情報を出した。これによると北海道、東北、関東甲信、北陸、東海、近畿、中国、四国、九州と、沖縄奄美を除く全国で9月30日頃からかなりの高温になる予想。熱中症についても9月後半、京都府と沖縄では厳重警戒、関東甲信から九州の広い範囲で警戒だ。各地とも日によっては厳重警戒ランクになる可能性があるから、熱中症対策はまだまだ続けないといけないようだ。
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そこで暑さと衣服の関係はどうか。アパレル業界では8月下旬になると、秋物を少しずつ売場に展開する。こうしたMDスケジュールは、筆者が仕事を始めた1980年代から変わってはいない。背景にはトレンド情報の一つ、マーケット情報を発信する有力雑誌メディア(国内ファッション誌)の存在がある。ファッション誌は実際の月より一月前倒しで発行する。全誌面が秋物一色になるのは10月号で、発行日は8月末だ。読者である消費者の中には、このトレンド情報に触発されて秋物を探し始める。店頭もそれに合わせたMDを組むわけだ。
かつてデザイナーズブランドの店舗では、スタッフが広告塔の役割を果たすので、9月に入ると秋物を着て接客に当たっていた。当然、顧客は先買いするので、9月の下旬になると多少暑くてもトレンドの服に身を包んでいた。もっとも、肌感覚では今よりはるかに涼しかったし、朝夕もぐんと気温が下がっていたため、我慢できないほどではなかった。特に東京は渋谷をはじめ、銀座や新宿と店頭が秋色一色になっていたので、待ち行く人々も「流行に遅れない」とのテンションになり、我先にと秋物を纏う傾向は強かったように記憶する。
あれから40年。トレンド情報の発信も、店頭のMDスケジュールもそれほど変わっていない。しかし、気候は激変してしまった。毎年のように暖冬は当たり前で、熱射病は熱中症に名前を変えた。気象協会は厳重警戒という注意報まで加えている。仮にトレンドの秋冬物を先買いをしても、流石に9月下旬から着こなすことは不可能だ。痩せ我慢というレベルをはるかに超え、着れば身体への影響は免れないと言ってもいい。むしろ逆に「秋色清涼」「クールダウン」「コールドテック」などの企画で、機能性衣料を押し出す方がピンと来てしまう。
その意味では、素材開発も行われていると思うが、3シーズンを通じて通気性・速乾性にすぐれたものが必須になるのではないか。数年前からヒットしているファン付きウェア(空調服)の冬版が開発される日も遠くないのかもしれない。ほぼ一年中、防寒素材を必要としない気候なのだから、たまたまその日が低音なら「温風ファン」を使えば良いわけだ。まあ、熱源をどうするか、火傷や出火への対応などの課題は置いといても、夢グループなんかが開発してテレビ通販で売り出せば、ヒットの可能性はありだろう。
ある熱中症の調査(熱ゼロ研究レポート)では、屋外環境で作業する人の衣服内気温や相対湿度、快適感などがどのように変化するか。ファン付きウェアを着用し、その効果を検証している。空調服で外から取り入れられた空気は、服と体の間を流れる過程で汗を気化させ、水蒸気を外に放出するので、汗が気化しやすい状態を保ちやすくなる。ならば、温風ファン付きウエアはこの逆になるのではないか。服に取り入れられた暖気は、服と体の間を流れる過程で空気の層を作り、体の体温を保つという原理である。
屋外作業をする人々は、厚着をすると作業がしにくいと感じるだろう。だから、温風ファンがあれば、軽装で作業できるという発想だ。そうした機能を軽めのアウターに仕込むというのも「シャレ」が効いて面白いのかもしれない。ファッションでは何でもありのニューヨークでは、厳冬ならシャレの延長線上で、ストリートファッションになりそうな気もするが。
Tシャツライクのウールニットがあれば
多少、空想気味の話になってきたので、現実に立ち返って考えてみよう。夏場にTシャツが着心地が良いのは、天竺やインターロック、フライスなどの織地が薄くて通気性に優れ、なめらかな肌触りであるからだ。厚手のスウェットになると、生地の表面は天竺編みでも裏側がパイル状にしたり、裏毛の編みを毛羽立たせているので保温性が高まる。暑秋、暖冬が続いていることで、これらのアイテムが通年で売れているのも納得がいく。ただ、カジュアル色、ストリートのテイストが強いので、オフィシャルには不釣り合いだ。
Tシャツのような心地いい肌触りで、秋冬のタウンユースに向くアイテムになると、やはり梳毛ニットになる。ここ数年は、量販SPAを中心に「メリノウール」がカテゴライズ化されているが、女性からは着ると「チクチクする」との意見は少なくない。この原因は以下のようなものがある。繊維が太く固いものが多いため、肌を刺激してしまう。タートルネックのようにフィットするものは、どうしても皮膚が薄い首を刺すような感触になる。女性では肌が乾燥しがちな人も多く、摩擦や刺激によって肌が過敏になってしまう。
心地良い肌触りで、オフィシャルを兼ねたタウンユースになると、やはりカシミアに勝るものはない。原料となるカシミア山羊の毛は、繊維が細くしなやかなので、肌触りの柔らかさ・刺激のなさを求める人にはもってこいだ。そのため、ブランドメーカーや大手プラットフォーマーが運営する通販サイトでは、一般のニットとは完全に分けて公開するところが増えている。ユニクロも24年秋冬では、暖冬になることを予測して初秋から梅春までシーズンを跨いで着られる服を強化するとの一環で、カシミアを打ち出した。
カシミアは原料となるカリミア山羊の毛が希少なため、一般の羊毛よりも値段が高く高級品のイメージがある。だが、虫除けなどのケアさえ十分にやっておけば、劣化はしにくく長期にわたって着用できるという利点もある。ユニクロでは、そんなカシミアの価格を改定し、メンズ、レディスともに9990円均一(税込み)にすることで需要喚起を狙うようだ。プロモーション用の写真を見ると、クルーネック、ターツネック、Vネックの長袖しかなかったので、デザイン的には変わり映えしないと思った。
念の為にサイトをチェックすると、レディスではクレア・ワイト・ケラーが手がけるユニクロCの企画としてクルーネックには、ショートセーターの「ノースリーブ」(6990円)や「ショートカーディガン」(10900円)、「リラックスVネック」(12900円)もラインナップ。つまり、同色のノースリーブとショートカーディガンを重ね着すると、「アンサンブル」として着こなせるわけだ。昨年の企画を確認していないので、すでに登場していたのかもしれないが、ニットでは肌触りが良いカシミアだからこそ、組み合わせがきく。着こなしに変化がつけられる点で、売れる可能性もグンと高まる。その点をユニクロも考えたのだろう。
レディスではカシミアは1枚ものよりもアンサンブルの方が秋口や春先にも着れるので実用性が高い。暑ければカーディガンを脱げばいいし、肌寒いと袖を通さずに羽織ってもいいからだ。組織、編み地に変化はないが、何より高級素材だから、アンサンブルは過去からずっとコンサバな「小マダム」イメージを作り上げてきた。1980年代にはブランド「ピエール・バルバン」の定番企画で、カーディガンには金メッキのボタンがついたサロンブティックや高級レディス専門店の売れ筋商材となっていた。
それが40年の時を経て、グローバルSPAのユニクロが企画するようになったわけだ。確かに価格は高く、ユニクロでも1万円前後だが、一度着てみるとずっと着ていたいほどハマってしまう。だが、時代が変わっても、肌触りが良いカシミアには安定したニーズがあるのは間違いない。それがカシミアの魅力でもある。ユニクロ側も長く着られるアイテムを拡充するとの方針を打ち出していることからも、暑秋・暖冬傾向の一押しアイテムに位置付けているのではないかと思う。
惜しむらくは、メンズ向けの企画として「カシミアのTシャツ」を企画してくれないかと思っている。肌触りが良いから裸で着られ、秋冬から春までの3シーズンをずっと過ごせるような企画だ。ヒートテックにアレルギーを持つ人も少なくないと思うので、機能性肌着以上の革命を起こせるのではないか。かつてジョルジオ・アルマーニが一年を通してきていたTシャツがカシミアだった。ならば、ユニクロでも企画できないことはないと思うのだが。ニットは必要ないが、Tシャツなら買って着てみたいと思う。
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