iPhone、Apple Watch、AirPodsが一新:これがアップル社の新スタンダード【7000字レポート】
アップル本社で開かれた発表会の様子
Image by: Nobuyuki Hayashi
アップル本社で開かれた発表会の様子
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iPhone、Apple Watch、AirPodsが一新:これがアップル社の新スタンダード【7000字レポート】
アップル本社で開かれた発表会の様子
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常に話題を集めるAppleの新製品。今回発表されたiPhone 16シリーズ、Apple Watch Series 10、AirPods 4シリーズは、iPhone初のAi機能搭載といったトピックはあったものの、わかりにくいアップデートだったことから「進化が遅い」「驚きがない」といった声も上がった。しかし、アメリカ現地の発表会に参加した林信行は「アップル社の新スタンダード」と表現するほど、大幅な進化があったと総括する。iPhoneをはじめとする新製品は何が新しいのか? 同氏による7000字を超えるレポートをお届け。
アップル本社で新製品発表イベントが開催され、iPhone、Apple Watch、AirPodsの最新コレクションが発表された。ここでは改めて発表会場から見えてきた今回の新製品の注目ポイントをまとめてみたい。
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総評としては、iPhone、Apple Watch、AirPods共に高級モデル以上に標準モデルが頑張ったシーズンだった。
目次
初の「AI世代iPhone」の全容
iPhoneは低価格モデルのiPhone SEを除く全製品が新しくなった。発表されたのは標準モデルのiPhone 16、標準モデルから画面を一回り大きくしたiPhone 16 Plus、プロ機能を搭載し3つのレンズが特徴のiPhone 16 Pro、そしてiPhone 16 Proを一回り大きくしたiPhone 16 Pro Maxの合計4モデル。
毎年、新モデルが発表されると、前シーズン、前々シーズンのモデルが価格を下げて併売されるiPhone。でも、これから買い換えるなら、少し背伸びしてでも最新モデルを買うのがおすすめだ。なぜなら、このモデルを皮切りにiPhoneはAI時代に突入し、使い方が大きく変わるからだ。
今シーズン発表の最新モデルはAIに最適化したプロセッサを搭載しており、これによりアップル社のAI技術「Apple Intelligence」が利用できる。これまでのモデルではAI処理の能力が遅いため使えないのだ(なお、今回の新製品発表で販売ラインナップから無くなった旧モデル、iPhone 15 ProおよびiPhone 15 Pro Maxは旧モデルの中で唯一、Apple Intelligenceに対応している)。
製品名に16を冠したモデルは、値下げされた以前のモデルより1〜3万円ほど高価だが、間もなくiPhoneの利用がアプリ中心から徐々にApple Intelligence中心になっていく可能性を考えると、今後より長く使い続けられるのは最新モデルになりそうだ。
新技術「Apple Intelligence」はなんで大事?
では、Apple Intelligenceではどんなことができるのか。実は日本では、まだしばらく利用できない。アップル社はこの技術が日本に対応するのは来年と発表している。もっとも米国でも最初から完成形で出てくるわけではなく、徐々にできることが増える形で提供予定だ。
初期のApple Intelligenceでできる主なことは、以下の通り。
- ページに表示された文章の要約
- 過去に撮った写真を言葉で指示して探し出す
- グループメールでのやり取りの要約
- 通知を緊急性の高い順に優先的に表示
- こんな絵文字が欲しいと言葉で説明すると、その絵文字を作ってくれるGenmoji機能(アップル製品同士であればメッセージやメールで使える。他社製品では言葉の説明が表示される)
生成AIは、よく平気で嘘の情報を生成するなどと言われるが、アップルは責任あるブランドとして、まずはそうした間違いが起きにくい使い方から機能として提供を始めている。
通知を緊急性の高い順に優先的に表示することが可能。 Video by Apple
横についたボタンを押してSiriを呼び出すと、画面全体がカラフルな光に包まれ、ユーザーからの頼み事を聞く状態になるので、この状態で声で頼み事を話しかけたり、文字で打ち込んで利用することができる。このSiriの機能などを入り口にしつつも、餅は餅屋で例えば他社が作っているChatGPTなど他のAIサービスなどとも連携して、ユーザーをアシストするのがApple Intelligenceの特徴だ。
Siriをアクティブにした時のイメージ。 Video by Apple
面白いのは、年末に提供予定の「ビジュアルインテリジェンス」という機能だ。カメラを向けた先にある被写体についていろいろ教えてくれる。例えばお店の看板を写して評判を調べたり、動植物にカメラを向けて種類を調べたり、勉強のノートにカメラを向けてその内容について詳しく教えてくれる、といった具合だ。
将来的には、Siriに「子どものお迎えの前にミーティングを入れたい」といった相談をすると、移動時間やその時間の渋滞情報を考慮してミーティングを何時に終了させるべきか教えてくれるなど、より複雑な相談にも乗ってくれるようになる。こうしたことができるのは技術が凄いだけではなく、アップルが徹底してプライバシーに配慮してiPhoneの外に漏れない設計にしていることも大きい。そうでなければ子どもの迎えの時間などの情報は安心して預けられない。
わざわざアプリを起動しなくても色々な情報を調べたり、整理させたり、ユーザーに代わって代行してくれるようになるので、来年後半以降のiPhoneの使い方はアプリよりもApple Intelligentの利用が増えてくるはずだ。それだけに旧モデルよりも最新モデルを選ぶことが重要なのだ。
日本ではこの先1年弱使えないかもしれない機能に割高価格を払うことに納得がいかない人もいるだろう。でも、そんな人のためにアップルはAI以外にも魅力的な特徴を用意している。ブラック、ホワイト、ピンク、ティール、ウルトラマリンという5つの鮮やかな色合いのカラーバリエーションもその1つ。しかし、それに負けないくらい魅力的なのがカメラ機能の進化で、デジタルカメラに負けない操作性と機能を実現している。
デジタルカメラに負けない操作性と機能
iPhone最新モデルのカメラとしての使い心地を大幅に向上させているのが、カメラコントロール⎯⎯iPhoneを縦に構えても、横に構えても自然に指がくる場所にあるタッチセンサーのことだ。ここを押すとiPhoneがすぐに写真(またはビデオ)を撮れる状態に切り替わる。その状態で、もう1度センサーを押して左右に指をスライドさせるとズーム、露出、被写界深度などのカメラ設定が切り替えができる、本物のデジタルカメラ顔負けの操作性を実現している。
カメラコントロールを押すと、瞬時にカメラが起動して撮影状態になる。
Image by: Apple
カメラが起動した状態で、もう1度押して指をスライドすると明るさ(露出)の調整などの操作ができる。
指1本で撮影も調整もできるカメラコントロール機能。
デジカメ顔負けなのは操作だけではない。iPhone 16のカメラは本体の側面に沿って横並びになるように配置が変わったが、これはアップルが「空間ビデオ」または「空間写真」と呼ぶ立体映像や立体写真を撮るため。話題のApple Vision Proでそれらの写真を見ると目で見たそのままの光景が蘇る。
カメラの画素数はこれまで通り。でも、標準の撮影や、高解像度で2倍ズーム撮影する機能に加え、新たに接写撮影の機能が搭載されたため、撮れる写真のバリエーションが大きく広がっている。
また変わったところでは、撮影したビデオの音を加工する「Audio Mix」という機能も用意されている。音がどっちの方向から聞こえてくるかまで記録しておき、カメラに写っている範囲の音だけを強調したり、写っていないところから聞こえてくる音を残したりとビデオで伝えたい内容によって音を後から加工できる。
機能がさらに進化したProシリーズ、価格は据え置き
5倍ズームレンズや映画作りにも使える本格的な撮影機能を備えたiPhone 16 ProとPro Maxも大きく生まれ変わった(なお、標準サイズのiPhone 16 Proのカメラでも、これまでできなかった5倍ズーム撮影ができるようになっている)。
Proシリーズでは、ブラックチタニウム、ナチュラルチタニウム、ホワイトチタニウムに新色のデザートチタニウムを加えた、高級感を感じさせる控えめな色合いの4つのカラーをラインナップ。軽く頑丈なチタニウムボディを活かして画面をさらに大型化し、4K画質で毎秒通常の4倍近い120フレームで映画などに使われるDolby Visionという明暗差の激しい光景を撮影するための規格の映像を撮影できる(映像をスローモーション再生する機能も追加されている)。
さらに、プロカメラマンがiPhoneで撮影した写真でも自分らしい独特の色合いでの撮影ができるようにフォトグラフスタイルという設定が用意されている。同様の設定はiPhone 16にもあるが、Proモデルの方がより細かく色合いをカスタマイズできる。Proモデルでは、それ以外にもプロレベルの本格的な撮影をするための機能や技術が満載だ。
これだけ大きな進化を果たしながら、価格は昨年までのモデルと同じでiPhone 16は12万4800円から、iPhone 16 Plusは13万9800円から、iPhone 16 Proは15万9800円から、iPhone 16 Pro Maxは18万9800円からとなっている(いずれも税込)。
大きく見やすく改良、睡眠時の健康も見守る「Apple Watch Series 10」
Apple Watchも標準モデルが大きな進化を果たした。Apple Watch Series 10は、アップルが独自開発したより見やすいディスプレイを採用し、画面を前モデルより9%ほど大型化。どんなディスプレイも斜めから覗き込むと画面が暗く見えづらくなるが、新ディスプレイはこれまでより40%明るく見やすくなっている。画面は広くなったが、本体は10%薄くスマートになった。元々あったローズゴールドとシルバーに加えて、光沢を放つ黒色仕上げのジェットブラックアルミニウムモデルが選べるようになった。
価格が5万9800円からのアルミモデルに加えて、今回新たに高級なラインナップとして、頑丈さと軽さを兼ね備えた10万9800円からのチタニウムモデルが追加された。カラーバリエーションはスレート、ゴールド、ナチュラルの3色を揃えている。
文字盤では「フラックス」「リフレクション」の2種が新たに用意された。フラックスは画面が下から上に向かって徐々に色で塗られていくのが特徴で、1分間かけて画面全体が新しい背景色で覆われる。もう1つの文字盤、リフレクションは中央から放射状に伸びた線がユーザーの動きに合わせて変化しまるで輝いているように見える文字盤となっている。
内臓スピーカーの音質が改善され、ヘッドホンをつけず本体のスピーカーからの再生でApple Music、Apple Podcast、Apple Booksや他社アプリの音を再生できるようになったり、充電も速くなりわずか30分で80%まで充電できるようになるなど、利便性の面でも前モデルから大きく進化している。
さらにシュノーケリングなどのウォーターアクティビティー用の機能も充実。水深6mまで計れる水深計と水温センサーが搭載された。「潮位アプリ」が追加され、世界中の海岸線とサーフィンスポットの7日間の予測される潮汐情報、満潮と干潮、上げ潮と下げ潮、潮位と潮の流れの方向、日の出と日の入りを調べることもできる。
しかし、最も注目すべきは、睡眠時の「呼吸の乱れ」を通して睡眠時無呼吸症候群になっている可能性を検出してくれる機能だ。世界中で10億を超える人々がかかっていて、高血圧、2型糖尿病、心疾患などを引き起こすリスクがありながらも、自覚できないため発見が難しい睡眠時無呼吸症候群。Apple Watchをつけた状態で、30日間中10日以上睡眠中の呼吸の乱れを測定して、睡眠時無呼吸症候群の可能性がある場合には通知をし、医療機関で受診する際に役立つ情報も作成してくれる。
Apple Watchは、心臓の異常や転倒、交通事故などを察知して救命救急機関にSOSを送るなど利用者の命を守る機能が豊富に用意されているが、最近では大学や医療機関と連携して、多くの人に影響を与えている疾患の克服にも力を入れている。
ちなみにこの機能はOSをアップデートすれば昨年モデルのseries 9でも利用できれば、下で紹介しているApple Watch Ultra 2でも利用できる。
「Apple Watch Ultra 2」はエルメスコラボにも注目
究極のスポーツウォッチ「Apple Watch Ultra 2」は、新色ブラックチタニウムが追加された。本体は「呼吸の乱れ」の診断や内蔵スピーカーでの音楽再生を含む、Series 10のすべての機能が利用できる。
新モデルの発表に合わせてバンドも一新されたが、今回、アップルが力を入れて開発したのがミラネーゼループで、Series 10のチタニウムモデルとUltra 2には本体と同じチタニウム製とカラーで作ったミラネーゼループが用意されている。Series 10チタニウムモデルでは、それに加えてリンクブレスレットも本体と色を揃えたものが選べる。
これだけはない。特に注目したいのは、新たに登場したエルメスコラボの「Apple Watch Hermès Ultra 2」だ。エルメスはこの究極のスポーツウォッチをセイリングなど船での冒険をイメージして再解釈。波からのインスピレーションで作られたアンメールストラップを組み合わせたりケープコッドと名付けられた字体で時刻を表示するエルメスとしては初めてのデジタル文字盤「Martime」を用意した。
エルメスコラボからはメタルストラップが初登場
もちろん、Apple Watch Series 10にもエルメスやナイキとのコラボモデルが用意されている。
エルメスコラボモデルは昨年同様、革製バンドの取り扱いはエルメスの直営店だけで限定的に行い、アップル直営店などその他の店舗で扱う大量生産モデルは環境に配慮した素材のみでの展開となっている。
今シーズンは、シンプルトゥールとドゥブルトゥールの2つの形状と3種の色展開が選べるニットバンド「トルサド」に加え、Apple Watch Hermèsとしては初めてのメタルストラップ「グランH」(ステンレススチール製)も新たに発表された。ナイキモデルでは、NikeスポーツループとNikeスポーツバンドに大胆な新色が用意された。
AirPods Proの特権的機能が、より手頃な標準AirPodsで楽しめるように
世界で最も人気のヘッドホン、AirPodsも全モデルが進化した。
オーバーイヤーヘッドホンのAirPods Maxは、他の製品に合わせて充電端子がUSB-Cになり、ミッドナイト、スターライト、ブルー、オレンジ、パープルの5つの新色でリニューアルとなった。
「一番大きく進化」標準モデルAirPods 4に新モデル追加
シリーズで一番大きく進化したのはお手頃価格の標準モデル、AirPods 4だ。何千もの耳の形状や5000万以上のデータを元に形を見直し、どんな耳にもフィットしやすくなった。充電用のケースもこれまでより10%小型になっている。
注目すべきは、標準モデルとほとんど見た目は変わらないが8000円だけ高いAirPods 4のアクティブノイズキャンセリング(ANC)付きモデルが新たに追加されたこと。周囲の騒音を打ち消し音楽に没頭できるアクティブノイズキャンセリングと、まるで何も装着していないように周囲の音が聞こえてくるトランスペアレントモードで音楽を楽しむことができる。これだけでも嬉しいが、さらにApple Watchの充電器などの上に置いてUSB-Cケーブルをささずにワイヤレス充電できたり、iPhoneの「探す」機能に対応し充電ケースがどこにあるか見失った時、ケースに追加されたスピーカーから音を鳴らして見つけ出すことができる。これらはいずれも高級モデル、AirPods Proだけで利用できる特権的な機能だったが、今シーズンからは差額8000円で利用できるようになる。
AirPods Proはソフトウェアで業界初の試みに挑戦
では特権を奪われたAirPods Proはどのように進化したのか。実は製品としてはこれまで通りだが、ソフトウェアによって進化している。
AirPods Proは元々イヤーチップで耳を密閉しており、音漏れをしっかり防ぎ、ノイズキャンセルング機能においても高音ノイズまでしっかりキャンセルしてくれる点でAirPods 4に対して大きなアドバンテージを持つ。
それに加えて今回、業界ソフトウェアをアップデートすることで、業界でも初となる耳の健康を守るための機能が新たに追加された。
それは、実は世界に約15億人いる難聴を減らすための機能だ。3人に1人が影響を受けている聴覚に影響を及ぼす可能性のあるレベルの大きな環境騒音を低減する予防機能や、数分で診断できる聴力テストのヒアリングチェック機能で定期的に自分の耳を健診でき、必要に応じて医療機関に相談する際に役立つデータを共有する機能なども用意される。さらに軽度から中程度の難聴の人には臨床レベルの補聴器に匹敵する性能を備えた処方箋不要のヒアリング補助の機能も搭載。Apple Watchの睡眠時無呼吸症候群の診断機能と合わせて、アップルが人々の健康促進にどれだけ真剣に向き合っているかが伺える機能だ。
製品価格はAirPods 4の通常モデルが2万1800円、アクティブノイズキャンセリング搭載モデルが2万9800円、AirPods Pro 2が3万9800円、AirPods Maxは8万4800円となっている。
* * *
長く続いた円安で、ここ数年、アップル製品がすっかり高価になってしまった印象もあるが、人生を支えるパートナーとしてそれに見合う価格を標準モデルにもふんだんに搭載した印象を受けた新製品発表会だった。
Nobuyuki Hayashi
1990年からデジタル分野の最先端や最新イノベーションを生み出したきた主要人物の取材を続けているジャーナリスト/コンサルタント。テクノロジーは必ずしも人を幸せにしないと考えを改めてからは、良い未来を生み出すデザインやAI時代を生きるヒントをくれるアート作品、22世紀まで残したい伝統なども数多く取材している。リボルバー社社外取締役。金沢美術工芸大学名誉客員教授。Nobi(ノビ)の愛称でも親しまれている。
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