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一番と言っていいほど、東京らしさを全員が頷く形で叩き出した「バルムング」

Image by: Kara Chung

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一番と言っていいほど、東京らしさを全員が頷く形で叩き出した「バルムング」

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ライター / コーディネーター
倉田佳子

 「トレンドの周期はだいたい20年単位で変わるものだ」と、常々言われてきたものの、正直あまりピンと来ていなかった。実感が伴わなかったからだ。しかし、その言葉が「Y2K」の到来によってようやく腑に落ちた…

 ような気がしていただけなのだと、「バルムング(BALMUNG)」のショーにハッとさせられた。すっかり記憶から抜け落ちていたパンドラの箱が、次々に円を描くように上昇して飛び出すモデルたちによってまばゆい光とともに徐々に開かれていく。

 「Y2K」がいつ、何をきっかけでトレンドとして形になったのかは一概には断言できないが、メインストリームで言えば、間違いなく、NewJeansは火付け役を担っているだろう。ちびTeeに合わせるワイドパンツ、ローライズパンツ、ジャージーなどのスポーティスタイルなど彼女らのクリエイティブチームないしはスタイリストが形にしたスタイルは、間違いなくどこか00年代前後の面影を持っていた。しかも当時メインストリームで人気だったスタイルをアメリカ、日本など国を超えてフックアップするだけではなく、原宿のストリートでニッチに流行ったぬいぐるみリュックにも火をつけていくさまは、もはや当時ギャル、青文字系と東京で分断されていたカテゴライズを全てフラットに観察して面白がり、マッシュアップさせるインターネット感さえ感じさせるものだった。

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 今回BALMUNGが目をつけたのは、そことも似ているようで、また異なる「Y2K」のあり方だった。ルーツには、デザイナー・ハチ自身が体感してきた90年代後半~00年代のファッションから続き、00年代から今のインターネットカルチャー、00年~10年代のオタクカルチャー、東京の都市開発により変化する街や人並みなど複合的な景色がある。それらが、まるでこの10~20年間の出来事の走馬灯を見るかのようなスピード感で繰り出される異様なファッションショーとなった。

Image by: FASHIONSNAP

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 デザイナーのハチいわく、鉄パイプと単管で組まれたサークル上のランウェイには、高層ビルが立ち並ぶ都市のようであり、今回のコレクションタイトルでもある「movement / circle」の通り、動き、ムーブメント、円や人の集合体が描くエネルギーのようなものなどを表したという。通常、直線上に引かれるランウェイに行き来するモデルを少し冷静に俯瞰した距離で見るランウェイの形態と違って、否応なしに至近距離でどんどんと上に上がっていってしまうモデルを目だけで追いかけるランウェイの形態は、まるで自動スクロールされるスマホ画面を近距離で眺めるような、都市のカオスさに吸い込まれるような眩暈のする体験だった。普段、私たちが忙しなく歩く渋谷や新宿などの都市、知らぬ間に景色を変える都市開発、理由もなく感覚的に全員が熱狂する現象を、じっと座って傍観する苦痛ほど耐え難いものはないのだと。

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 しかし、BALMUNGが鉄パイプと単管で上に上にと組まれた舞台を使うのは、なにもこれが初めてではない。2023年に新宿・WHITE HOUSEで開催した2024年春夏のインスタレーションでは、垂直に組まれた舞台にモデルが階段で上り下りする演出が作られていた。そこですでに今回のショーとも共通する、上下への視点誘導は生まれていたのだ。一方で、「DARK GREY KIDS」と名付けた同コレクションとも、今までのコレクションとも大きく異なるのは、BALMUNGが一貫して使ってきた「GREY」のコンセプトもカラーリングも封印したこと。さらには今までプレゼンテーションの空間に散りばめられてきたオブジェに映るビビットカラーやグラフィックもルックにぎゅっと凝縮されたように感じた。

Image by: FASHIONSNAP

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 ルックから放たれるBALMUNGの独自性を担う強度は、結局のところデザイナー・ハチのユニークなスタイリングが軸にある。フィナーレで出てきたハチの腰パン以上のローライズ姿は、2015年のノームコアを経て、派手な格好のファッションデザイナー像が消えたこの10年間のことさえも、懐かしく思い出させるものだった。ショー終わりに話を聞く機会があった、今回のスタイリングを手がけた小山田孝司いわく、スタイリングを組むときのインスピレーションとして、やはりハチ自身の存在があったそうだ。それは、公私ともに20年以上の友人であり、同じ時代を生きてきた小山田だからこそ成し得た技でもあったように思う。たしかに、雑誌「TUNE」にもよくスナップが掲載されていることでも知られるハチの当時のスナップを見ると、バッグにしっぼのキーチェーン、細身のパンツ、ハイカットのコンバーススニーカーなど今回のルックの原型とも思えるようなモチーフが散見できる。なかでも、ショーのルックで登場していた、ミントグリーンとドットのグラフィカルなパーカーは、どことなくハチが当時よく好んできていたベルンハルト・ウィルヘルム(Bernhard Willhelm)を想起させるものであり、さらに言えばコレクション全体の配色はどことなくエレクトロが流行った00年代のクラブシーンに集う人々の装いやデザインを思い出させるようなものだった。

Image by: FASHIONSNAP

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 さらにBALMUNGの異質性を高めたのがモデルのキャスティング。なぜか10年前にあんなに流行ったストリートキャスティングもたった10年でクワイエットラグジュアリーの後押しもあり、耳にすることも少なくなったいま、有効な技として効いていたように思う。そこには単純に独自性があらわれるというだけではなく、社会一般的に言われる「多様性」をリアリティを持って体現しているようでもあった。プロモデルと並び、登場する個性的なアーティスト陣のキャスティングは、インターネット・レーベル「マルチネ・レコーズ」主宰のtomad氏が担当。PC Musicをどのくらいの読者が知っているのか未知数なファッションメデイアで、一からマルチネ・レコーズの説明をするにはもはや時間も文字数も足りないのだが、両者の出会いは急にここで始まったというわけではなく、00年代に活動を始めた両者とも10年代に東京で起きたアンダーグラウンドシーンから交流が始まっている。ラストルックに登場した、アーティストのvqはtomad氏によってハチへと引き合わせられ、ショーのBGMも担当。ショーの最中は気がつかなかったが、改めて聴くと「movement」「circle」とグリッチを起こしながらも呟かれていることがわかる。10年代の東京のシーンを語る上で欠かせないマルチネ・レコーズという存在を起点に、ここ数年で東京のインディーシーンから台頭してきたアーティストたちをモデルとして起用するさまは、BALMUNGが過去コレクションで着目してきた事象をいまへと接続させているようにも感じた。

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 そしてショーの最大の話題になったのが、2階にあがったモデルたちがつぎつぎと左右二手に置かれた布団のようなクッションに自ら飛び出していく光景。最初見たときは正直なところ、近年BALMUNGがトー横に着目していた流れもあり、文字通り飛び降りる輪廻転生を描いているのかと思ったが、幾度となくループされる光景を見ているうちに、まるでアニメで描かれているような無邪気に空にかけ出すさまにも、循環して出来ている都市のさまのようにも、はたまたインターネット⇆現実へ飛び出すさまにも見えた。過去のBALMUNGのショーであれば、どことなく気だるけなモデルたちがじっと座ったり立ったり動いたりするだけだったが、今回登場するモデルたちは颯爽と歩きながら、まるで何かの儀式のように円を描き、自らの意思で外の世界へ飛び出していく。一瞬だけモデルの顔ではなく素顔が見えるその瞬間は、ファッションショーでは珍しいものだが、観客の素の感情をも引き出す重要な仕掛けだったように思う。

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 「多様性」「サステナビリティ」「コンプライアンス」などさまざまな規範が言葉によって出来上がり、SNSで他人が発言した強い意見によって、あたかも自分も同じ意見を持っているような気がしたり、いくら「自分らしさを」と言われても、常時他者と接続できる環境下で他者と自分の境界線が曖昧になる現代。孤独から目を背け、ネガティブ・ケイパビリティへの耐久性を下げ、自己と向き合う隙間を与えない社会構造に生きる私たちは、簡単に自分のアイデンティティを最下層に置いてしまっているのではないだろうか。容易に憧れの誰に分身することで幸せを獲得できる時代でもある反面、やはり他者と違う自分を見つけたい感情にもがくカオスな社会の渦に私たちは無意識に吸い込まれているのだと、個性的な29人のモデルを見て感じたのだった。

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 東京ファッションウィークの中では、一番と言っていいほど東京らしさを全員が頷く形で叩き出したBALMUNG。しかし「Y2K」が終息する中、ファッションにおける近過去をトレンド化する間合いは絶妙なところにあることは承知だが、もう少しだけスピードを速めて「Y2K」がトレンド化する手前か半ばで一石を投じられたような気もする。ドメスティックであり、言語化されにくいインターネットやユースカルチャーをモチーフに扱うからこそ、分かりやすいオタク的なモチーフを1シーズンだけ使うブランドや表現に回収される前に、この確固たる世界観をグローバルに届けなければいけないフェーズにすでに入っているのではないだろうか。

BALMUNG 2025年春夏

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