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GUが子ども向けの「服育イベント」を開催、子どもの自己成長を促進

GUが子ども向けの「服育イベント」を開催、子どもの自己成長を促進

クリエイティブディレクター
HAKATA NEWYORK PARIS

 ファーストリテイリング(以下、ファストリ)傘下のGUは、さる7月23日のマロニエゲート銀座店を皮切りに8月3日、4日には全国29店舗で子供向けの「服育イベント」を開催した。子供たちが自分で着る服を選べるよう自己成長に繋げることを目的にしたものだ。(公式サイト:https://www.gu-global.com/jp/ja/feature/service/my-first-outfit)

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 イベントは「マイ・ファースト・アウトフィット」の呼称で2022年にスタートし、すでに2000人の子供たちが体験している。今年は8月3日、4日、それぞれ10時30分~11時20分、13時~13時50分の2回にわたって開催。参加対象者は幼稚園の年長さんから小学校の6年生まで。服のサイズが110cm~150cm、一人で着替えができることが条件となる。1回につき4名の参加が可能で、参加費は無料だが、先着順で申し込みを受け付け、締め切られる。

 同時にワークショップの開かれ、「服は何からできている?」についても、子どもたちが自ら知識をつけ、夏休みの自由研究のテーマになるように設定されている。プログラムは以下になる。

 ①レクチャーを受ける…GUのスタッフが服選びのポイントなどをレクチャーする。保護者は子供とは距離を置き、店内で待機する。
 ②服を選ぶ…参加者の子供たちはスタッフからカゴを受け取り、店内を歩き回って自由に服を選ぶ。わからないことや質問があれば、スタッフが対応する。
 ③試着する…子供たちは自分で選んだ服を持ってフィッティングルームへ。コーディネートに納得すれば、保護者にお披露目する。
 ④保護者と対面する…子供たちのコーディネートを保護者が鑑賞する。体験中にどんな様子かは、スタッフに聞くこともできる。服を購入するか否かは自由で、写真撮影は可能だ。

 以上のプログラムになる。子供たちの中には、すでにその日に着る服を自分で選んでいる子もいるだろうし、親のアドバイスを受けたり選んでもらったりする子も少なくないと思う。ただ、「好きな着こなし」を自分で見つけることが服育への第一歩になるのはその通り。GUも言っているが、「自分で選ぶ」という自己成長につながるきっかけとしては、有意義な体験になったのは間違いない。服は何からできてるかについては、あまりに大上段に構えすぎたのかもしれないが、少しでも知識がつけばそれはそれで成長につながる。

 まあ、少し下世話な言い方にはなるが、この年代の子どもたちにブランドのイメージやテイストをすり込んでおけば、将来的に顧客になってくれるかもしれないという企業側の思惑もあるだろう。いわゆる、青田買いだ。ファストリ、GUほどの企業なら当然、視野に入れているとしても不思議ではない。

 欧米のラグジュアリーブランドでも、トドラーやキッズのカテゴリーを持つところは、子供たち向けのイベントを展開している。ブランドとして顧客を囲い込む政策を取るのは当然だからだ。一方、日本では子供服オンリーのアパレルが少子化の影響、マーケットの縮小で姿を消している。総合アパレルやグローバルSPAにとって競争相手が減れば、顧客獲得のチャンスだ。その意味で、ファストファッションとしてトレンドを追いかけるGUが子供たち向けの服育イベントを展開するのは自然の流れ。そこまでは評価していいだろう。

 問題は服育を自己成長、いわゆる学びの一つに位置付けるなら、「教材」にも左右される。アパレル業界には、「お客さんが商品に惹きつけられる条件は何か」という命題がある。商品企画やブランド開発を行う上で、無視できない方法論だ。それは一番目が「色」、二番目が「デザイン」、三番目が「素材」と言われる。当然、色、デザイン、素材の基本を学んで思考力や創造力を養うのが服育なのである。これを基本にした時、GUは色のトーンは抑え気味で、キャンディーやビタミンといったヴィヴィッドな色がほとんどない。

 GUは低価格な商品に共通するコストカット路線からカラリングへの投資がなされず、色目を学ぶ教材としては劣ると言わざるを得ない。つまり、服育として子供たちの色彩感覚を磨き、カラーコーディネートの学びに繋げる教材としてGUは、初歩の初歩に過ぎないのだ。もっと高いレベルで色、さらにデザインや素材を学ぶにはさらに高度な教材が不可欠になる。もちろん、服育でも高等教育を受けるにはそれなりの投資が必要だ。家計の制約で十分な教育投資ができなければ、結果的に格差を生じさせる。これについては後述する。

 振り返ってみると、筆者の同級生には高級ブティックの倅や服飾専門店の息女が多くいた。そのため、店舗兼自宅に遊びに行くと、売場に並ぶ国内外の既成服やインポートの服地、ボタンなどを目にすることが多かった。あるブティックの倅は、親が仕入れに行ったイタリアで買ってきたパンツを履いていた。深みのある濃紺地だったが、艶があって色が微妙に変化する。その記憶は今も鮮明に残る。さらに母親がオートクチュール(高級注文服)の洋裁師だったことで、自宅での仮縫い作業時には「ENGLAND」「FRANCE」「ITALIA」の表示が入ったシックな色合いの生地を眺めていた。国名のアルファベットもこの時に憶えた。

 嫌が上でも、子供の頃から色や素材の感覚、感性は磨かれたと思っている。昭和40年代半ばまではレディスの市場は、高級注文服とインポートの高級既製服(プレタポルテ)が中心だった。イトキンやワールドなどの国産も出始めてはいたが、同級生の親たちがメーンで販売していたのは、クリスチャン・ディオールやイブ・サンローランなどのインポートだったと記憶する。だから、購入するお客さんはお金持ちの中高年女性に限られていた。筆者や同級生は高価なインポートと出始めた国産ブランドという環境の中で、服育されたことになる。

 自ら着る子供服は、今とは違い生地も縫製も日本製で、アースカラー系のものを数多く着ていた。逆に女の子たちはデザインはともかく、結構メリハリのある色柄を着ていた。みんなが裕福だったわけではないが、制服を着る中学校までは私服オンリーだから、おしゃれな子が多かったという印象だ。中にはフランスのMICMAC社が作るようなボーダーニットのワンピースを着たり、市販のサロペットにパッチワークを施して履いている子もいた。前の彼女は美術大学に進み、後の子はフランス語学科に進学した。自分にもそうした学びに「デザイン」が加わってさらに造詣が増し、業界人になって仕事をしていく中に大いに役立った。

知育、徳育、体育、食育、そして服育で人は学ぶ

 もう少しフォーカスを広げてみよう。人を育てる教育という視点だ。子どもたちの自己成長、人間形成に必要な教育といえば、知育、徳育、体育、食育がある。これらに次いで服育も加えていいだろう。まず、知育とは知能を伸ばす教育。より多くの言葉とその意味を覚えると秀でた文章が書ける。数字や計算、図形を学ぶことで、方程式が解けたり幾何学が理解できる。外国語を習得してコミュニケーションする等などだ。国語、算数、理科とそれぞれの知識がついて思考力が培われると引き出しが増え、創造力や応用力が磨かれる。

 徳育とは道徳面の教育。社会で生活していく上で、ひとりひとりが守るべき行動ルールの学びと言おうか。人間が生きていくには生活の糧を得なければならないが、ルールから外れると、周囲に迷惑をかけてしまう。だから、躾によって良心を持ち、善を行い悪を行わない人間に育てていく。人が見ていないと、平気で道に唾を吐き、タバコの吸い殻を捨てる。とても徳のある人間とは言えない。社会のルールに従うことからの学びは、人間形成のポイント。自分をコントロールできてこそ、物事を成せるのだ。

 体育とは体の向上を目的とする教育。本来、体育は知育や徳育とバランスよく培われることで、自己成長につながっていく。だが、体育における行きすぎた指導が体罰やパワハラを生んでいる。これは大きな錯覚で、本末転倒なことだ。上手くいかないのは未熟なだけで、そのうちに変わってくると長い目で見ることも重要なのだ。一方、今の子供たちはライフスタイルの変化で昔のように外遊びをしなくなり、運動ができる子とできない子の差が拡大している。だから、体育は大人になるための基礎的な体の学びと捉えるべきだ。その先のスポーツや競技は選手個々が好きな種目に取り組み、掲げた目標にそって育成、指導、強化を受ければいい。

 食育とは食べる経験を通じて、食の知識と選ぶ力を習得するもの。こちらも自己成長、人間形成に不可欠で、幼少期の経験や学びがとても重要だ。学校で食材の生産地域を学ぶことにも意義がある。それらによって人間の味覚が決まり、アレルギーなどの体質を知ることもできる。最初から美食家なんているわけがなく、食育を受けてこそ料理の腕前や舌利きが培われる。学校給食が小中学校で提供されるのは、この年代の子供たちには健全な食育が欠かせないからだが、昨今はレベル低下も指摘されている。

 給食の無償化が議論される中、保護者の中には予算があるなら知育に回して欲しいとの意見もある。しかし、成長期の子供たちにとっては食育が疎かになってはいけないのだ。

 知育、徳育、体育、食育を受けた子どもたちは、成長するに従って自我に目覚めると、自己実現という目標に向けより高い学びを欲する。世の中の課題に取り組みたいという子も出てくる。スキリングに終わりは無いと言われる所以だ。大学を経て大学院に進学し、さらなる高等教育を受け、医者や研究者、専門技術者を目指すのがそうだ。グローバル化した現在、さらに高度な学びを求めて海外留学するのも一般的になっている。

 徳育によって公共心や倫理観が養われると、官僚や検察官、弁護士を目指す子もいるだろう。国の制度設計をきちんと作り上げて国家を安泰に導いていく。社会生活の中で生じる事件や困り事について、法律の専門家として解決に導き、適切な予防や対処方法をアドバイスする。昨今は官僚の不人気、弁護士増による競争激化が指摘されるが、徳を積んだ人間であれば、仕事のやりがいは損得ではないとわかるはず。行政や司法を担える優秀で真摯な人材がいてこそ、国は栄え豊かになっていくのである。

 体育で基本を習得し、スポーツの世界に進むとより高みを目指したくなる。久保建英選手は2歳からサッカーを始め、Jリーグの下部組織を経て、家族ともどもスペインに渡りFCバルセロナ傘下の入団テストに合格した。その後の活躍は周知の通り。佐々木麟太郎選手は高校を卒業後、米国のスタンフォード大学に留学。勉学と野球を両立しながら、プロを目指している。と言っても、まずはメジャーリーガーだろうから、スポーツ界では世界のトップレベルで勝負するのが当たり前になっている。多くのスポーツ選手が同じスタンスだと思う。

 食育でも幼少期の学びが大切なのは食の専門家が証明する。パスタレストランを全国ブランドに育て、ドレッシングで世界進出を果たしたピエトロの村田邦彦元社長が生前に仰っていた。実家が食堂で両親は忙しかったが、母親が我が子に買い食いさせることを嫌い、食事からおやつまで全て手作りしてくれたという。その時に磨かれた味覚がパスタ料理やドレッシングの開発に役立ったと。海外出張では部下が内規に縛られる中、良いホテルに泊まり良いものを食べろと、ポケットマネーを出していた。株式の上場益を得たらお洒落なバスを買って、幼稚園を回って子供たちに食育するのが夢だとも。まさに食を学んだ成果である。

 これらの事例を見ても基礎教育を受けて自己成長すれば、さらに上のレベルで自己実現したくなることがわかる。もちろん、全ての人がそのゴールに到達できるわけではない。また、より高度な教育を受けるには、保護者に資金的な負担が増す。海外では成功者が大学などに寄付をすることで、意欲ある若者の誰もが高い教育を受ける環境が整う。だが、日本ではようやく大学の無償化が論議され始めた程度だ。そこで服育だが、やはり良い服を着るにはお金がかかる。また、幼少期からブランドを着たからと言って、多くのことが学べるわけでもない。

 トップクリエーターを見ると皆、家庭環境から学んでいる。山本耀司氏は母親が経営する洋裁店で学ぶ過程で、男性の視線を意識した服づくりが反面教師となり、女性が自分の視点で選ぶブランドの創造に行き着いた。小篠三兄弟も洋装店でミシンを踏む母親の背中を見て育ち、ファッション専門学校や海外留学で服飾やデザインを学び、ともに自分流の個性的な表現を編み出した。より良い環境と優秀な師のもとで、服を知ったからこそもっと学びたくなる。そして、自己実現すれば、さらに目標を決めて突き進む。現状に決して満足せず、あくなき学びを追求することで、得るものは果てしなく大きくなるのだ。

 もちろん、皆がこうした環境に身を置けるわけではないし、全ての保護者が子どもたちに高度な服育を受けるための学費が出せるわけでもない。ただ、子供たちの身になると、基本を学び、少しずつ自己成長を遂げるほどさらに多くを学びたくなる。それは社会全体で叶えてあげることも必要だろう。そしてもう一つ、子どもたちにはできる限り、より良い環境でより優れた指導者、そしてより良い教材のもとで学ばせてあげることも重要なのである。GUの服育イベントを初歩の初歩と表現したのはこうした理由からだ。

 子供たちが学校で物理や化学といった基礎知識をつけると、大学や大学院では糸や繊維の開発に携わりたいと考えるものも出てくると思う。それが遮熱、紫外線カット、接触・冷感、吸水・速乾、通気性といった機能性素材であり、究極の研究テーマとしてはSDGsや環境保全を考えた時の「溶ける糸」の開発もあるだろう。その意味で、服育もスキリングには終わりがない。現状に満足せず、より高みを目指す人間を育てるには、業界自らが子供たちにそうした場を提供しなければならないということでもある。

 服づくりということでは明暗、彩度、色調といった各条件で色に親しむ。基本型を学ぶのはもちろん、そこから変化したバリエーションまで提供してデザインの奥深さを教える。職人技の染めや卓越した技術による織り柄、天然から合成までの糸が織りなす組織変化など、手間とコストをかけた素材に触れることで、服作りの発想力を養っていく。より良い環境でより優れた教材のもとに、有能な教育者がシンクロしてこそ、学ぶ意義は大きく人材が育てられる。上質に触れることが服育の第一歩なのだ。

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