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メガネの試着は「姿見」の前で 専門店オーナーに聞くアイウェアの奥深さ

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ヨーロッパを中心に国内外のアイウエアをセレクトする「èpice(エピス)」。大阪の北堀江に店を構える「èpice」のオーナー 進藤貴通さんは、新進ブランドをいち早くバイイングする審美眼に定評があり、幾度となくアイウエアブームの火付け役となってきました。メガネは視力を矯正する医療器具であるという反面、ファッションアイテムとして欠かせないものであり、掛ける人のパーソナリティを印象付けるという意味ではコーディネートの主役になります。ファッション業界を志す人の中にも、アイウエアに注目する人は多いのではないでしょうか。

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そこで「èpice」オーナーの進藤さんにアイウエアやファッションへの思い、独立までの経緯や接客術について伺いました。前編となる今回は、現在の仕事を選んだ理由や独立までの道のり、買い付けについてなどを中心にお届けします。

初めて自分で買ったメガネがターニングポイント

―― アパレル業界の中でもアイウエアを選んだ理由は?

「高校生の時から漠然と販売職に就きたいと考えていて、ジャンルは決めていなかったのですが、良いものをあつかいたいと思っていました。そのころに視力が落ちたこともあり、初めてメガネを買いに行くことになって。メガネってちゃんとしたものは高額だし、僕にとっては自分で購入する初めての高級品。今でもはっきりと覚えていますが、わりと太めで黒いセルフレームの、ヴァレンティノのメガネを選び、自分では少し冒険しすぎたかなと思いながらも学校に掛けて行ったんです。するとクラスメイトから好評で。メガネの販売職を意識したのはそこからですね。

考えてみれば良いものをあつかう販売職そのものだし、この経験からメガネひとつで人の印象がガラリと変わることに気づいたのが大きかったですね。手のひらに乗るこんな小さなアイテムで、その人の個性や印象が大きく変わる、いわば最も身近な変身グッズ。この面白さに目覚め、高校卒業後すぐに町のメガネ屋さんに就職しました。8年間そこで勤め、次に大阪市内のホテルに店を構えるメガネ店に転職したんです」

―― なぜ他の眼鏡店に転職したのでしょうか?

「8年経ち、職場に慣れたころ、仕事に対して自分自身もう少し変化がほしくなりました。そして同じメガネをあつかうにしてもハイブランド(有名なブランド)をあつかいたい気持ちもあり決断しました。最初の店では6年目で店長になって仕入れの一部を任せてもらい、少し個性的なメガネを仕入れるようにしていました。今まではスタンダードなものが中心で接客もお客様の言うとおりに、というのがセオリー。だけどたとえ個性的であっても、お客様に本当に似合うと感じたメガネをすすめたい。それが転職理由です。この2つのメガネ店に勤めたことで、接客についての自分の考え方が定まったのはもちろん、メガネはフィッティング(調整)がとても重要ですが、その技術がしっかりと身についたと思います」

メガネはファッションのスパイスであれ

―― ホテルのメガネ店を退職したのちに「èpice」をオープンされたのですか?

「そうです。2005年に独立し、北堀江に店を構えました。最初は人の多い心斎橋で探していましたが良い物件がなく、1年くらいリサーチをするなかで、北堀江は落ち着いた人が多いことに気づいたんです。自分がやりたい店と客層が合っている、そう感じて北堀江を選びました。店名の「èpice」はフランス語でスパイスという意味ですが、メガネがその人のファッション、ひいてはパーソナリティのスパイスになるようにとの思いを込めて付けたもの。今もこの意味を込め、ご購入くださったお客様にはタバスコをおまけとしてお渡ししているんですよ。このあたりの遊び心は大阪っぽいかもしれませんね(笑)」

―― アイウエアをセレクトする際の基準はあるのでしょうか?

「自分の好きなもの、自信を持っておすすめできるものです。好き、というのは感覚的なので具体的にこんな感じとは説明しづらいですが、自分が良いと思うからこそお客様にすすめられる。大事なのは、このスタンスからブレないこと。僕も一時はもっと売れ筋のメガネを置いたほうが良いのかと迷って取り扱ったこともありますが売れませんでした(笑)。「èpice」のお客様はそういうものを求めていないんだと再認識し、以降はブレることなくやっています。現在、買い付けはフランスが中心で、イタリアにも行きますが、海外で買い付けをするようになったのも「èpice」らしさを貫くため。うちの店ができて以来、周囲にメガネ店が増え、なかには品揃えが似ている店も出てきたので、国内の展示会だけではどうしても差別化できない。そこで海外の展示会に行くようになったんです」

―― フランスとイタリアが中心なのはなぜですか?

「展示会の出展数が多いからです。イタリアは新進ブランドのコーナーが充実しているので、新鮮な出合いがありますね。やはりヨーロッパは個性的なデザインが多く、種類も豊富。日本にも鯖江などメガネで有名な所はありますが、国内のアイウエアはスタンダードが中心。新しいもの、個性があるものを探すには海外が適しています。そういえば最近は大阪に観光に来た海外のお客様も多く、同じアジア圏の人でも日本人はあまり選ばない攻めたデザインを選ばれるので、メガネにもお国柄が出るのだなと感じています」

―― 海外の仕入れだとコミュニケーションはどうされているのですか?

「接客に必要だろうと20代の頃に4年、独立してから2年程、英会話スクールに通いました。自在に喋れるかというとそんなことは全然ありません(笑)。ただそこで英語や海外の方とのコミュニケーションに慣れたおかげで、語学ができる・できないに関わらず、臆することなく話しかけるられるようになりました。最近は翻訳アプリもあるので買い付けや接客には困りませんが、今はインバウンドのお客様も多いので、これから販売を目指すならその層に構えることなくコミュニケーションをとれるメンタリティは持っておく方がいいと思います」

接客の心得は「人と人」

―― アイウエアは接客時の距離感が洋服などより近いと感じるのですが、接客をする際に心がけていることはありますか?

「媚びないことです。お客様は神様という考えのお店もありますが、あくまでも「人と人」。どうせ掛けるのなら似合っているものを選んで欲しいので、会話のなかで、「なりたいイメージ」や「どんな印象に見せたいのか」は必ず伺うようにしています。あとは、好みのデザインでも似合っていない場合、合わないとは言いませんが、似合うメガネをさりげなく提案するのも接客の醍醐味。美容師さんもその人の好みや骨格、なりたいイメージに合わせてヘアスタイルを提案すると思うのですが、それに近いかもしれませんね。なかにはなりたいイメージがわからない方もいますが、そういう場合はこちらから3パターンくらい異なるイメージのメガネを提案します」

―― 進藤さんご自身はどうやってメガネを選んでいるのでしょう?

「僕はメガネに対しては浮気性なので、その日の服装に合わせて掛け替える派です。ボリュームのあるフレームなどの好みはありますが、メガネはまさにスパイスなのでファッションと同じ感覚で選んでいます。これは接客の際にも意識することですが、その方のパーソナリティーになじむものを好まれるのか、あえてハズしてアンバランスさでお洒落に見せるのかなど、全身のバランスがすごく重要。メガネを買うときに顔だけしか見ない人が多いのですが、うちでは必ず「姿見」の前に立ってもらい全身のバランスを見ていただきます。似合うと思って買ったメガネなのになんだかパッとしない、そう感じる人は購入の際に全身を見ていないことが多いんですよ」

お話を伺うなかで何度も感じたのが、èpiceの「らしさ」をとても大切にされているという点。その「らしさ」を追求するために海外へ買い付けに行くのはもちろん、「らしさ」を愛して通ってくださる顧客のために、当初のコンセプトを守り抜くスタンスが支持されている理由なのだと感じました。続く後編では、アイウェアのトレンドや選び方のポイントなどについて伺います。

『èpice(エピス)』
インポートを中心に約30ブランドをあつかうアイウエアのセレクトショップ。リュクスなものから個性的なブランド、クリエイティブなデザインなど多彩なアイウエアが揃い、フィッティング技術の高さにも定評がある。

TEXT:横田愛子
PHOTO:大久保啓二

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