ニッセイ基礎研究所とメルカリの共同調査によると、国内の家庭に眠る隠れ資産は66兆円6772億円にも達するという。50代、60代の夫婦2人世帯に限っても約132万円と、平均の約111万円を上回る。つまり、これらの眠った資産を市場に出して取引機会を増やせば、新たなビジネスになるわけだ。若年層にはすっかり定着した不用品を気軽に販売できるメルカリだが、フリマアプリの成長率は2023年9月期が対21年同期比で15%程度下落しており、24年も横ばいの見通し。明らかに成長が鈍化しているのがわかる。
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6月5日、メルカリは乳酸飲料ヤクルトの宅配員に家庭の不用品回収を委託する実証実験を広島で始めた。ヤクルト山陽(広島市)の宅配員が家庭を個別に訪問し、不用品を発掘して回収し、フリマアプリのメルカリShopsで販売する。商品が売れると、メルカリ側は売上金の1割の手数料を受け取る仕組みだ。今回の実証実験では、不用品を提供する側は売れても対価はない。ヤクルト側がメルカリに手数料を支払って残った売上金は、自治体や福祉団体と提供した社会貢献活動に使われるという。
実証実験の段階では、不用品を提供する家庭では概ね好評のようだ。例えば、ある高齢者は、陶器販売店を閉店し売れ残り品の処分に困っていたところ、ヤクルトの販売員から不用品回収の提案を受け、話に乗った。また、不用品回収をパンフレットで知り、わざわざ衣類をトラックに積んで営業所に持ち込んだケースがある。メルカリは全国の自治体とも連携し、35の自治体がメルカリShopsに出店し、住民から集めた粗大ゴミや備品を販売している。若年層ならスマホを使って不用品を気軽にメルカリで販売できるが、高齢者になるとそうはいかない。そこで、自治体が出店の代行や販売などの支援に乗り出したわけだ。
ただ、自治体もマンパワーには限りがある。高齢者家庭に対し、不用品回収の趣旨を広報することはできても、回収要請が多くなればとても対応できない。また、昨今は業者が「何でも買い取る」と電話をかけて高齢者宅を訪れ、玄関先で言葉巧みに誘いかけて不用品を無理やり回収したり、高いものを安く買い叩くケースがある。挙句の果てに「貴金属はないか」としつこく居座り、難癖をつけて代金を払わないトラブルも発生している。そこで白羽の矢が立ったのがヤクルトの宅配員だ。飲料配達の契約している家庭を定期的に訪問をするのだから、不用品回収の話を持ちかけやすい。顔見知りなら、高齢者も安心できる。
法律ではどうなっているのか。特定商取引法は、「買取業者が突然訪問し勧誘する」ことや「事前に承諾した物品以外のものを売るように迫る」ことを禁止している。「契約時は書面の交付が必要で、8日間は無条件でクーリングオフできる」。自治体や消費者センターは、「勧誘電話には安易に応じず、不審や不安を感じたら身近の窓口に相談してほしい」と話す。ただ、高齢者がこうした悪徳買取業者の存在を学習すれば、かえって疑心暗鬼になるかもしれない。そうなると、真っ当な買取業者まで受け付けなくなる可能性も出てくる。
仮にメルカリがマンパワーを駆使して高齢者家庭に回収に出向いたところで、同社が悪徳な買取業者と違う点を周知、浸透させ、高齢者に認識させるのは容易ではない。だからと言って、高齢者がスマホアプリを使って不用品を出品し販売するのは、まだまだハードルが高い。それはメルカリも成長が鈍化しているデータから把握できているはず。ならば、買取業者ではないヤクルトの宅配員に代行してもらった方が手っ取り早いと、考えたわけだ。
メルカリは2024年5月から「価格なしの出品」機能の提供も始めている。これにより購入希望者側が「購入したい価格」を提案し、出品者がOKすれば、取引に移れるようになった。同社がアンケートを実施した結果、ユーザーでさえ値段決めや価格交渉が煩わしいとの回答が多かったことからとった対応だ。つまり、家庭に眠っている不用品をさらに流通させるには、これまで以上に出品をし易くするなど、環境づくりを進めなくてはならない。それにはネット環境だけでなく、マンパワーという人的な役割も不可欠ということなのだ。
ビジネスにならないと、代行は難しくなる?
メルカリとすれば、各自治体と連携して66兆円もの隠れ資産を流通させる思惑だろうが、実験が好結果を生んで社会に浸透するかは未知数だ。自治体から地域の事業者に対し、不用品回収の代行要請があったにしても、業者が次々と名乗り出てくるかと言えば、それは考えにくい。ヤクルトの販売会社でも同じだろう。考えられる課題を挙げてみよう。
1.回収するマンパワーや車両が必要
2.回収品を置くスペースの確保
3.回収品の整理、管理が必要
4.フリマアプリへの出品作業、詳細な情報提示
5.販売商品の発送手配
不用品の回収代行をするには、これだけの人、モノ、手間、時間が必要となる。社会貢献という命題を掲げたにしても、すんなり応じられる事業者がどれほどいるのかである。メルカリは1割とは言え手数料収入がある。それはシステム運営の経費で、利益ではないと言い訳するかもしれないが、その先には隠れ資産66兆円を目据えているのだから、中長期的にはビジネスにしたいのは言うまでもない。逆に回収を代行する事業者の中には、不用品の回収からメルカリShopsでの出品、管理、発送を無償で行うのは、やはり不公平さを感じるところも出てくるのではないか。
結局、中長期的に見て不用品の回収代行が収益になるのであれば、参入するところが出てくるのではないか。その場合、売上げの配分をどうするかである。メリカリ、代行業者、社会貢献(自治体)がそれぞれ3分の1で公平に配分するのが理想だが、不用品だから1点単価はそれほどの高額は望めない。価格の設定を購入希望者側に任せると、なおさら売上げは下げ止まることも考えられる。資産の総額は66兆円あっても、それを流動させるコストがあまりに膨大なら、民間事業者は参入に二の足を踏む。
そもそもメルカリで販売するのは、不用品と言ってもリユースできる=繰り返し使うことができるものになる。一度使用されたものの中でも「廃棄すべきものではない」という条件がメルカリビジネスの拠り所だ。また、古物という点では古物営業法で13品目に区切られており、この区分に当てはまるかを確認しなければならない。それは回収を代行する事業者が行うことになる。さらに回収する段階では、どんな商品なのか、本物か偽物
仮に回収代行に名乗り出る事業者がビジネスを想定するとどうか。というか、ビジネスになるのなら、参入してもいいという事業者もあるだろう。当然、収益を上げるには高値をつけて販売した方がいいから、回収する段階で商品の価値を見極めていくはずだ。さらに回収した不用品の適正な在庫管理をしないと、回収するだけでは在庫が膨れ上がってしまう。だから、金になるものは回収するが、そうでないものは回収しないということも考えられる。自治体が不用品のリユースや社会貢献を目的とするなら、そうした回収代行業者の参入は許してはならないはずだが。その線引きをどうするかである。
不用品の在庫を迅速に消化することを念頭におけば、閲覧者が限られるメルカリだけの出品では限界と考える代行業者が出てくるかもしれない。複数販売チャネルでの「併売」である。お客の目につく機会が多くなれば販売機会が向上するし、ユーザビリティが高まってお客はまた購入しようという気になる。しかし、併売するとなるとさらに出品作業に手間がかかり、在庫管理にも支障が出てくる。
プラットフォームによっては、商品撮影や商品コードの入力などを条件とするから、ささげ業務に時間と手間がかかる。不用品は傷や汚れの状態など1点ずつ異なる情報の記載を求めるところもある。不用品を回収して流通させるのが前提なのか。地域の活性化かや社会貢献が目的か。こうしたルール作りや啓蒙活動も不可欠だ。
テレビや家庭用エアコン、洗濯機、冷蔵庫といった家電リサイクル法の対象となるものは、今回の回収の対象からは外れると思う。ただ、業務用エアコンや農機具はどうなのだろうか。まだまだ利用できるものなら、廃棄物ではなく有価物として捉えられ、販売できなくもない。非常に曖昧な部分が出てくるのだ。メリカリ自体が隠れ資産の66兆円に目をつけているのだから、ビジネスとして捉えているのは否定できない。今後はその辺のマニュアル作りや指導、自治体との調整が必要になってくる。メルカリの企業姿勢が問われることになる。
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