■アメリカではスーパー等で万引きが横行している。特にセルフチェックアウトレジを使って盗難をする輩が後を絶たない。
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チェーンストア最大手のウォルマートは4月、ミズーリ州シュルーズベリー地区とオハイオ州クリーブランド地区の店舗からセルフレジを撤去した。盗難多発を理由にこれらの店舗を含む5店舗からセルフレジが撤去されているのだ。
48州に2万店近くを展開するダラーチェーンのダラーゼネラルも2024年度中、300店舗からセルフレジを撤収し、他の9,000店からは一部のセルフレジを有人レジに変更する。
また4,500店ではセルフレジ使用で5アイテム以下の買い物に制限するポリシーに変更したのだ。
スーパーマーケットチェーン最大手のクローガーもコロナ禍となった3年前に開始したセルフレジのみのスーパーのテストを中止した。
ダラスのクローガー・フレッシュフェア店は2021年2月の改装から、35州に2,700店以上の食品スーパーを展開するクローガーにとって唯一のセルフチェックアウトレジ・オンリー店になった。
コンタクトレス・レジのテストでは新型のセルフチェックアウト・レジも導入されていたのだ。
しかし相次ぐ顧客からのクレームを受けセルフレジオンリーを止め、通常の食品スーパーのようにフルサービスとセルフレジを組み合わせたものに戻したという。
全米に約2,000店を展開するターゲットも3月、セルフレジ「エクスプレス・セルフチェックアウト(Express Self-Checkout)」として利用を10アイテム以下の買い物客のみとする制限を発表している。
先月、サンフランシスコ市近郊にあるモール内のターゲットで6万ドル(約900万円)の万引きをした女性が話題になっていた。
ターゲットのセルフレジで2020年10月~2021年11月にかけて120回以上も来店して盗難を繰り返したというものだ。
1回で平均500ドル(約7.5万円)相当の商品を盗んだことになるが、ターゲットの商品で500ドル分ならショッピングカートがそれこそ山盛り状態になる。
女は商品をスキャンせず買い物袋のエリアにも置かないようにしたり、管理スタッフの死角でジャケットの内ポケットに入れたり、カートの隅っこに商品を見えないようにジャケット等で隠したようだが、金額の大きさから首をひねりたくなる。
日本の万引きからすればレベチだ。
またセルフレジでの盗難のニュースは毎日のように流され、YouTubeでも万引き等を映した動画がどんどんアップされている。
こんなときにウォルマートのセルフレジで男がスキャンせずに買い物袋にどんどん商品を詰めている光景に出くわしたなら、どんな反応となるだろうか?
人によってはスマートフォンを取り出して撮影する。そしてXなどにアップロードするだろう。
ハイテク且つSNSの時代、撮影者の思い込みから真面目な中年男性が万引き犯に仕立てられたことが話題になっている。
イリノイ州ベルビル地区のウォルマートで母の日(5月11日)に撮影された14秒の動画「男がウォルマートのセルフレジでスキャンせず買い物している(Man doesn't scan a single item at Walmart self checkout)」がXにアップされた。
中年男性がセルフレジでスキャンもせずに黙々と商品を袋に詰めている映像に撮影者が「こいつは文字通り全てを盗んでいます(This man is literally just stealing everything)」の声が入っている。
「全くスキャンしていません。レジを起動後はスクリーンを見ただけでレジに記録されていないのです(He ain’t scanning shit. So open about it, look at the screen, nothing ringing up)」とつぶやく撮影者。
この動画はすぐに拡散され1,600万回以上も再生された。
しかしこれが大いなる勘違いだとあとで判明する。ウォルマートの宅配サービス「スパーク(Spark)」のドライバーであるビル・アストレさんが仕事をしていた動画なのだ。
彼が使っていたのはアプリ機能「スキャン&ゴー(Scan & Go)」。セルフレジではQRコードを読み取ってレジとアプリを同期後、売り場でスキャンした商品を袋詰していたのだ。
撮影者が最後まで撮影していれば誤解であることがわかったはずだ。アプリを介しレジで決済を行うからだ。
またアストレさんは宅配注文とは別に母の日用に自分の奥さんと母親にバラの花束2つを購入しスキャンしていたのだ。
しかし撮影者は勘違いからアストレさんを万引き犯だと思い違いをし動画を拡散させてしまった。
アストレさんを避難するコメントの他に彼がアメリカンフットボール・チーム「セントルイス・バトルホークス (St. Louis Battlehawks)」のTシャツを着ていたことから「自分たちのファンをなんとかせぇ(Please control your fans)」のコメントもあった。
おかげでアストレさんは友人・知人から注意をうけることになり最終的には地元のニュース番組に出演し身の潔白を証明しなければいけなくなった。
アストレさんはデジタル上にあるレシートを見せながら一夜にしてSNS上で自分が万引き犯に仕立てられた悪夢を語ったのだ。
行動経済学では、最近起きた出来事や印象深かった事件など、記憶のなかでアクセスしやすい情報から早急に判断してしまうことを「利用可能性ヒューリスティック」という。
この利用可能性ヒューリスティックに一般的ではないイノベーション(スキャン&ゴー)が重なり、"セルフレジでスキャンしない"光景を撮影者が勝手に盗難だと思い込んでしまった。
SNSの拡散力からある意味、本当に恐ろしい世の中になったものだ。
トップ画像:ウォルマート・セルフレジでスキャン&ゴーのワークショップを行う研修参加者。
万引き犯と誤解されSNSで拡散されたビル・アストレさん。気の毒としか言いようがない。
⇒こんにちは!アメリカン流通コンサルタントの後藤文俊です。高学歴な人であってもバカな人はいます。ここでいうバカとは、自分を客観視できないことです。東大卒でエリートの道を歩んでいてもギャンブルにハマってしまい、とんでもない大金をバカラ等に溶かしてしまうような人もそう。最近では水原一平がギャンブルで全てを失いました。では後藤はバカではないのかというと、そんなことはありません。自分も客観視できないバカだからこそ"ドーパミンの奴隷"にならないよう予防に努めています。一つが行動経済学や神経経済学などの書籍を定期的に数多く読むことであり、もう一つは自分の判断(早急なやつ)を疑うことです。2002年にノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン氏の名著「ファスト&スロー」や2017年にノーベル経済学賞を受賞したリチャード・セイラー教授による著書「実践 行動経済学」があります。カーネマンのプロスペクト理論やセイラーのナッジはビジネスマンの必須教養です。特に「選択の余地を残しておく」ナッジはアプリで買い物する流通DXでは重要です。
エントリー記事にある利用性ヒューリスティックなら、例えば飛行機事故が起きた際に飛行機での移動を避けて車で長距離移動するとかがあります。直近で見たニュースから自分の判断を安易かつ無意識に歪めてしまうのですよ。
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