先日、うちのサンフランシスコオフィスに日本から起業家が二人訪問した。
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普段はそのような訪問は無闇に受けないようにしているのだが、今回は信頼する投資家の知人による紹介で、会ってみることに。
一人はエクジット寸前。もう一人もかなりの規模の資金を調達した、いわゆる “成功者” だ。日本的な感覚だと。
その二人が初めてサンフランシスコに来て感じたこと。それは、成功の成功の規模と定義の違い。そして、日本とは大きく異なる起業家を取り巻く環境だ。
成功できるかどうかは、環境に大きく左右される
具体的な環境の違いを説明する前に、環境の重要さを理解したい。
以前にとある住職から聞いた話。「なぜ僧侶たちは、修行の際に山寺に籠るのか?それは、俗世にいると、誘惑が多く、修行が続けられないからだ。」と。
環境の重要さは、Googleでも重要視しており、心理的安全性の高いチームが他のチームよりも50%以上高い生産性生み出す結果となっている。
すなわち、たとえ同じ能力値を持っていたとしても、その人を取り巻く環境次第で、結果は大きく異なる。
それでは、彼らと話して再認識した、日本とシリコンバレーにおける、起業家を取り巻く環境の違いを紹介する。
日本とシリコンバレー: 成功のスケールの違い
まず、日本の起業家が感じたのは、日本とシリコンバレーでは ”成功” の概念と、そのスケールが大きく異なる点。
日本でスタートアップ起業家としての成功は、やはり株式上場 (IPO) だろう。最近でこそ、それなりの規模での会社売却も増えてはきているが、アメリカと比べると、まだまだ数も規模も小さい。
たとえば、スタートアップ上場の定番である、東証グロース市場に上場すると、それぞれの状況によるが、ファウンダーとしての起業家の資産は数十億円以上になり、自他共に認める「成功者」の称号が得られる。
そうなると、各種イベントで崇め立てられたり、メディアから取材を受けたり、夜の街でチヤホヤされる日々が待っている。そこで、自己承認欲求が一気に満たされ、イージーモードの人生が待っている。
それがシリコンバレーだとどうだろうか?
数十億円規模の資産を経営したところで、あまり大きな成功とは言えない。いや、成功は成功だろうが、その数字だけで計れるレベルの規模の成功ではない。
むしろ、そのお金を元手に、次のビジネスや投資先を見つけ、数百億から数千億のスケールを目指す。人生においての挑戦をしなくても良いほどの感覚にはなりにくい。
なんてたって、目指しているのはイーロン・マスクやザッカーバーグなわけだから、シリコンバレーでは数百ミリオンからビリオンを目指すのが一般的である。
お金の話ばかりになってしまったが、そもそもシリコンバレーのスタートアップ起業家の多くは、お金以外の尺度を重視しているケースも少なくなく、お金があるだけで周りがチヤホヤする文化も無い。
日本とシリコンバレー: 誘惑とノイズ量の違い**
シリコンバレーの方がより起業家にとって成功しやすいもう一つのファクターとして、「誘惑とノイズの少なさ」がある。
冒頭の山寺に修行に行く僧侶の例ではないが、この辺りは誘惑とノイズが驚くほど少ない。東京のような歓楽街もほとんどなければ、いわゆる「飲み会」的なものも少ない。
もちろん仕事が終わった後に軽く飲みに行ったりすることもあるが、18時頃にスタートし。20時ごろには家に帰っているハッピーアワー系が一般的。
日本的な、飲みながらのビジネスミーティングも少なく、ランチミーティングやブレックファストミーティングなど、非常に健全だ。
そして、平日の多くは、仕事が終わったら、テーマ別のスタートアップ勉強会に行って、最新情報を学ぶことが多い。自分の仕事に直結しない事柄に対して時間を使うことが非常に少ないし、そもそも変な誘いも無いので、断る必要すらない。
それが、日本、特に都会になってくると、頻繁に食事会や飲み会に誘われたり、六本木や麻布界隈を中心に、各種エンタメ系の催しも多い。周りが楽しんでいるのを横目に、自分だけ一人部屋に篭り、プロダクト作りに励むのには、かなりの忍耐と精神力が求められる。
それはまるで、ライオンが目の前に生肉を差し出され、おあずけされてる感じで、非常に辛いし、場合によっては惨めな気分にすらなるだろう。むしろ、闇堕ちしない方が難しい。
この辺も、日本でスタートアップ起業家、それもアーリーステージの起業家にとっては、かなりしんどい環境と言える。
日本とシリコンバレー: 成功者との距離
そして、これが最も重要なポイントであり、シリコンバレーが他の地域と比べて最もアドバンテージを持つ部分。
理論的に考えると、実は多くの場合、東京の方がビジネス的に有利な点が多い。
サンフランシスコ市の人口は80万人程度, シリコンバレー各都市を含む、SFベイエリアを含めても約600万人程である。東京の半分の規模しかない。下手すると日本の地方都市よりもよっぽど閑散としている、超田舎なのである。
なのに、なぜこの地域から一時的ではなく、継続的に世界を変える話題のプロダクトが次々と生み出されるのか?
おそらく、その一番の理由は
“近な場所に、奇跡を起こし世界を変えている人達がゴロゴロいるから”
だと思う。
同じビルの中や、隣のブロックにいる自分たちとあまり変わらない世代のパーカーを着た、なんてことないにいちゃんが Twitter や Airbnb や Uber や Pinterest や Square や Github や Instagram や OpenAI なんかのサービスを作った人たちだと知ると、「なんか自分でも出来るんではないか」と無意識のうちに感じざるを得ない。
周りに同じ年齢層で、同じような生活をして、同じような食事をして、すごいことをやっているやつらがざらにいると、むしろ出来ないわけが無い、という暗示にかかってしまう。
そして、その野望を話してもバカにされない。むしろ、実現のために応援してくれる人が多い。
この地域の凄い所は、「できる」って言ってくれる人達と、もう既にやっている人達の集まりであるという事。そんな「同志たち」の集まりが、起業家のモチベーションと自信を加速させている。この環境の影響力は大きい。
これが日本だと、いわゆる先輩成功者たちは、雲の上の人か、ご立派なイベントの壇上に立っているイメージがあり、恐れ多くて、近づくことが難しいだろう。
そう。良い意味でのポジティブ自己暗示にかけてくれるのが、シリコンバレーという場所なのだ。
実は日本の方が初動が早いことも多い
これはあまり知られていないのだが、実は日本のスタートアップサービスは、シリコンバレーよりも先行しているケースが多々ある。
例えば、SNSのmixiはFacebookの数年前にリリースされ、国内ユーザーを集めていたし、Slackが出る前にChatWorkが、Clubhouseより前にDabelが存在していた。それらは、先に出ていたにもかかわらず市場を奪われてしまった。
しかし、どれも後発のシリコンバレー発のサービスにぶち抜かれる結果になっている。これは、日本国内に留まることによる資金と人材の集まりにくさが原因である。
日本のスタートアップ起業家からすると「それ、うちらが先にやってました」と言いたいところだが、やはり巨大な資本と人的リソースを投入されてしまっては、うつ手がないのかもしれない。
そんな点でも、シリコンバレーの優位性を垣間見ることができる。
結論: 小さな世界にとどまらず、世界に出よう!
このように、日本とシリコンバレーのスタートアップ環境には大きな違いがあり、グローバルな成功を目指す起業家にとってはシリコンバレーの方が適していると言わざるを得ない。
むしろ、現在の日本の環境で起業家として続けていくことも、成功することも、そしてスケールすることにもある程度の限界があるように思える。
一方、シリコンバレーは、誘惑の少ない環境で、大きな目標を持ち続けることができる。
日本のスタートアップ起業家も、視野を広げて海外市場を目指すことで、更なる成功を収める可能性が高まるだろう。
そして、やるならやっぱり最初から世界を目指すのがオススメ。
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