変化を説きながら、自ら変化できないコンサルタントの3つの認知バイアス
■米国で流通研修を行うコンサルタントは必ずといっていいほど変化の重要性を説く。変化の激しいアメリカで店舗視察を行うと変化を目の当たりにするのだ。
■米国で流通研修を行うコンサルタントは必ずといっていいほど変化の重要性を説く。変化の激しいアメリカで店舗視察を行うと変化を目の当たりにするのだ。
変化を説きながら、自ら変化できないコンサルタントの3つの認知バイアス
■米国で流通研修を行うコンサルタントは必ずといっていいほど変化の重要性を説く。変化の激しいアメリカで店舗視察を行うと変化を目の当たりにするのだ。
「変化だ」「変革だ」「革新だ」とコンサルタントが説いても実際は最も変化しないのは流通コンサルタント自身だったりする。
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何度も何十回も何十年にも渡ってアメリカを視察しているにも関わらず、自分自身が変化しようとしない。見方を変えれば変化しないコンサルタントを分析できれば変化できる術をしることが可能かもしれない。
今日はこの変化しない流通コンサルタントを考察してみたいと思う。
米国流通視察で必ず訪れるのがチェーンストア最大手で世界一の小売り店であるウォルマート。ウォルマートの売り場に行くと信じられないほど多くのピッカーを目の当たりにする。
ネットスーパーの注文品を売り場でピッキングするスタッフを「見るな」といっても目に入るほど目立つ存在になっている。
それもそのはずでウォルマートではネットスーパーが熱狂している。ウォルマート・アプリを介して生鮮品をネット注文するトレンドが熱狂状態にあるといっていいほどホットなのだ。
オンライン売上は過去8四半期連続して二桁成長となっており、平均では20%という躍進を示している。
驚くほどピッカーを目にするのに、流通コンサルタントはウォルマートのネットスーパーを研修に加えることはしない。
その理由は経済学のモデル理論に心理学的に観察された事実を取り入れていく研究手法「行動経済学」から分析できるのだ。
流通コンサルタントが変化せよといっても自分の視察ではネットスーパーやアプリを使った研修にせず、旧態依然のままなのは行動経済学から説明できる。
1つ目が「確証バイアス」だ。人は誰しも無意識のうちに自分の行動は合理的であると考えて、自分を正当化しようとする。
一度自分の考えを決めると、それを裏付ける情報ばかりを集めて、自分の考えにはんする情報を無視してしまう。
確証バイアスとは自分にとって都合のよい情報ばかりを集めて自分の考えの正しさを強化する傾向のことで、逆に自分の考えに反するような、邪魔になる事例は見ようとしないことだ。
確証バイアスに老化が加われば、偏った考え方や思い込みをさらに信じ込もうと躍起になる。ウォルマートの生鮮品売り場でピッカーが忙しくピッキングしていても「大したことではない」と事実を湾曲して捻じ曲げ、研修にネットスーパーを取り入れない。
カーブサイド・ピックアップで宅配ドライバーによる往来の忙しさも気にならないのだ。
5年~10年先をいくアメリカの現実より、売り場の基本は商品構成グラフの作成だと研修参加者にグラフの作成を強いる。参加者の隣でピッカーが忙しく働いていても気にもならない。
また"ウォルマートの強さはローコスト・オペレーションだ"の考えに囚われているコンサルタントなら、そもそもピッカーの存在が目に入らないことにもなる。
高齢化すればするほど自分の考えに固執するのだ。
コンサルタントの変化を阻む2つ目が「現状維持バイアス」だ。特に頑固な人でなくても多くの人は変化を避けようとする。未知なもの、未体験のものを受け入れず現状を保とうとするのだ。
例えばレストランでいつも同じメニューを選んだり、飲みに行くのも必ず行きつけの居酒屋だったりする。気に入ったファッションを長く着続けるのはあるあるだ。これらの行動は現状維持バイアスに影響をうけている。
人は小さなことでも変化を嫌う。したがって未知のリスクにさらされないように振る舞う。何か変化があると、損をする可能性が生まれるため、無意識に避けようとするのだ。
米国流通研修で今も5年前も10年前も同じように店舗を見て回っている。ときどき店長インタビューを行うし、料理大会を行う。さらにはわざわざアメリカに来てまですることはないのだが筆記テストまで行ったりする。
どんなにネットスーパーが盛んでも流通コンサルタントは現状の内容を変えない。ウォルマートCEOのダグ・マクミラン氏が「お客様には常に店内でアプリを開いてもらいたい」と語っても、自分の研修にはアプリを使わせない。
なぜならウォルマート・アプリは高齢コンサルタントにとっては未知なもので、一度アプリをつかわせれば若い参加者は感動してしまう。
既存の研修が見劣りすることが判明してしまうのだ。結果、どんなにウォルマートが変化してもコンサルタントは現状を維持しようとする。
流通コンサルタントが自身で変わらない3つ目の理由が「損失回避性」だ。損失回避性はプロスペクト理論とも呼ばれ、簡単に言えば人は損失を避けようとする習性があるということ。
2002年ノーベル経済学賞受賞者であるダニエル・カーネマン氏とエイモス・トベルスキー氏によって提唱された理論であり「損失は利得よりも大きく感じる」という、行動経済学で最も重要な理論となる。
流通コンサルタントが合理的な行動をとるなら米国研修をする以前にネットスーパーを自分で体験する。ストアアプリを使ってAIやARなどの買い物に便利な機能も調べるはずだ。自分で経験しないことには参加者に説明できるはずはない。
一方でこれまで掛かったことのないコストが生じてしまう。結果、目先の損を避けようとして費用のかかることはやらない。損をしたくないため、身銭を切らない。そしてネットスーパーもどんなに市場が拡大していようが無視を決め込む。
大手チェーンストアが莫大な投資をして改良しているストアアプリも見て見ぬ振りをする。研修参加者がスマートフォンアプリのメモ機能を使って商品単位のフェイス数等を記録しても見向きもしない。
一度アプリについて触れてしまうとウォルマート・アプリなど世界最先端の事例を説明しなければならなくなる。そもそも知らないので解説などできるわけがない。
損失を回避するため、コンサルタントは流通DXさえ言及しないのだ。
変化するとは未知なことをすることであり、言い換えれば学習だ。流通コンサルタントの多くは学習を嫌がる。
例えば英語。何十年も前から米国に来ていると豪語するも店長インタビューでは通訳を同伴する。楽天やユニクロなどここ数年で英語を社内公用語にして定着している企業もあるにもかかわらず、自分は英語を学習しない。
居心地がよく、慣れ親しんでいるコンフォートゾーンからでないため、コンサルタントは人には変化せよというが自分は変化しない。ラーニングゾーンにでるのが怖いのだ。
誰にも認知バイアスはある。第三者の視点で流通コンサルタントを見ることで「人のふり見て我がふり直せ」から、客観的に変化に対する自分の立ち位置を確認するのだ。
トップ画像:当社のワークショップ研修。ウォルマートのアプリを使ってスキャン&ゴーと決済方法を試す。これまでになかった米国流通視察だ。
⇒こんにちは!アメリカン流通コンサルタントの後藤文俊です。好きな英語熟語に「スキン・イン・ザ・ゲーム(Skin in the game)」があります。「自らの言動に対して、自分自身でリスクを負う」という意味で最も伝わりやすい熟語が「身銭を切る」ということです。米国の有名投資家であるウォーレン・バフェット氏が使ったことで、より広く使われるようになったとか。スキン・イン・ザ・ゲームは書籍もでていて「ブラック・スワン」で有名な著者ナシーム・ニコラス・タレブ氏の「身銭を切れ『リスクを生きる』人だけが知っている人生の本質」がありますね。自分のお金などをかけることで自分の考え方や行動に対して真剣になると。例えば経営者は自分自身の資金を投資し自らリスクを負うことで自分の意思決定に対する責任を持つことができます。一方、自分自身がリスクを負わずに他人に負わせることができるような政治家や専門家、コンサルタントは責任を取らないため誤ったことをするものです。自分も含めて人は損失回避の傾向です。逆に自ら身銭をきることで、他者を出し抜けるということです。
ウォルマートが好業績なのは"Skin in the game"だから。ネットスーパーもしない、アプリも試さない、買い物もしないような身銭を切らないコンサルタントはウォルマートを視察をしてはいけません。
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