近年、生成AIが大きな注目を集めているなかで、日本発のAI技術でAIモデルなどを生成してDXを支援するAI model株式会社が話題となっている。
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同社は、アパレルECや、モデル撮影やささげ業務の撮影においてAIモデルを活用することで、売り上げの向上や、コスト削減が可能になるとしている。
そこで今回、同社のCTOを務める中山佑樹さんに、AIモデルに関する事業を開始したきっかけから、取り組みの詳細、今後の展開などについて伺った。
EC化が進んだからこその課題
はじめに、御社がAI技術でAIモデル・タレントを生成してDXを支援する取り組みを始めた経緯について教えてください。
コロナが始まる少し前から、アパレルECの売り上げが非常に上がってきましたが、EC化が一気に進んだことで、一つの課題が生まれました。
いわゆる「ささげ業務」(ECサイトにおける撮影、採寸、原稿などの商品情報制作)が非常に労働集約的な現場になってしまったんです。
そのなかで、商品詳細の写真撮影においてモデルを活用しているブランドは、小ロットの商品撮影が発生した際に、コストの都合で撮影を行えない、商品のライフサイクルに対応できず掲載時期を逃してしまう、などの問題が生じていました。
また、そもそもモデルを活用した撮影にコストを割けないブランドは、現在に至るまでEC上に商品のみの画像素材を掲載しているケースも多くあります。このように、ECが成長したからこその課題がありました。
こうした問題を、最新技術を活用して解決できないかと考え、まだ生成AIが話題になる前の2018年頃からAIの研究開発をスタートし、2020年にAI model株式会社を立ち上げ、2022年の8月にサービスをスタートしました。
弊社と他のAI企業との一番大きな違いは、技術先行ではなくマーケット先行という点にあります。
弊社代表の谷口はクリエイティブ制作会社の代表でもあり、大手アパレル企業をクライアントとして、ウェブサイトやECサイトの構築、LookBookやカタログの制作、雑誌のアートディレクションなどを手がけてきましたので、元々ささげ業務における撮影も行っておりました。
そのため、ファッション業界の商習慣を理解したうえで、一番適切な技術と、それをどう提供すれば良いのかをひたすら考えた結果として生まれたサービスです。
自社のエンジンでAIモデルを生成
モデルを生成するAI技術はどのように構築しているのでしょうか。
技術的にはMidjourney(ミッドジャーニー)やStable Diffusion(ステイブル・ディフュージョン)は使用しておらず、完全に自社のエンジンでAIモデルを生成しています。
依頼をいただいた企業向けに専属のAIモデルを作り、クリエイティブの制作までやらせていただいています。
クライアント企業が求めるAIモデルを生成する点には難しさがあると感じるのですが、いかがでしょうか。
おっしゃる通り、一番難しいポイントです。たとえば、人間のモデルオーディションであれば、候補者それぞれのキャラクターや実績、イメージ、バックボーンなど複数の判断要素があるため、採用を決定する担当が複数名であっても「この子がいいね」と、一致するケースが多いんです。ところがAIの場合は、要素が画像のみであることから、判断が難しい傾向にあります。
そのため、弊社内のクリエイティブディレクターらがクライアント企業の意向を把握し、自社で生成したAIに対してスクリーニングをかけたうえで、ご提案させていただいています。
これまでの事例を踏まえ、AIモデルを活用すると、具体的にどのような効果がありますか。
AIモデルの活用は、コストが下がり、売り上げが上がるソリューションであることが一番だと言えます。
特に、これまでモデルを予算的に使えず、商品画像のみを掲載していた企業は、AIモデルが商品を着用した画像をEC上に掲載可能になったことで売り上げが向上しており、非常に効果があります。
そこで生成して活用したAIモデルを「今後も自社専属として使い続けたい」とおっしゃっていただくケースが多いです。
すでにモデルを活用している企業においても、リードタイムが短い一部の商品や、ブランディングやプロモーションにAIモデルを活用いただくことでコストが下がります。
しかし、弊社はファッション業界に関わってきた経験からも、人間のモデルでしかできない表現もあると考えています。AIモデルを推進しながらも、モデル業界と対立構造になるのではなく、双方にとって利益となる仕組みも考えています。
モデル事務所とトライアルしている取り組みとして、実際のモデルの年齢や属性を変えることでモデルの仕事を増やそうと考えています。
たとえば、「この40代のモデルが30代だった頃のイメージが合う」という依頼があった際、30代当時の姿をAIで生成して使用いただいた場合、そのモデルの報酬となる仕組みを、一部テストを兼ねてスタートしています。これが活用されると、モデルの方々は年齢を重ねても長期にわたって活躍できる可能性があります。
AIモデルの「CM出演」で得た気づき
御社は、昨年注目を集めた「伊藤園」のCMにAIモデルを提供していますが、一般の方からの反応はどのようなものでしたか。
CMは非常に反響があって、お問い合わせもたくさんいただきました。想定としては、否定的な意見も多いのかなと考えていたのですが、「とてもリアルで人間だと思った」「スキャンダルが起きないから、今後もっとAIモデルが増えそう」など、好意的に受け止めていただきました。
その理由としては、先ほど申し上げた弊社の取り組みと同じで、技術先行ではなくAIを使う目的がきちんとあったことが大きいと考えています。
元々商品のパッケージに生成AIを使うなど、先進的な飲料であるというイメージを表現したいという企画が先にありました。そこで登場する人物をどう見せるべきかと考えた際、特殊メイクでもなく、CGでもなく、AIで表現するということでお声がけいただきました。
AIを技術として見せたいと考えたのではなく、もっとも適した表現形態としてAIを活用したのが良かったと思っています。
もちろん、少ないながらも「生成AIを使うことはそもそも反対だ」「タレントの仕事を奪うんじゃないか」という否定的な意見もありました。
生成AIに対する批判については、「生成AIの何が問題なのか」をきちんと切り分けて議論することが大事です。たとえば「生成AIのデータセットの問題なのか」「生成AIを活用する際の契約の問題なのか」は、生成AIの問題ではありますが論点はまったく異なります。
そのため、今後はガイドラインを作ることが重要だと思います。何が問題で何をしてはいけないのか整理することが必要です。結果として、それをはっきりさせることで反対意見も減っていくと思います。
「生成AI」の可能性
3月上旬からは「伊勢丹」との実証実験も始まりましたが、今後どのような取り組みを展開していきたいですか。
伊勢丹との取り組みは、具体的にAIモデルを活用することで、どれほどの効果が生まれるのか、精緻な効果測定まで行いたいという目的のもと、スタートしています。
こうした実証実験なども踏まえて、今後もアパレル業界のDX化を進めて、売り上げを伸ばしたり、コストを下げたり、業界に関わっている方の助けになるサービスを展開していきたいです。
さらに、AIモデルに人格を持たせるなど、生成AIにはまだまだ可能性があります。将来的には、アパレル業界はもちろん、もっと広範囲の人々の課題を解決する事業を展開できたら、非常に面白いと考えています。
PROFILE|プロフィール
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中山 佑樹(なかやま ゆうき)
AI model株式会社
CTO
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