3月1日にオープンする「旧尾崎テオドラ邸」は、世田谷区豪徳寺に現存する築135年の洋館だ。一時は取り壊しの窮地に陥っていたという同館だが、漫画家の手によってそのピンチを脱し、今回オープンするに至った。オープンに先駆けて行われたプレス発表会では、漫画家の山下和美、笹生那実、新田たつお、三田紀房、高橋留美子、福本伸行、高橋のぼる、ちばてつや、永井豪、秋本治、大和和紀らといった日本を代表する漫画家が登壇。なぜこの洋館が漫画家に愛されるに至ったのかを熱く説明した。
旧尾崎テオドラ邸とは、取り壊しから一点漫画家に守られた建物
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旧尾崎テオドラ邸は、明治41年(1908年)に建てられた元東京市長 尾崎行雄の旧邸とされていたが、近年の調査研究の結果、日本民話の数多くを英訳した著者としても知られている尾崎の妻 尾崎テオドラの父が、明治21年(1888年)に英国風の洋館として麻布に建てた新説が有力になっている。鹿鳴館の建造からおよそ5年後に建てられた洋館であることがわかり、歴史的価値を有することがわかった。その後、1933年に麻布から現在の豪徳寺2丁目へと移築。英文学者の住居としての機能を担っていた。
2019年、同館が取り壊しの危機に陥ったことをきっかけに「不思議な少年」「天才柳沢教授の生活」などの作品で知られている漫画家 山下和美氏を発起人に、地域や行政を巻き込んだ旧尾崎邸保存プロジェクトが始動した。山下の考えに賛同した「静かなるドン」などで知られている漫画家 新田たつお氏が旧尾崎テオドラ邸の土地を購入した後、建物を維持活用していくための修復費約1億円を、「ドラゴン桜」の三田紀房氏、「犬夜叉」「らんま1/2」「うる星やつら」の高橋留美子氏、「賭博黙示録カイジ」「アカギ」の福本伸行氏らが無利子融資したほか、2回にわたるクラウドファウンディングなどで工面し、今回のオープンに至った。また、これから漫画家やイラストレーターら38人が描き下ろした色紙やイラスト原画、立体作品70点をオークション販売。落札額全額を建物の補修保全費用に充てるという。
気になる内装、原画ギャラリーや喫茶室も
3月1日にグランドオープンする旧尾崎テオドラ邸は、築135年、敷地面積400平方メートルの二階建て。一階に英国風洋館の雰囲気を楽しみながらブレンドティとケーキやスコーンなどのアフタヌーンティを提供する喫茶室と、アンティークチェアなどに座っての撮影が楽しめるフォトスタジオ、コーヒーカップやハンカチなどを販売するショップ、二階には漫画を中心とした原画展示などを行うギャラリーを完備する。なお、事業が軌道に乗り始めた段階で、文化財に指定されるための申請を行う予定だ。
漫画家たちの想い
同プロジェクトの発起人山下氏は「可愛らしくて品のある佇まいがとても好きで、散歩のために眺めていたが、解体されて、建売の家が7軒建つことを知り、いてもたってもいられなくなった」と当時を振り返り、「建築保存をしようと思った時、それを共有する同じヴィジョンを持つ人を見つけるのが最初にやることで最も難航した。館が一番いい形で残る方法を考え抜いた結果、漫画家が、漫画家の力で、漫画のために事業を行うのが良いのでは、という話に落ち着いた」と、投資家などに頼らず、漫画家が主体になった同プロジェクトについて説明した。融資をした高橋氏は「こういう洋館がもしも残せるのなら夢があると思い、迷うことなく融資した」とコメントした。
同館のオープンに際してお祝いにかけつけた「あしたのジョー」のちばてつや氏は「漫画家というのは大ヒットを出している時はいいけど、普段はお金がなくてかつかつで生きているはず。そんな中で漫画家同士がお金を出し合い、この洋館を守り、日本の漫画文化を発信する起点として機能するのはとても価値のあることだ」とした上で「こういうことは、本来国がやるべきことだ」と言及した。
続けて「マジンガーZ」「キューティーハニー」の永井豪氏は「地域の人たちが楽しく漫画の原画に触れられる場所ができたことは喜ばしいこと。漫画はまだまだ歴史の浅い文化。ようやく日の目を見る文化に育ってきたと思う」とコメント。それを受けて「こちら葛飾区亀有公園前派出所」の秋元治は「漫画家の人たちが自分たちで原画を見せたいというのは新しい志。東京の新しい名所になることを祈っている」とした。
旧尾崎邸保存プロジェクトの関連事業として、漫画家の原画を販売する越境ECサイトを3月1日に開設。大御所漫画家の原画が相続税の対象であることから焼却処分を余儀なくされていることを受け、「原画の有効活用と、海外に向けて日本の漫画文化を発信すること」を目的に立ち上げ。描き下ろしの直筆原画などを即決価格で販売し、その収益は旧尾崎テオドラ邸に使用されるという。
◼️旧尾崎テオドラ邸
オープン日:2024年3月1日
所在地: 東京都世田谷区豪徳寺2丁目30−16
公式サイト
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