北九州市が1月7日、小倉北区の北九州メディアドームで「二十歳の記念式典」を行った。毎年ド派手な衣装をまとった新成人たちが集結するとして話題を集める同市の成人式。こうした装いに対して「式典に相応しくない」として批判的な意見も長らく挙がってきたが、近年ではネガティブなイメージが払拭されつつある。衣装のユニークさが世界から注目され、海外メディアに取り上げられるなど特にファッション的側面での評価が高まっている。昨年2月に就任した武内和久 北九州市長は「北九州市の成人式って最高でしょう。それぞれ皆輝いている。今やド派手衣装はこの街のカルチャーです。20歳を迎えられた皆さんと共に、誰かの価値観を否定しない、お互いを応援する街を作っていきたい」とポジティブに話し、若者の自己表現の自由や多様性を尊重する。
“ド派手衣装”を手掛けるのは同市の貸衣装店「みやび」。約20年間、職人たちが手作りで個性的な衣装を作り続けている。昨年9月には、ニューヨークファッションウィークに公式参加。ランウェイショーで成人式衣装を披露し、独創的なデザインが脚光を浴びた。「成人式の日のために100万円近いお金を貯め続けて、自分だけのオーダーメイド衣装を作る人もいる。みやびさんもその人たちと話し合いを重ねながらデザインを仕上げ、職人たちが作り上げていく。成人式の日に向かって思いを凝縮させて、その日に思いっきり自分を表現する。彼らのファッションは一人一人のストーリーが宿った、ものすごく思いが詰まっている衣装なんです」(武内市長)。2024年の成人式は昨年よりも1000人以上多い来場者数を記録したという。レインボー柄やヴィヴィッドピンクの袴、巨大なリーゼントスタイル、名前が入った極彩色の幟など、新成人たちは思い思いのハレの日の装いで会場を訪れた。多くの報道陣が詰めかけたほか、海外旅行者が着物姿の新成人と撮影する姿も見られ注目度の高さがうかがえる。
式典終了後、武内市長は敷地内の広場へ移動し、新成人たちと交流。「みやび 小倉本店」店長・デザイナーの池田雅氏も会場に駆けつけ、ニューヨークファッションウィークに登場した衣装を市長に着付けする場面もあった。「実際に着てみると、日本の伝統的な着物の重厚感が感じられ気が引き締まる一方で、華やかな色合いや見た目にも美しい煌びやかな装飾はふわっと体が浮き上がるような軽やかな気持ちをもたらしてくれる。そんな2つの感覚が奇跡的に融合した一着ですね」(武内市長)。海外旅行者向けの衣装体験など観光資源としての活用も今後視野に入れ、北九州市発のファッションカルチャーの盛り上がりによるインバウンドへの期待も寄せる。
北九州市は門司市、小倉市、若松市、八幡市、戸畑市の五市が合併し、九州初の政令指定都市として、戦後の高度成長が加速し始めた1963年に誕生。昨年で市制60周年を迎えた。武内市長は「異なる地理的背景、産業、文化を持った街がひとつになっているのが北九州市。良い意味でやんちゃで、多様なカルチャーを受け入れ高め合う寛容さがある。この街の人々は自分たちの力で熱量高くアクションを起こそうという人が多い。これまで醸成されてきた情熱的な街の側面が、成人式のカルチャーにも投影されているように感じます。あとは、元々それぞれの街で催されていた様々な祭事が合併後も続いているんですが、となると年間を通じて本当に沢山の行事が開催されるわけですよね。"祭文化"が日常に根付いた街ですから、新成人の方々を見ると成人式をフェス気分で純粋に楽しんでくれている印象があります」と話す。広場でド派手衣装を楽しんでいる人の中には市外から来る姿もあるといい、北九州市発のファッションカルチャーが波及している。「たとえば、もはや成人式という枠組みではなく、国内外から20歳を迎えた若者たちが好きなファッションで自分を表現して楽しめる"成人フェス"なんてイベントにしてしまっても面白いですよね」と固定概念にとらわれないアイデアも明かした。
北九州市では、フィルム・コミッション(地域活性化を目的とし、映像作品のロケーション撮影の誘致及び撮影サポートを行う)としての30年以上にわたる実績を持ち、昨年12月には「北九州国際映画祭」を初開催するなど「映画の街」として知られている。その他にも、2022年から台湾文化センターと共同でアーティスト・イン・レジデンス事業を実施するなど、行政としてクリエイターの制作活動を支えてきた土壌がある。「若い方々が自分の居場所を見つけて自身が表現したいことを思う存分やっていただけるようなサポートができる街にしていきたいと考えている。みやびさんはじめ、北九州市発のファッションやカルチャーを積極的に応援したい。情熱的な人柄と、世界に通じる美意識、多様な文化が混じりあう北九州市は感性が刺激されるインスピレーション源が詰まった街。ファッションという文脈からも底力があると感じている。ファッションを介して表現をしたい方々が、国内、そしてアジア中から集まるような若者の挑戦を応援できる街にしていけたら」(武内市長)。北九州市を国内外から人が集まるファッション拠点へ。北九州市のあくなき挑戦は続く。
Image by: FASHIONSNAP
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