円安が叫ばれるようになって1年以上が経過した。円が下がり始めた頃に比べると、さらに円安が進んでいる。詳しく見ていくと、今年8月の半ばには為替レートが1ドル145円を超える日があり、10月には同148円台までレートが上昇。11月に入ると、ついに1ドル150円の大台に達し、日によっては151円をつける日もあった。
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12月7日には、日銀の植田和男総裁が「年末から来年にかけて一段とチャレンジングになると思う」と発言したことで、円買いドル売りの動きが強まり、円相場は一時1ドル=141円台後半まで円高に振れた。来年には円高に戻るとの予測もあるが、物価高と並行して賃上げが進まなければ、景気が下振れるのは避けられないと言える。
そもそも現在の円安の主な原因は米国の金融引き締めと言われる。だが、日本側もバブル崩壊後からの長期不況により、産業全体の生産性が上がらず国の力が弱まってしまったことがあると思う。製造業が円高により中国はじめ、アジア各地で生産を委託したことで、これらの国々が日本の高度な技術ノウハウを取得し、人材育成を進めて大きく経済成長したわけだ。
当然、外貨を獲得すれば為替が変動し、円安に触れていく。1ドル140円以上の今は、1990年代のような1ドル100円の円高時代と比べ、日本が購入する海外製品の価格は5割近く上昇し、外国人が日本の製品やサービスを購入する価格は、3割以上安くなっていることになる。インバウンド効果はまさにそれだ。
アパレル業界でも円安の進行で、海外製品のコスト上昇、販売価格のアップが続いている。メーカーの中には、生産を海外から国内に戻すところもあるようだが、格安の製品になると受け皿となる国内工場がないため、生産をローコストの第三国にシフトするなどで何とか乗り切ろうとしている。また、製品に使う素資材、生地の混紡率を変えることで、価格を上げずにコスト吸収しようという苦肉の策も見られる。
例えば、あるSPAブランドのジョガーパンツは、数年前までは綿100%だったが、今では綿88%、ポリエステル12%に仕様変更されている。理由は色々あると考えられるが、綿糸などの値上がりもあると思う。このパンツをスポーツで利用する場合はどうか。合繊が増えると多少の暑さは感じるし、汗の吸収も綿100%よりは鈍くなるかもしれない。逆に丈夫さは増し、洗濯による色落ちも綿100%より抑えられる。一長一短はあるだろう。
コスト上昇を価格に転嫁できないために仕様を変更する。購入客の反応はどうなのだろう。ファストファッションが浸透した状況を見ると、素資材のコストを削ぎ落としても、割安で洒落なファッションを求める傾向になっている。となると、質と流行はトレードオフの関係になったるようだ。先日、ユニクロがコラボした英国ブランド、「アニヤ・ハインドマーチ」が発売と同時に完売したというニュースが象徴する。
一方、円安でも仕様変更せず、価格に転嫁しているものもある。アパレルでは、海外の高級ブランドがそうだ。円安以前から2~3割程度値上がりしたような感じで、20万円程度だったアイテムが急激な円安以降は30万円近くになっているものもある。これではいくらブランド力があると言っても、富裕層でさえ割高感は否めない。せっかくのクリスマス前にも購入に二の足を踏む人もいるのではないか。
総務省がまとめた10月の消費者物価指数(2020年を100とした場合)は、価格の変動が激しい生鮮食品とエネルギーを除く総合指数が4.0%上昇している。この傾向は7ヶ月連続だ。消費者が感じる物価上昇のイメージは数値以上に高いはずだ。何せ毎日に食生活に欠かせないパンや肉、卵、野菜が10月には8.3%も上がっているからだ。これでは実需を迎えている冬物衣料まではなかなか手が出せないだろう。
値上がりしても売れているものはある
11月の最終金曜日は、小売り各社が「ブラックフライデー」と目打ったセールを実施した。テレビメディアは米国のソファブランド「yogibo」銀座店のセールを報道。11月24日から30日まで全商品が10%オフになるが、24日(金)の午前0時から1時までの1時間のみのミッドナイトセールでは、限定300名が最大で50%offで買い物できた。この整理券をもらうために早朝から店舗前に並ぶお客がいるのを見ると、欲しいブランドもプロパーでは手が出ないが、セールなら何とか手に入れたいとの消費欲求がわかる。
結局、消費者の多くは買いたいものの優先順位をつけて、少しでも安く手に入れたいとの傾向が強いようだ。また、ネット通販がすっかり浸透した中で、消費者はいきなりポチるのではなく、カゴに入れてから後に購入するか否かの判断をするようになっている。結果、カゴ落ちの商品も少なくないのだが、物価高が理性的な消費を促していると見て間違いない。筆者も既製の衣料品はネット通販を含め欲しいものが見つからないので、今冬も購入するには至らなかった。一方、例年この時期にはまとめ買いするものがあり、今年も購入した。カルディコーヒーファームに並ぶ食品や酒類だ。
まず、「ラプンツェル グリューワイン1000ml」。赤と白の2種類のドイツ産ホットワインだ。飲料用はもちろんだが、クラムチャウダー(マンハッタンスタイル)などの煮込み料理にも使えるので、各2本ずつ(計3948円)購入した。昨年はプロパーで1000円以上していたが、今年は円安にも関わらず税込987円とお買い得になっている。
家族用にはオーストラリア製の「ティムタム」のチョコレート菓子。オリジナル、チューイカラメル、ホワイトを各2個ずつ。こちらは昨年は確か398円(税込)だったが、今年は円安の影響で498円(同)と100円も値上がりしている。6個で約3000円とさすがに割高感は否めなかったが、それでも取扱店ではカルディが一番安い。シーズン商品で在庫は追加されないため、完売しないうちにまとめ買いした。
自分用にはジャンナッツの「プロヴァンスシリーズ・フルーツティー4種」を購入する予定でいたが、在庫がなかったため断念。代わりに同ブランドの「ゴールデンムーンチャイ」(税込1715円)を購入した。他にカルディオリジナルの「ぬって焼いたらメロンパン」332円。締めて8983円。食品とすれば高額な買い物になったが、約半分は酒代だから嗜好品と考えれば妥当な値段だろう。
筆者の買い物スタイルが特別なのかとも思ったが、グリューワインはファンも多いようで、段ボール箱の上にディスプレイされた在庫は順調に消化していた。このワインは他のワインセラーでは見かけないことから、カルディに並ぶのを楽しみしているリピーターは少なくないのかもしれない。ドイツワインで甘さもあり、料理酒としても使えるなど汎用性もある。今年はさらに1000円を切るプライスが魅力になっている。おそらくシーズン中には完売するだろう。
ティムタムは値上がりしているにも関わらず、人気は底堅いように感じる。筆者が買い物した日も同じようにカゴに4~5個入れる女性客がいた。値上がりしたとは言え、バレンタインデーの高級チョコと比べればまだまだ安い。買い物慣れしたお客は他のチョコレートと比べて、どれを購入する方が得なのか。味や量などを検討した結果、ティムタムを選択する人が確実にいるということだ。こちらもリピーターに支えられているのは間違いないし、カルディは季節商品化している。売れ残りを見たことがないので、完全売り切りだ。
メディアは物価高をことさらに報道し、政権の無策ぶりを追及する。確かに物価高は多くの国民の生活を困窮させ、企業にとっても売上げを鈍化させるので、好ましくはない。ただ、生活必需品と趣味の品の中間にあるような商品の売れ行きにも目を向けるべきだ。カルディが扱うようなコーヒーやワイン、専門メーカーの調味料や食材がそうだ。必ずしもお金持ちの御用達というわけではなく、一般庶民の多くも購入している。レジ待ちがそれを如実に表す。
カルディは輸入品の他に、百貨店やスーパーの流通ルートに乗らない国内専門メーカーの食材も多数販売している。どこも製造コストの上昇が大変だと思うが、この物価高を契機に多くのメーカーが利益も生産性も低い状況から抜け出すべきではないか。これまではコストに対する売価の比率「マークアップ率」がデフレ禍が続く中であまり低すぎたのだ。コスト削減で収益力を高めるのは限界だし、いつまでも競争力を維持できるわけがない。
カルディで売れている商品は決して安くはない。むしろ値上げされているものも多く、はっきり言って高い。それでも買っていくお客さんは少なくない。値上げしても売れる、高くても買わせる自信がある商品ばかりなのだ。商品に付加価値があるからこそ、この値段でも売れてると、卸のメーカーも小売りのカルディも踏んでいるのだ。
日本の消費者は完全に成熟しており、1円でも安く買うことを考える一方で、年収に関係なく欲しいものには大枚を叩く傾向がある。100円も値上がりしたチョコレート菓子でも、ファン客は二の足を踏むことなく購入していく。オタクが好むアニメ系の商材などもそうだろう。他はケチってもそれには臆することもなく投資する。ホリデーシーズンの今はそうした傾向がいっそう強くなる。
店側も売値を高くしても、好きなお客には確実に売れるとの手応えを得ているはず。高い価格だから売れないのではなく、高くても売れる商品を作り、それで収益を上げていくことが肝心なのだ。ハレの日に向けた品揃えがますます重要になる。
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