■イノベーションを煎じ詰めればパーソナライゼーションだ。流通イノベーションは如何に個人の買い物がその人のライフスタイルや価値観に応じて便利になるかというものなのだ。
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当社ではクライアントに米国の進んだ流通イノベーションを体験してもらうためワークショップスタイルで研修を行っている。
具体的にいえば研修参加者にアイフォンやアイパッド・エア、アイパッド・プロを提供してストアアプリ等を一人ひとりに体験してもらっているのだ。
研修中は早朝から夕方まで長時間にわたって参加者にモバイルデバイスをストレスフリーに使用してもうらため、パスコードをシェアしている。
個人でも使っているアイフォンやアイパッドのロック解除で、6桁のパスコードを参加者と共有しているのだ。
デバイスをシェアするので個人情報を覗き見することも可能になる。
一時的でもモバイル機器にパスコードまでシェアすることは、ワークショップを提供する当社にもリスク管理が必要となってくる。
つまりお付き合いするクライアントも当社は選択しなければならない。
そのためクライアントの社員の信用度を担保するためにもどうしてもコンサルティングフィー等、費用を高めに設定することになる。
企業トップや経営者のデバイスばかりかパスコードまで共有できる責任者を役員の一部に限定するのと同じ理屈だろう。
自分のアイフォンやアイパッドのパスコードをシェアすることを考えれば、極めて信用度の高い人に限ることになる。
言い換えれば少しでも信用度が低いなと感じることがあれば研修依頼もお断りするようになる。
直近でも日本の某大手小売チェーン一社から依頼お断りのメールがあった。なぜならば筆者がキャンセルさせるように仕向けたからだ。
実はこの企業に対してオンラインでのコンサルティングセッションを行っていて関係性は悪くなかった。ただお付き合いの中でなんとなくモヤモヤした妙な違和感も感じていた。
ズーム等を通じたミーティングで社員から感じられたものなのだが、どこかしらシニカルだったのだ。
当社がお付き合いするクライアントの社員さんは役職に関わらず総じて素直な方ばかり。
某企業と行ったコンサルティングセッションで得たアンケートは高評価だったのだが、一部に冷笑的な意見も散見されていた。
オンラインセッションが評判が良かったため、ワークショップ研修を依頼してきたのだ。
依頼された当初は研修先(ロサンゼルスやシアトル、ニューヨーク)に参加人数もわからなかったので見本となる研修日程表とサンプルの見積もりを送付。
その後、某企業から参加者の名簿まで送られてきたので詳細な見積もりにして返信したのだ。ある費用項目について同じ不満を2度に渡って入れてきた。
ここで初回からあった違和感の正体が、取引先に対する対応であることがなんとなく理解できた。
お互いの信頼を醸成するよりも少しでも安くできる取引先、ということだ。
B2Cの小売業とは異なり、コンサルティングに関わる値段設定は顧客が得られる「価値」から決めている。
コンサルティング費用は高額なデバイスにパスコードまで共有するためリスクヘッジの意味もあるのだ。
こういった説明後は逆に某企業からの返信が極端に少なくなった。
こちらから進捗を尋ねると(参加者名簿まで送ってきたにも関わらず)協議中だと言い出す始末。
スピードの時代に3週間以上にわたり対応が止まっていたので再度プッシュしたのだ。すると前述したように研修自体をキャンセルしてきたのだ。
「まぁ、そうだろうな」と思いながら、何気なくYouTubeでこの企業名で検索すると衝撃的なニュースが目に止まった。
この企業の幹部役員(複数名)が長期間(10年近く)にわたって取引先に架空発注を繰り返し、不正に金を受け取っていたという。
複数の取引先におよそ1億円にのぼる架空の発注を繰り返しながら、リベートとして多額の金銭を受け取るなどしていたのだ。
これで「なるほど!!!」と膝を打った。当初から感じていた、モヤモヤした違和感の正体が、社内に蔓延する不信感なんだなと。
某企業はそもそも社員を大切に扱っていない。だから社員研修の費用を少しでも安くしようとする。トップが社員を信用していないから社員は取引先とも信頼関係を築けないことにもなる。
しかも社員はこのいびつな社風に気づかないし気づけない。一部に暴走するような役員もでてくる企業風土となっていたのだろう。
ハーバード・ビジネス・スクール教授のエイミー・エドモンドソン博士が提唱する「心理的安全性」がこの企業にはない。
したがって信頼・信用以前に低費用とかコストばかりに向かってしまう。
この企業の社員らに自分のパスコードをシェアせずに済んだことを心からホッとした。
類は友を呼ぶの英語のことわざ「羽の鳥は群がる(Birds of a feather flock together)」の反対バージョンで、価値観が異なる企業と群がれなかったことに安心したのだ。
トップ画像:ワークショップ研修でネット注文品をスタッフから受け取る参加者。当社ではスマートフォンやタブレットを使ってDX体験するため、デバイスからパスコードまで共有している。したがって信頼の低い企業とのお付き合いではできないのだ。
⇒こんにちは!アメリカン流通コンサルタントの後藤文俊です。エントリー記事にある某大手チェーンストアは当初から「なんだろう、このモヤモヤ感?」をずっと抱えていました。当社のクライアントさんは能力的に優秀なのはもちろん、人間的にも素直でオープン、言い換えればコーチャブルな方々です。コーチャブル(Coachable)とは「コーチ(Coach)」と「可能な(able)」が組み合わさった英語で「コーチング(教え)を受けられる状態にある人」を指します。でもこの企業には、どこか鎧のあるシニカルさを感じていたのです。後藤にも認知バイアスもあるので心の奥にある違和感はとりあえずそっとしておいたのです。メールでやり取りを続けると「価値観が合わない」もしくは「付き合ってはいけない人たち」の感情も大きくなっていたのも事実。で、研修見積もりの費用項目で相手が値切り交渉を始めようとしたので「即アウト!」という対応に変えました。で、意図的に煽りのある文面にしたことで、正式にキャンセルをいただき関係を終了したのです。で、驚いたのが社員の不正を報じるニュースでした。
社員一人ひとりは多分、信用が低かったり、マウントを取るような悪い雰囲気ではないと思います。社内にはびこる僅かな不信が取引先等との関係に大きな不信感を生むのではないでしょうか。良い勉強になったと同時にパスコードをシェアせずに済んだことに安堵しましたね。
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