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オーダーメイドスーツが復活 既製品との違いを感じるためには

オーダーメイドスーツが復活 既製品との違いを感じるためには

クリエイティブディレクター
HAKATA NEWYORK PARIS

 11月の半ば、「千鳥格子の生地を使って冬物のジャケット、パンツを誂えよう」とのコラムを書いた。実は、それを思いついたのは昨年で、コロナ禍が収束すれば暇を見てオーダー専門のテーラー、ナポリ風に言えばサルトリアを訪れてもいいかと思っていた。

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 ただ、どのオーダー専門店もだが、一般のショップとは違い接客に時間をかけてくれる。それはそうだ。お客の体型や要望にそった一着を作るわけだから、対応するスタッフはまずお客からじっくりヒアリングをしなければならない。そのため、必ず「事前予約」を求められる。店側にもスケジュールがあるし、担当のスタッフを当てる以上、予約してもらった方が対応しやすい。

 ただ、こちらとしては事前予約は、どうも敷居の高さを感じる。また、一旦予約をすると、その時間に仕事の用事ができた時に、どちらを優先するかで非常に迷う。予約をキャンセルすれば、店側に迷惑をかけるし、かと言って仕事を放ってプライベートを優先するのも難しい。客側の身勝手かもしれないが、気軽に店を訪れてライブラリー感覚で自由にバンチブック(生地見本帳)を閲覧でき、お気に入りの生地を探せないものだろうか。

 もちろん、店側も商売だし、既製服のように陳列されている商品から選んでもらうわけではない。オーダーは一点もので、単価も高い。それを制約に結びつけるワケだから、相当の接客能力を持っているはずだ。客側も一度、オーダーの着心地を知れば、もう既製服には戻れないことがわかる。それでも、こちらが買い物に対して主導権を握れないと、どうしても躊躇いの気持ちが出てくる。大枚を叩くわけだから、失敗しないように慎重にならざるを得ないのだ。

そこで、予約もしなくても、生地を確認する方法をこの1年の間にずっと考えていた。たどり着いたのがこうだ。

①まずオーダー専門店をピックアップ
②スタッフに希望する柄(千鳥格子)をバッジブックから選定依頼
③生地の写真と見積りをメールで事前に送ってもらう
④気に入ったものがあれば、オーダーを検討する

 ざっとこうだ。これなら、こちらでじっくり検討できるし、気に入った生地が見つかれば店に予約を入れ、気に入らなければオーダー専門店の候補から外せばいい。

 既製服のネット通販、特にグローバルブランドはアイテム情報として写真を多面的に掲載している。モデルが着たカットから、置き撮りによる商品の正面、背面、側面、そして生地の質感がわかるアップ写真までと様々だ。素材の厚みなどの詳細までわかるともっといいのだが、いろんな写真があれば購入の条件として妥協できなくはない。

 一方、オーダーは生地の種類がインポートに国産を含めると相当数に及ぶ。シーズンごとに生地は改変され、廃番になるものもあるようで、バンチブックも入れ替わるとの話だ。そのため、生地をシーズンごとに画像化するのは難しいと思う。第一、生地メーカーもオーダー専門店も、実際の生地に触れてから誂えてほしいとのスタンスのはず。写真程度では生地の質感はわかるわけがないし、まして着心地までは伝わらないという思いではないか。

 だから、これだけアパレルにデジタルが浸透した時代でも、オーダー専門店は頑なにアナログの接客スタイルを貫くのだ。しかし、オーダーする側としては、わがままを言わせてもらうなら「そこを何とか」という思いである。そこで、こちらが希望する千鳥格子の生地イメージを伝え、「写真を撮って見積りと一緒に送っていただけませんか」と、各店に伝えてみた。すると、候補4店舗のうち、3店舗から早速、写真と見積もりが送られてきた。

 こちらとしては、まず単価が低いパンツからオーダーしようというプランだ。だが、今のところ、オーダー専門店からは、80年代に穿いていたような冬向けで、メルトンとフラノの中間ぐらいの起毛系生地が提案されていない。ジャケット用で生地が厚め、柄も大きめなものはあるが、少し小さめの柄で、起毛系のウール地がないのだ。どうしても生地がスーツ向けになるためだろうか。あとは他のオーダー専門店も含め、直接予約して店に出向くしかないだろう。

 まあ、来年も再来年もずっと着て、穿けるアイテムを作るつもりだから、じっくり時間をかけて選べばいいと思う。最後は直接海外から生地を輸入することも検討しなければならないかもしれない。それはそれでも楽しいし、やってみる価値はあると思う。

麻布テイラーの復活は本物か

 ところで、当方がオーダーを検討して1年。一時のブームが沈静化し、業績がピークアウトしたオーダー専門店に復活の兆しが見えてきている。その代表格がメルボメンズウェアーのオーダースーツ店の「麻布テーラー」。ちょうど先日、以下のような報道があった。

 「既存店売上高が前年同期比2ケタ増で推移」
 「納期の短縮やデジタル販促の強化などで、新規客が大幅増」
 「好立地へ移転した店舗なども想定以上」
 「中・長期的には40店(現在27店)まで拡大できる」

 お客が店を訪れ、生地の選定や採寸、仮縫いなどを行なってから、出来上がるまでの納期は従来、8週間までかかっていた。それを生産管理の専門家1人を採用し、グループの生産会社、メルボ紳士服工業(滋賀・広島工場)と円滑にやり取りを行い、店頭受注後の縫製前工程や検品・出荷の工程を見直し。OEMをやめ、生産を自社に一本化したことで短納期化に繋げた。現在は最短で3週間、通常では4週間で納品されるようになったという。

 店舗もこれまでメジャーな立地から外れたところが多かったが、それをメインストリートや都市型SCへの移転を進めたことも、広域から新規客を集め売上げ増につながったようだ。確かに福岡店もかつては大名地区にあったが、メインストリートから路地に少し入った雑居ビルの2階だった。それが今年10月には再開発中のビルが立ち並ぶ天神の明治道路沿いに移転オープンしている。

 麻布テーラーは昨年、洋服の青山が運営母体である「エススクエアード」の全株式を取得したため、青山商事の子会社となった。持ち株会社エススクエアードの傘下にメルボメンズウェアー、メルボ紳士服工業などがあるため、事実上はスーツ量販店である洋服の青山の傘下入りとなったのだ。

 メルボメンズウェアーは2020年2月期は純損失125万円と赤字転落。その要因はオフィスカジュアルやアクティブスーツの浸透などで、ウーステッド系のスーツ離れがあると言われた。また、麻布テーラーの黄金期は2002年から2010年頃までで、2015年頃から雑誌媒体への露出や広告出稿が激減していたことで、この頃から業績がピークアウトし始めたのではないかという識者もいた。

 一時は雑誌メディアが仕掛けたクラシコイタリアのスーツブームの追い風もあり、意識高い系の男たちは百貨店催事や量販チェーンの2プライススーツには見向きもせず、10万円程度のオーダースーツを販売する麻布テイラーに引き寄せられただけ。こうディスるする識者もいたが、今回の報道を見れば全盛時に戻ったわけではないにしても、少しずつ回復傾向にあるのは確かだろう。

 別にクラシコイタリアのスーツが再燃したわけでも、イキったミニマム層の男たちが復活したわけでもない。報道にある通り、「店舗立地の見直し」「紙媒体に代わる販促策」「縫製態勢を見直し納期を短縮」「新規客の増加」など、麻布テーラーはビジネスの常道に立ち返って抱えていた課題の解決に取り組んだことが回復の要因と見える。

 エススクエアード、メルボメンズウェアー、メルボ紳士服工業のトップには青山商事の岡野真二・取締役兼常務執行役員商品本部長が送り込まれた点を見ても、特別な施策を打てたとは思えない。経営の基本に立ち返り、課題に真摯に向き合い、当たり前の施策を施しただけだ。

 筆者は社会人になって以降、既製服のビジネススーツを買ったこと、着たことは一度もない。オフィシャルはジャケパンスタイルで通して来たが、それも90年代以降はカジュアル化の浸透で無くなってしまった。2000年代以降、ウールのジャケットやパンツの購入頻度は10年に1度程度。他のアイテムもよほど気に入らない限り、購入はしなくなった。それでも、気に入って購入したものは現在までずっと着続けている。

 1年前にオーダーを検討し始めたのも、当時、格安のオーダースーツが次々と登場し、各社が一様に行うデジタル販促が目に留まったからだ。オーダースーツの情報が露出すればするほど、「ジャケットやパンツのみでも注文できないか」といった欲求が生まれ、何社もの中から探してみようという検索本能が働く。言ってみれば、紙媒体に代わる販促策が筆者のようなオーダー潜在客を掘り起こす可能性も高いのだ。

 また、ジャケットやパンツをオーダーすれば、既製服との違いを実感することができる。それが着心地だ。これはオーダーをした人間にしかわからない。おまけにジャケットやパンツは汎用性が高く、着用頻度も増える。パンツのサイズアップが心配なら、アジャスターなどオプションで対応すればいいだろう。コストパフォーマンスが良く、オーダーしても十分に元は取れると思う。

 チープなアイテムを1~2年で着古すお客を相手にするビジネスモデルもいいだろう。だが、一人のお客の要望をじっくり聞いてニーズに合致した着心地のいい服を仕立てるビジネスも、確実に市場を押さえていくのではないか。麻布テーラーにはスーツ量販の対局にある仕組みで、新たな誂え文化を醸成してほしいものである。

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