

■オムニチャネル・リテーラーと宣言したチェーンストア最大手のウォルマートは価格戦略も変化させている。
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ウォルマートが今年6月にアップデートした「プライス・マッチ・ポリシー(Walmart Price Match Policy)」には堂々と「私達は競合店との低価格に合わせません(We do not match the competitor's price)」と記してあるのだ。
これまでウォルマートは競合店の同一商品の価格に合わせる「プライス・マッチ・ポリシー」を掲げてきた。
ウォルマートで購入した商品が競合他社でより安く売られていた場合、ウォルマートにレシートと競合店の広告やチラシなどを持っていけば差額分を払い戻してくれていたのだ。
顧客はいつ買い物に来ても低価格で商品を購入できる「エブリデー・ロープライス(EDLP)」を享受しながら、ウォルマートは同時に競合他社に対抗した低価格保証を謳っていたのだ。
これまで通りEDLPを堅持しながらウォルマートは価格戦略を転換したことになる。
絶対低価格の立場から価格戦略を変化させてもウォルマートの業績は好調だ。ウォルマートUSの既存店・売上高前年同期比は第1四半期で7.4%の増加し、第2四半期は6.4%の増加、第3四半期は4.9%の増加となっている。
成長率は鈍化しているものの前年を上回っているのだ。競合他者の価格に合わせなくてもこれまで通り成長基調になっているのはナゼなのだろうか?
一つはオムニチャネル・リテーラーとなったことで"最低価格"を武器に集客する必要がなくなったことがある。ウォルマートの新規客として富裕層が買い物しているのだ。
ウォルマートが1年前に発表した第3四半期(8月~10月)決算では、年収が10万ドル以上の顧客のが75%増加したとしトレードダウンにより富裕層が買い物に来る傾向となっていることを明かした。
ネットスーパー展開が功を奏して、新規客として富裕層を引きつけている傾向は今も続いているのだ。無論、富裕層が節約をしにくらいだから中間層はもっとウォルマートに取り込まれている。
低所得者層に比べて富裕層などは目を皿にしてまでプライス・コンパリゾンを行うことはない。
例えば競合店に対しての低価格さを強調するとかえって彼らは不信感を抱いてしまうことになりかねない。
競合店の価格に比べてあまりに安すぎるとローコスト等で誰かが犠牲になっているとイメージしてしまうのだ。
富裕層などは他店よりも安く商品を購入できる価格対効果のコスパ以上に時間対効果のタイパを志向する。買い物にかかった時間に対する満足度を買い物の指標にしているのだ。
2つ目として買い物客の価値観が変化していることもある。ミレニアム世代やZ世代の若年層が買い物客の中心になることで、彼らの価値観が買い物全体に反映しているのだ。
気づいた時からスマートフォンがあり、SNSネイティブなZ世代はそもそも年配者に比べてモノに恵まれた豊かな生活を享受している。
かれらにとって本当の豊かさとはモノによるものではない。豊かさとは経験だ。
タイム誌は6日、毎年恒例の「パーソン・オブ・ザ・イヤー(今年の人)」に、米国の世界的人気歌手テイラー・スウィフトさん(33)を選んだと発表した。
テイラー・スウィフトさんといえば「ファンフレーション(Funflation)」という造語がアメリカでバズワードになっている。
フォーチュン誌の「最もパワフルな女性サミット」で家電チェーン最大手ベストバイのCEOであるコリー・バリー氏が「人々は楽しい体験に喜んでお金を支払おうとしている。これがファンフレーションと呼ばれるもので、高価な電子機器には現在のところ大きな関心を抱いていない」と語ったのだ。
欧州メディア「ユーロニュース」によるとシアトルとメキシコシティで開催されたテイラー・スウィフトさんのライブチケットでは、もっとも安いものは、それぞれ1,200ドル(約18万円)と500ドル(約7万5000円)だった。
消費に影響を与えるほ楽しい(fun)体験がインフレーション(inflation)を起こしている。ファンフレーション、つまり楽しい体験は若い人を中心に価値となってインフレしているのだ。
価格戦略が大きく転換した3つ目の理由として、ウォルマートのプロフィットモデルの変化がある。
オムニチャネル・リテーラーとなったことでモノを販売して得るB2Cの利益以上に出品手数料やスポンサード広告等でB2Bで稼ぐ利益が大きくなりつつある。
ウォルマートCFOのジョン・デビッド・レイニー氏は「アメリカ国内においてウォルマート・コネクトの売上高は第2四半期中に36%増加し、過去2年間でほぼ2倍の規模に拡大しました」と述べた。
ウォルマート・コネクトとは今最も成長が目覚ましいウォルマートの広告代理店事業部だ。今年初めの投資家向けイベントに出席したウォルマートCFOはB2Bが急成長していることで5年後には小売りの利益を超えると発言している。
レイモンド・ジェームス・カンファレンスでレイニー氏は「現在、ウォルマートの利益のほとんどが実際の店舗から来ています」としながらも「5年後には急成長する小売以外のビジネスにより小売りへの依存度がはるかに低くなります」と述べたのだ。
別の会議でもレイニー氏はマーケットプレイスの取り扱い品目数が4億以上と発言していた。マーケットプレイスで販売する業者が増えていることからサードパーティからの手数料売上が急増している。マーケットプレイスでの取り扱い品目数が増えれば買い物客も増加する。
ウォルマート・コムにビジターが増えることで広告代理店事業の躍進を支えていることになる。
肥沃なB2Bで利益が増えている時、わざわざ競合店と同じ価格にしたり、より安い価格にするインセンティブはない。
またオムニチャネル・リテーラーとなれば買い物客はオムニチャネル・ショッパーだ。
食品マーケティング協会(FMI)らの協賛のもとで調査されたグローサリー・ドッピオ(Grocery Doppio)のレポートによると、お店の売り場だけで買い物したり、オンラインのみで食品を購入するシングルチャネル客よりオムニチャネル客は支出が1.5倍にも上るのだ。
オムニチャネル・リテーラーには無理をしてまで競合店の価格にプライスマッチする理由がない。チェーンストア理論が崩壊すると同時に価格戦略も大きく転換することになるのだ。
トップ画像:ウォルマートのブラックフライデーで売られていた電子レンジ(55ドル)。
⇒こんにちは!アメリカン流通コンサルタントの後藤文俊です。日本のチェーンストアの多くが相変わらず低価格を武器に勝負しています。ピカピカのクルマをさらに磨いてもピカピカにしかなりません。でも視野狭窄に陥っていることでほかの戦略が見えなくなっているのです。ウォルマートがプライス・マッチ・ポリシーを大転換しました。競合店の安い価格には合わせませんと宣言したのです。十分に安いこともありますが、それ以上にオムニチャネルリテーラーになったことで戦い方から戦場まで変わったのです。したがってウォルマートの売り場にいっても昔見かけたPOP「競合店の価格より安いです(we beat the competitor's price)」が無くなりました。最低価格保証を強調した「プライスギャランティ(price guarantee)」の文字もありません。EDLPを維持しながらもウォルマートは必ずしも低価格を武器に集客する必要がなくなったのです。したがって競合店と同価格もしくはより安いとした価格保証はスクラップになっているのです。久々にウォルマートを視察する日本人は大変化に驚きます。
もう一度強調します、ウォルマートは競合他社とのプライス・マッチ・ポリシーを止めました!世界一の小売企業のこの変化にどんな意味が込められているのかをよーく考えてください。
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