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【私と原宿】小説家 五十嵐律人の高校時代、左右非対称な原宿デビュー

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五十嵐律人(いがらしりつと)
1990年岩手県生まれ。東北大学法学部卒業。弁護士(ベリーベスト法律事務所・第一東京弁護士会)。法廷ミステリー小説『法廷遊戯』が第62回メフィスト賞を受賞し、現役司法修習生時代の2020年に小説家デビューも果たす。著書に、『不可逆少年』『原因において自由な物語』『幻告』『真夜中法律事務所』『現役弁護士作家がネコと解説 にゃんこ刑法』(以上、講談社)、『六法推理』(KADOKAWA)、『魔女の原罪』(文藝春秋)がある。デビュー作『法廷遊戯』はコミカライズされたのち、永瀬廉(King & Prince)、杉咲花、北村匠海などの俳優陣によって映画化。2023年11月10日より全国劇場にて絶賛公開中。

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原宿デビュー

人生で初めて原宿を訪れたのは、高二デビューを果たすためだった。

環境がガラリと変わるタイミングで、コンタクトにしたり、髪を染めたり、ピアスを開けたりして、大きなイメージチェンジを図る……。
高一ではなく高二。一年間のタイムラグが生じたのは、高一デビューに成功した同級生を目の当たりにして、出遅れてしまったと焦燥感に駆られたからだ。

僕が通っていた岩手県の高校は校則が厳しく、染髪やピアスが認められていなかった。それどころか、学ランを着崩しただけで生徒指導の教師に呼び出されるくらいだった。
なので、アレンジの余地は髪型くらいにしか残されていなかった。

タイムラグデビューを志したのは、高一の夏。そこから僕は、半年間髪を伸ばし続けた。なぜ半年も、と思うだろう。自分でも、そう思う。
整えながら髪を伸ばせばよかったのに、なぜか頑なにハサミを拒絶し続けた。

半年が経った頃には、視界が前髪でほとんど覆い隠されて、「清潔感」のステータスが、ゼロどころかマイナスに突入していた。
それでも、貴重な高校生の時間を半年も犠牲にして、来るべきデビューの瞬間を一日千秋の思いで待っていた。

さて、思い出の舞台を、岩手県から原宿に移したい。

重要なのは、どこで髪を切るのかだった。もっとも重要な美容院選びで失敗は許されない。カリスマ美容師を見つけるために、メンズヘア&ファッション誌の「チョキチョキ(CHOKICHOKI)」を読み漁り、原宿に店舗を構えるとある美容院の存在を知った。

「息子は、いつまで髪を伸ばし続けるつもりなのだろう」
親もそう不安に思っていたらしく、奇抜なヘアスタイルにしないことを条件に、東京までの交通費とカット代を融通してくれた。

高校一年の春休み。満を持して、僕は深夜バスで東京に向かった。
岩手とは比べ物にならない人口密度、密集した建物群、無機質な視線。東京という異質な空間に圧倒されながら、何とか原宿に向かう電車に乗り込んだ。

だが、原宿の三個ほど前の停車駅を過ぎた辺りで、電車が停止した。
人身事故のアナウンス。その意味も理解しないまま、予約の時間を過ぎてしまい、泣きそうになりながら美容院に電話をかけた。

「お待ちしているので大丈夫ですよ」
優しく上品な対応(と記憶している)。十五分ほど遅れて原宿駅に到着し、竹下通りを早歩きで進んで(人混みで走れなかった)、ついに目的の美容院にたどり着いた。

カリスマ美容師とカウンセリングで対面し、ポケットから取り出した雑誌の切り抜きを見せて、「こんな感じにしてほしいです」と勇気を振り絞って伝えた。

半年も髪を伸ばさなければならなかった理由は、この髪型にあった。
僕が高校一年生だったのは、二〇〇六年頃。当時、若者の間で人気だった髪型の一つが、アシメスタイルだった。
そして、アシメブームの火付け役的な存在となったのが、堂本剛(敬称略)である。

アシンメトリーは左右非対称を意味する言葉だが、当時の「堂本剛流アシメスタイル」は、前髪は左側が長く、襟足は右側が極端に長い。つまりは、左右非対称でありながら、前後非対称でもあったのだ。
すぐに、その斬新なヘアスタイルは人気を博し、真似する者が続出した。

髪の一部分のみを短期間で伸ばすことはできないので、まずは全体をセミロングくらいにしてから、不要な部分をカットする……。その準備段階として、半年も髪を伸ばす必要があったのである。
本当にかっこよかったので、気になる方は「堂本剛 アシメ」で検索してもらいたい。

話を戻そう。

雑誌の切り抜きを見せた時点で、僕にできることはほとんどなくなった。あとは、鏡をなるべく見ないようにして、完成の瞬間を今か今かと待ちわびた。

「――いかがでしょうか」
恐る恐る、鏡に映る自分と対面。

堂本剛にはなれなかった(当たり前だ)。けれど、新しい自分になることはできた。

春休みの間に眼鏡からコンタクトに変えて、クラス替え後の高校二年生の教室に足を踏み入れると、新たな景色が広がっていた。

裸眼と左右非対称の前髪。片眼の視界は良好だった。

あれから十五年以上経ったが、今も原宿は、若者の背中を押し続けているのだろう。

Text:五十嵐律人
プロフィール写真撮影:大坪尚人

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