■ネット通販最大手のアマゾンは9日、同社が開発したアパレルショップ「アマゾン・スタイル(Amazon Style)」を閉鎖した。
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アマゾン・スタイルはアパレル業界で遅れているデジタル・トランスフォーメーション(DX)で試着室の顧客体験を大幅にカイゼンしたアパレルショップ。
アマゾン・スタイル1号店は昨年の5月29日、ロサンゼルス近郊グレンデール地区のライフスタイルセンター「アメリカーナ・アット・ブランド(Americana at Brand)」内にオープンした。
1号店は2階建てで約3万平方フィート(840坪)だった。
2号店は昨年10月18日、オハイオ州コロンバス北東部にあるモール「イーストン・タウンセンター(Easton Town Center)」内に28,000平方フィート(780坪)の店舗面積で開店した。
1号店はオープンから1年と半年弱(168日)で閉店となり、2号店は1年と3週間程度(22日間)の営業でしかなかったのだ。
アマゾン・スタイルの最大の特徴となるのは、サンプル商品のQRコードをアマゾン・アプリで読み取り、試着室の手配にサイズやカラーを指定して試着室に商品を届けることにあった。
利用者は試着室と商品の準備ができる間、試着する洋服を持って歩くことなく買い物ができるのだ。試着室に届けられる商品数も他店に比べて圧倒的に多くできることで、利用者は試したい洋服を厳選したり、試着室に複数回に分けて入る必要もない。
またアマゾン・スタイル1号店には40部屋、2号店には36部屋とそれぞれ試着室があり、試着に順番待ちが生じてしまうことはありえないようになっていた。
仮りに順番待ちができても、行列に並ばなくても待機スペースで待つことも可能。試着室は常に施錠されており、アプリを操作して指定された試着室のロックを解除して中に入ることができたのだ。
アマゾン・スタイルではほぼ無制限で試着でき、試着する時間を気にせずトップとボトムのコーデも自由、着替えも自分のペースだ。
スタッフから急かされるようなこともない。デリバリーの間は何着か(何度か)試着できるので、待たされるという感覚にならないのだ。
また試着室では鏡に映った様々なファッションを撮影しておき、後でのんびり画像を見ながら検討というスタイルも可能になる。
アマゾン・スタイルでは試着だけおこない、自分に合うものを後日、アマゾンでネット注文もできる。
こんな破壊的イノベーションをもつアパレル店は2年もたなかった。
筆者は閉鎖となる前日の8日、アマゾン・スタイルに行ってみた。店内に入ってまず驚いたのがフロアにスタッフは誰もいなかったことだ。
ワークショップ研修を含めてこれまで何度も筆者はアマゾン・スタイルを視察していたのだが、予想していたとはいえフロアに全くスタッフがいないことはやはり異様な雰囲気だったのだ。
840坪となる店にはお客は3人程度と寂しい。
以前までは奥に進むとスタッフから決まって声をかけられたが、スクラップ前日は整然とならんだサンプルだけで一層の物悲しさを醸し出していたのだ。
エレベーターのあるガラス張りの倉庫では、マネキンの搬出に忙しくしていたのが印象的だった。
1階には17の試着室があり、2階には23部屋の試着室があるのだが専用スタッフもいなくなっていた。
セールスフロアにはいるスタッフはレジ係りのみだ。
暇そうにしていたレジスタッフに「(閉店するのが)残念です」と声をかけたら、中東系の50代の女性がレジから出て、思いの丈をぶつけるように筆者に喋りかけてきた。
突然の店舗スクラップで相当な不満が溜まっていたかのように「(アマゾン・スタイルの)閉鎖される理由をわかりますか?」と女性が話した。
「マーケティングです、アマゾン・スタイルにはマーケティングが皆無でした」とその原因を明かしたのだ。
オープン当初から働く彼女は「地元(グレンデール市)の人もアマゾン・スタイルを知りません」とアマゾンのマーケティングに嘆いたのだ。
彼女の出身国であるドバイの経済発展を事例にして「コーヒーやドーナツを配ってでも、アマゾン・スタイルを知ってもらう努力をすべきだったのです」と筆者に語った。
アマゾン・スタイルのマーケティングがほとんど皆無だったことは筆者にも思い当たる。
アマゾンの年一となる恒例のセール日、プライムデーだ。プライムデーではECだけでなく、アマゾンが開発した食品スーパー「アマゾン・フレッシュ(Amazon Fresh)」でも目玉セールを行い、昨年の7月のプライムデーではオープニング以上にたくさんのお客を引きつけたのだ。
しかしアマゾン・スタイルはこれまでのプライムデーでセールを行っていない。
昨年末にアマゾン・スタイルにインフルエンサーを呼ぶイベントを行っていたが、一般にはほとんど知られなかった。
アマゾン・スタイルで働くスタッフとしてコーヒーとドーナツを無料にしたくなるほど、存在自体を知られていなかったということなのだ。
破壊的イノベーションを駆使してどんなに顧客体験が優れていたとしても、そもそもお店が広く知られていなければ集客できないということになる。
トップ画像:エントランス脇には「アマゾン・スタイルはすぐに閉鎖されます」との張り紙があった。アマゾン・スタイル・グレンデール店はオープンから1年と半年弱(168日)で閉店となったのだ。
筆者は閉鎖となる前日の8日、アマゾン・スタイルに行ってみた。店内に入ってまず驚いたのがフロアにスタッフは誰もいなかったことだ。
ワークショップ研修を含めてこれまで何度も筆者はアマゾン・スタイルを視察していたのだが、予想していたとはいえフロアに全くスタッフがいないことはやはり異様な雰囲気だったのだ。
アマゾン・スタイルの最大の特徴となるのは、サンプル商品のQRコードをアマゾン・アプリで読み取り、試着室の手配にサイズやカラーを指定して試着室に商品を届けることにあった。840坪となる店にはお客は3人程度とはとても寂しい。
1階には17の試着室があり、2階には23部屋の試着室があるのだが専任スタッフもいなくなっていた。
エレベーターのあるガラス張りの倉庫では、マネキンの搬出に忙しくしていたのが印象的だった。売り場とは極めて対照的だ。
暇そうにしていたレジスタッフに「(閉店するのが)残念です」と声をかけたら、中東系の50代の女性がレジから出て、思いの丈をぶつけるように筆者に喋りかけてきた。
セール商品になっていてもデジタル・タグではほとんど見分けがつかない。これはアマゾン・フレッシュでも同様だ。したがってアマゾン・フレッシュでは訴求できるようポップもつけるようになっている。
⇒こんにちは!アメリカン流通コンサルタントの後藤文俊です。アマゾンは9日、アマゾン・フレッシュを再び新規に出店することを発表しました。食品スーパーをスケールするのです。同時にアマゾン・スタイルを閉鎖しました。アマゾン・スタイルの閉鎖理由はズバリ、リソースの問題であり早々とアパレル店に見切りをつけたということです。アマゾン・スタイルで集客できなかったのは存在自体が知られていなかったというマーケティングの欠如です。が、アマゾンにとってはそんなことよりも、食品スーパー展開に多くのビジネス資源を割り当てたいとの方針転換だったのです。なぜなら生鮮品を扱うスーパーは毎日の買い物と同時にピックアップ・返品拠点として重要な店舗網になり得るからです。一方、大規模ショッピングセンター内にアパレル店を展開しても、アクセスの悪さからピックアップ・返品拠点には使えません。実際、アメリカーナ・アット・ブランドの立体駐車場からアマゾン・スタイルまで5分以上も時間がかかる上に1時間以内の駐車でもSCで何も購入しなければ5ドルかかります。
アマゾン・スタイルをどんなにスケールしても宿敵ウォルマートには勝てないとの判断です。破壊的イノベーションとかユーザー・フレンドリーなカスタマーエクスペリエンス以前の問題ですね。
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