さまざまな文化、言語、宗教が存在する多民族国家、南アフリカ共和国。人口の8割以上を黒人と先住民族が占めるが、16世紀以降、わずか8%ヨーロッパからの入植者の子孫が領土を占領してきた。
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総人口のほんの一部に過ぎないにもかかわらず、ヨーロッパ人は南アフリカの文化と歴史に多大な影響をもたらした。数十年におよぶ土地の収奪、人口移動、構造化された白人至上主義、ヨーロッパの言語と宗教の強要によって、地元のコミュニティはアイデンティティを維持し、白人のルールのもとで生き残るべく奮闘してきた。
このような複数の信条を強要された生活が、ギヤ・マコンド=ウィルズ(Giya Makondo-Wills)の写真集『They Came From The Water While The World Watched』にありありと写し出されている。英国と南アフリカの両方にルーツを持つマコンド=ウィルズは、家族の出身地であり現在の生活拠点でもある北部のリンポポで、このテーマを掘り下げることにした。リンポポは500万人を超える住民が英語、セペディ語、ツォンガ語、ベンダ語、アフリカーンス語、ツワナ語、北ンデベレ語と南ンデベレ語、ソト語、ズールー語を話す、南アフリカの多様性を象徴するような州だ。
現在オランダで暮らしているマコンド=ウィルズは、「19世紀の植民地化や宣教師の活動に関連するこれらの地域の歴史だけでなく、21世紀の彼らの体験や先住民の習慣のレジリエンスを学ぶため」にこのプロジェクトに取り組んだという。今回のプロジェクトとそこから学んだことについて、彼女に話を聞いた。
VICE:なぜ今回のプロジェクトで南アフリカの霊的な信仰を調べようと思ったのでしょうか?
ギヤ・マコンド=ウィルズ:アイデアが生まれたのは、祖母が家を出る前にお祈りしているのを見たときです。祖母はひとりの神様ではなくすべての神様、彼女いわく「先祖」に祈っていたそうです。
このような複数の信仰対象から、南アフリカにキリスト教と先祖から伝わる信仰が共存していること、そしてこの宗教的な混同の起源について考えさせられました。また、個人的にこのような作品に取り組もうと思ったのは、家族が南アフリカと英国の両方にルーツがあるからです。このふたつがわたしの原点にあり、わたしは両方の信仰に触れながら育ちました。
写真という媒体を選んだ理由は?
写真はアクセスしやすく同時に複雑で、さまざまな意味で平等な媒体です。唯一無二の方法で対話を生み出し、主流なナラティブに挑むことができます。
わたしの人生における情熱や衝動の源は、この時代の差し迫った問題に対する懸念と、それが周縁化されたコミュニティの歴史といかに関わっているのか、ということです。わたしの取り組みの中心にあるのは、西欧の視点に挑むということ。カメラはアイデンティティ、人種、植民地化、権力構造をめぐる新たなナラティブを描くという重要な役割を担っているのです。
このプロジェクトに関わる伝統について、もう少し詳しく教えてください。
南アフリカの伝統は、地域や出身部族によって大きく異なります。先住民には自分たちの先祖や一族、そして土地とのつながりを保ち続ける慣習がたくさんあります。わたしたちはその慣習のおかげでより良い自分になり、他の要素に反発するのではなく調和しながら生活する大きなシステムの一部として、自分たちの居場所を見出すことができるのです。これらの慣習はヨーロッパ中心主義にも西欧の資本主義の枠組みにも基づいていないので、世界の見方がまったく異なります。
毛皮を纏っている男性の写真は?
彼はリンポポの父が育った村に住んでいる伝統的な治療者〈サンゴマ〉です。普段からよくこの村に帰って家族と過ごしているのですが、今回のプロジェクトでも村でたくさん撮影をしました。このサンゴマは父が幼い頃のかかりつけ医でした。アパルトヘイトの影響下で、サンゴマは郊外に住む人びとが唯一医療知識を求めることができる存在でした(アパルトヘイトの政策は、主に黒人が暮らす地域から隔離されていた白人の南アフリカ人に医療資源を割くものだった)。
わたしは叔父を通じて彼に会い、一緒に写真を完成させました。彼は南アフリカを代表する伝統的な治療者のひとりです。サンゴマの学校も運営しています。この写真は彼がほとんどの儀式を行なっている彼の自宅で撮影しました。写真の衣装やポーズは彼が考えたものです。デジタルのメリットが最大限に活かされた時間でした。完成した写真をすぐ見せることができたので、両方が満足する仕上がりになるまで調整を重ねました。
では、この巨大なヘビを巻きつけている男性は?
このヘビは聖書のエデンの園や〈さおの上のヘビ〉、わたしの部族ベンダ族のパイソンダンス(ドンバ)、一部のサンゴマが使うパイソンの脂肪など、さまざまなものを表しています。
この男性に会ったのはヨハネスブルクのヘビ保護区で、ラッキーなことにその日保護区を訪れたのはわたしひとりだけでした。いろんなヘビを撮りながら保護区をまわり、最後にこのパイソンに出会いました。それで一緒にこの写真を完成させました。
写真集を見たひとの感想は? モデルになってくれたひとにも送りましたか?
この本をつくったのはパンデミックのまっただ中(撮影は2016〜2019年)で、2020年に出版してから南アフリカには戻っていません。来年持っていくつもりです。プロジェクトの途中で、この本に写っているなかで連絡のついたひとのために小さなプリントを数枚持って帰りました。ようやく完成したので、早く帰って家族にも見せてあげたいです。
反応はポジティブなものばかりです。だからわたしはコラボレーションが好きです。撮られるひと全員に満足してほしいので。お人好しといわれるかもしれませんし、ドキュメンタリーフォトグラファーとしては至らない考えかもしれません。でも、ひとを撮るときに攻撃的になったりとか、生々しすぎる表現は好きではないんです。
これらの伝統は南アフリカで忘れられつつあると感じますか?
わたしは数百年続いてきた伝統はどんな形であれ、生き残り続けると信じています。個人的には、若い世代がこれらの伝統が消えないように番人になるべきだと思います。世界中の人びとに、自国の先住民族の伝統を詳しく調べてほしい。伝統は人間についてさまざまな教訓を与え、わたしたちがわたしたちである理由を教えてくれます。
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