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ユニクロ新社長に塚越大介氏が就任 叩き上げ社長に求められるものとは

ユニクロ新社長に塚越大介氏が就任 叩き上げ社長に求められるものとは

クリエイティブディレクター
HAKATA NEWYORK PARIS

 遅ればせながらこの話題に触れる。ユニクロ社長の交代劇だ。柳井正社長は親会社、ファーストリテイリング(以下、ファストリ)の会長兼最高経営責任者(CEO)(以下、柳井会長)となり、2022年からユニクログローバルCEOを務めた塚越大介取締役(44)が新社長に抜擢された。ユニクロでは、生え抜き社員がトップに上り詰めたのは初のケースになる。

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 ユニクロにとって過去、柳井会長以外がトップに就いたのは一度だけある。1998年、日本IBMからファストリに転職した玉塚元一氏だ。同氏は2002年、ファストリの代表取締役社長兼COOに就任。ところが、売上げがダウンしたことで、05年には柳井会長から社長を解任され、同社を退職した。澤田貴司副社長も玉塚社長より先に社長就任を打診されたが、固辞してユニクロを去っている。それ以降は柳井会長が社長に返り咲いて兼務し、ユニクロは右肩上がりの成長を遂げた。

 もちろん、柳井会長も歳を取る。折につけ、メディアから後継者について問われた。その都度、「事業をさらに成長させられる人間なら、登用は社内外を問わない」「外国人が社長になるかもしれない」等などのニュアンスで答えていた。ただ、2名のご子息が取締役であることから、「どちらかが次期社長になるのでは」との憶測も呼んだ。それに対し、柳井会長は「子息を社長にはしない方針だ」と回答。つまり、世襲を否定したのである。その言葉通り、塚越取締役が社長に就いたわけだが、将来的にどうなるかはわからない。

 では、塚越新社長とはどんな人物なのか。同氏は武蔵工業大学を卒業後、2002年にファストリに入社。新卒社員として現場で経験を積み、順調にキャリアを重ねていった。19年には40歳の若さでファストリグループの上席執行役員に就任。ユニクロの米国事業やカナダ事業を担当し、05年の参入以降ずっと赤字が続いていた米国事業を22年8月期に初めて黒字化した。マスメディアやSNSを利用した販促策や米国向けの商品開発が奏功したとは言え、不採算店をクローズするなどドラスティックなリストラを断行した功績は大きい。

 柳井会長としては、自分の目が黒いうちにファストリの長期目標「10年後に連結売上高10兆円」を何としても達成したい。そのためには今後も成長が期待されるアジア、海外市場の攻略がカギになる。グループ売上げの8割を握るユニクロ事業がその柱になるのは言うまでも無い。その点、塚越新社長はユニクロの米国事業で実績を上げたことから、その手腕が期待されての抜擢だったと言える。今後の功績次第ではファストリのトップもあり得るとの見方もあるほどだ。

 もっとも、ファストリの経営陣には錚々たるメンバーが揃う。日本長期信用銀行やマッキンゼー&カンパニーに勤務し、ファストリでは最高財務責任者(CFO)を務める岡﨑健氏。弱冠19歳で来日し、ファストリに勤務後は中華圏、東南アジア事業を軌道に乗せ、執行役員までに上り詰めた潘寧氏。伊藤忠、GEキャピタルを経てファストリでは食品販売事業を手掛けるも失敗。その後、経営不振が続いていたGU事業を立て直して挽回を図った柚木治氏。各国別に陣頭指揮を執るCOO(最高執務責任者)を統括するユニクロ欧州CEOの守川卓氏。

 これらの面々の中から新社長が誕生してもおかしくなかった。それでも、塚越上席執行役員に白羽の矢が立ったのは、一歩抜きん出ていたからだろう。ファストリの企業収益が右肩上がりで伸びているとは言っても、ビジネスはいつどう転ぶかはわからない。柳井会長はある意味孤独だ。常に経営に対する不安や部下に対する疑心暗鬼が付きまとい、それから逃れることはできない。

 だからこそ、全ての事業を有機的に結びつけて相乗効果をあげ、グループ全体が収益向上に繋げられる組織体であることが不可欠なのだ。そこまでを俯瞰で見られるCEO育成には、まだ少し時間を要するのかもしれない。では、塚越新社長はユニクロをどう舵取りしていくのか。そして、直面する課題をどう乗り越えるのか、である。経済紙誌ではよく「経営者には、生え抜きとプロのどちらがいいか」という比較論が展開される。答えは概ね「プロ経営者の方がいい」というものだ。

 確かにプロ経営者なら業界にどっぷり浸かっていないので、柵や慣習にとらわれずに自由な発想ができ内部の人間が気づかない点も感じ取れる。経営課題に取り組む上でも、痛みが伴う変革にも躊躇することはない。逆に生え抜き経営者であれば、自分を育ててくれた風土や環境に情が生まれる。それを壊して同僚や部下、店舗、商品、取引先を切り捨てることにどうしてもためらいが生じる。それが変革を遅らせ、経営を行き詰まらせてしまうこともあるのだ。

叩き上げの社長に求められるものは何か

 だからと言って、現場叩き上げの塚越新社長がそうとは限らない。赤字が続く米国事業では、現地法人のトップとして米国人マネージャーに臆することもなく、「No means no!」と店舗閉鎖を突きつけたのは、プロ経営者にも劣らない才覚の持ち主だと言える。

 過去にユニクロで経営に携わった玉塚社長や澤田副社長と比較してみると、両氏はフリースを大ヒットさせ、ユニクロのブランド化に貢献した実績がある。だが、これはメディアが過大評価した面は否めない。それまでのフリースは、L.L.BeanやPatagoniaといったアウトドアブランドが主流で、価格も高くメジャーになりにくかった。

 そうしたアイテムをアジア生産によるコストダウンで廉価版のデイリーカジュアルに焼き直し、プロモーションへの集中投下と店舗網を駆使してマス市場を発掘したに過ぎず、ゼロから商品を企画・開発したわけでない。現にリーバイスなどのNBが市場を押さえるジーンズでは、商品や廉価政策では牙城を切り崩すことができなかった。澤田副社長はフリースの反動減をカバーする施策を打てないジレンマからユニクロを退社。玉塚社長も売上げダウンで解任され、澤田副社長の後を追うように同社を去っている。

 一方、柳井会長が澤田、玉塚両氏を幹部候補として招いたのは、ファストリを成長させる上でプロ経営者候補を欲したからだ。だが、両氏とも現場経験は半年くらいで、本部に呼び戻されている。当時のユニクロはまだ成長途上にあった。外部出身の人間がそんなユニクロの性格を十分に理解していないのだから、生え抜きの店長やスタッフとの間で乖離が生まれる。マネジメントできないのは当然である。

 では、塚越新社長はユニクロをどう舵取りしていくのか。少子高齢で市場が縮小していく国内事業は、高齢者向けや介護用品などの商品開発が考えられる。マーケットとして好調が続くアジア事業だが、中国は台湾有事の問題が燻り、リスク要因にもなるだろう。それに代わるインドは製造体制を現地化しなければならず、ブランド力のさらなる向上と店舗展開、マーケティングを強化した市場即応の商品開発が不可欠だ。膨大な売れ残り在庫の活用や再収益化として「リ・ユニクロ」のプロジェクトを始動するが、実効性のあるものにしなければならない。

 9月15日から発売されている「ユニクロ:C」は、+Jに代わるほどのヒットアイテムに昇華できるかである。コラボ企画は、レギュラーの商品では満足できない層を開拓する機会であり、春夏、秋冬2回の投入とは言え、売場の活性化には欠かせない。ユニクロ:Cはジェンダーフリーを意識してか、レディスなのにオーバーサイズで男性でも着られるアイテムも投入されている。コストパフォーマンスを生かした廉価政策の中で、従来のユニクロ路線と一線を画する企画にも踏み込めるかだと思う。

 苦戦が続いてブランド単独店の閉鎖が続く「プラステ(PLST)」は、ユニクロ店舗内へのインショップ展開を進めると発表されている。これが塚越新社長の初英断かどうかはわからないが、プラステはセオリーから派生した商品企画であるものの、価格だけ割高で店作りや展開方法などでユニクロとの差がわかりづらい。昨年、ららぽーと豊洲の店舗を見たが、そこだけ閑古鳥が泣くほど閑散としていて、何らかのテコ入れが必要だと感じた。

 ようやくユニクロへのインショップ化が動き出したわけだが、いくら集客力があるとは言え、現状のプラステのままでは厳しさは続くだろう。セオリーのノウハウを活かしてビジネス向けのテイストに特化したり、デザイナーの起用を含めゼロから商品を作り直すなど、大胆な施策が必要ではないか。その結果、ブランドとして成長すれば、再び単独展開もあり得る。そこは塚越新社長も状況を見ながら、判断していくと思う。

 ユニクロは10月20日からファストリ傘下の「コントワー・デ・コトニエ」とのコラボ商品を発売する。価格はアウターが1万2900円、パンツ・スカートが3990円~4990円、シャツが2990円、ニットが3990円。ブランド本体はシャツが7990円~9990円、ニットが1万2900円~2万9900円といった価格帯のため、コラボ商品のプライスは3分の1からそれ以下に設定されている。

 テストマーケティング的な要素との見方もあるが、本家がそれほど売れていない中で、価格のみが選択肢となってコラボ商品にお客が流れるようでは本末転倒だ。ユニクロが一人勝ちする一方で、他の事業の足を引っ張ったり、傘下ブランドが苦戦から脱却できないのは、塚越新社長も本意ではないと思う。

 右肩上がりの売上増で、死角がないように見えるユニクロだが、意外にも自社の方に多くの経営課題が潜んでいそうだ。塚越新社長がそれにどう立ち向かっていくのか。生え抜き経営者に対する限界説を覆す手腕を見せてほしいものである。

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