写真の人物は記事の内容とは無関係です。PHOTO: COTTONBRO VIA PIXELS
あなたの話を半分以上聞き流し、「実はADHDなんだ」と打ち明けてきたひとにどれくらい出会ったことがあるだろうか。ここ数十年でこの障害の知名度が増すにつれ、正しい意味を知らずにこの用語を乱用するひとも増えている。
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ADHD(Attention Deficit Hyperactivity Disorder:注意欠如・多動症)は、子どもやティーンエイジャーの行動や思考プロセスに影響を及ぼす最も一般的な疾患のひとつだ。大抵は12歳以下で診断されるが、成人のADHDも多い。
ADHDの最も特徴的な症状は集中力の欠如、落ち着きのなさ、衝動性だ。しかし大人の場合は、ADHDと似た症状が多いため、しばしばうつ病や双極性障害と誤診されるさまざまな行動を伴うこともある。
世界的には、子どもの総人口の約5%がADHDだといわれている。しかし、ADHDを抱える大人全員が幼少期に診断を受けるとは限らない。2021年の過去の研究のメタアナリシスでは、ADHDの成人は全体の6.76%だが、そのうち幼少期に症状が確認されたのはたったの2.58%だった。
ADHDを発症する正確な原因はいまだに不明だが、脳の2種類の神経伝達物質、ドーパミンとノルアドレナリンの不足に関係していることはわかっている。ADHDの人びとは好きなゲームや興味のある話題など、自分の刺激となるタスクに熱中する傾向がある。ADHDの薬物治療で、これらの神経伝達物質の生産を促すことも可能だ。
ADHDは学校や職場、恋愛など、人生に多大な影響を与える可能性がある。ADHDを抱える4人の若者に、自分の症状について知ってほしいことを訊いた。
「ADHDのひとは、今日より先のことは、せいぜい明日のことくらいまでしか考えられない」
わたしは英国で働いていて、配送ドライバーや不動産管理など、複数の仕事を掛け持ちしている。ADHDに関するYouTubeチャンネルも運営している。すでにADHDと診断されていた仲のいい友だちに共通する症状──めちゃくちゃな生活リズム、一度も終えられたことのないたくさんのプロジェクト、うつ、不安、専門分野を選べないこと──に気づいたことがきっかけで医者にかかることになった。
ADHDのひとは、今日より先のことは、せいぜい明日のことくらいまでしか考えられない。一応計画を立てることは立てても、今この瞬間のあらゆる刺激がそれを上回ってしまう。そのせいで変化への耐性も低く、変化に直面したときのフラストレーションの度合いも非常に高い。やるべきことを先延ばしにし、(やらなかった場合の)不安を感じたり、闘争・逃走反応が起きたときだけ、ギリギリで課題を終える。適切な治療を受けなければ、バーンアウト(燃え尽き症候群)に苦しむこともある。
うつ病に似た症状も多いので、ADHDは誤診されやすい。満たされない満足感を埋めるために、常に刺激を求めたくなったり、衝動的な行動に出てしまったりする。
わたしは患者のなかでは恵まれているほうだ。薬は効くし、副作用もほぼない。運動をしてバランスのとれた食事を心がけていて、その効果も実感している。今は症状の多くが改善しているけれど、全て解決されたわけではない。物忘れは激しいし、すぐに興味を失ってしまい、ルーティンや繰り返し作業が苦手なので、仕事もしょっちゅう変えている。
ADHDは、ネガティブであれポジティブであれ感情の起伏が激しい。個人的には、いつも誤解されているような感じがしてしまう。でも、ニューロダイバーシティ(神経多様性)のスペクトラム上にいる他の人びととは美しい友情を育むことができる。そういうひとのほうが、人間関係を築くうえでの特有の行動や問題を理解してくれるから。
周りのひとに自分はADHDだと打ち明けると、(特に年配のひとから)こんなことをいわれる。「どうして? あなたは賢くていい子なのに」「毎年新しい病気が発明されるんだね」「わたしの時代はADHDなんてものはなかった」「言い訳してるだけでしょう」。こういう態度が他人の状況を真剣に受け止めたり、専門家に会って綿密な検査を受けたり、生活の質を向上するかもしれない治療にアクセスするのを妨げてしまう。──カタリン・バラルー(Cătălin Băraru)36歳
「わたしたちには周りの共感と理解が不可欠だ。わたしたち自身も自分の症状が周りに与える影響に気づいている」
わたしはずっとADHDかもしれないと言われ続けてきたけれど、診断が下りたのは24歳になってからだった。大人としての社会的な生活が送れず、集中力の問題はキャリアにおいて大きな壁となった。主な症状は集中力の欠如、時間感覚の鈍さ、やる気があるときでも計画性が持てない、ルーティンワークへの耐性の低さ、理解力の低さ、感情の起伏の激しさとコントロールの難しさ、うつ症状と不安などだ。
長い間、自分はどこかおかしいと思い続けてきた。自分をもっと追い込みさえすれば、周りのひとのようにちゃんと生活できる、と。けれど診断されたあとは、自分なりにうまくやる方法を発見した。
祖国のルーマニアでは、精神分析医は真剣に取り合ってくれない。多くの医者にかかったが、うまく話せるし、学校も卒業したので、ADHDではないだろうといわれた──そこそこの結果を出すために普通のひとよりもだいぶ努力をしていたにもかかわらず。医療の専門家は、成績が悪く学校で問題を起こす落ち着きのない少年たちのよく知られたイメージ以外は、ほとんど知識がない。
わたしたちには周りの共感と理解が不可欠だ。わたしたち自身も自分の症状が周りに与える影響に気づいている。そのせいで嫌がらせを何度も受けてきた。職場では無能だとか無関心だと思われ、いじめまで受けた。学校でも恋愛でも同じことが起こり、信じてもいい人間だとわかってもらうまでかなり苦労した。
今は適切な治療を受けているので、キャリアのチャンスも増えた。ADHDはクリエイティブの分野でいいアイデアを思いつく助けになっている。──イオアナ(Ioana)25歳
「いちばん大変なのは感情の起伏の激しさと、理解を得られないこと」
31歳のとき、不安症の治療を担当していた精神科医にADHDの可能性を指摘され、検査を受けた。それ以来ずっと治療を続けていて、生活はかなり改善した。わたしの場合は集中力への影響が大きく、何に対しても情熱が持てず、細かなことや約束を忘れてしまう。
いちばん大変なのは感情の起伏の激しさと、理解を得られないこと。「誰にでもある悩みだよ」というような反応をされるたびにつらくなる。1ヶ月に一度悩むのと、1日10回も煩わされるのとでは全く次元が違う。それに必死に努力したところで、必ずしもそれに見合う結果が得られるとは限らない。
この障害については偏見が多いので、もっとメディアで情報を発信するべき。正しい治療を受けなければ、ADHDと共に生きるのはとても大変なことだと思う。──オアナ(Oana)32歳
「今は治療を受けていて、別人になったような気がする」
昨年、妻や両親の助けを借りて受けたオンラインのチェックリストで、ADHDと診断された。僕の場合は物理的な生活もメンタルもめちゃくちゃになってしまう。クローゼットも頭の中もぐちゃぐちゃ。高校でも大学でも、修士課程も仕事も、いつもギリギリまで後回しにしてしまった。
僕は頭はいいし、ずっとうまくやってきたと思う。ストレスを抱えながらやり遂げてきたことが誇らしい……というか、そうやって自分を慰めているといったほうがいいかもしれない。だって仕方のないことだから。今は治療を受けていて、別人になったような気がする。集中力も続くし、最後の最後まで後回しにすることもない。理解してくれる妻がいて、僕はとてもラッキーだと思う。彼女は僕が忘れないようにメッセージを送ってくれるし、何かを忘れたときも怒ったりしない。──クラウディウ(Claudiu)39歳
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