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【コラム】ポテンシャルは服に出る

【コラム】ポテンシャルは服に出る

クリエイティブディレクター
HAKATA NEWYORK PARIS

 大学時代にマンションアパレルでアルバイトをして以降、ずっとレディスのキャリア及びコンテンポラリーの服ばかりに触れてきた。だからだろうか、ついスイートやフェミニン、エレガンスなソーンと、比較してしまう。仕事仲間の女性陣に対し、あからさまに「コンサバは嫌いだ」と公言し、顰蹙を買ったこともある。それでも、余分な装飾がないミニマルデザインの服を着た女性がいると、ついつい見入ってしまう。この傾向は何年たっても変わらない。

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 話は変わるが、去る9月半ば、岸田政権が自民党の役員人事と内閣の改造を行なった。岸田総理は女性の活躍推進を意識してか、党選挙対策委員長に小渕優子衆議院議員、閣僚にも5名の女性議員を起用。その後も、総理補佐官には国民民主党で副代表を務めた矢田稚子元参議院議員を任命した。ここでは彼女たちの手腕や力量は置いておくとして、ワーキングスタイルはどうかを見てみたい。首相官邸での記念撮影の正礼装は別にしても、仕事服はメディアやその向こうにいる国民の目を意識しているように見える。

 彼女たちに共通するのは、スーツスタイルであっても上品さや女性らしさを失わないエレガンスなテイストであることだ。生き馬の目をぬく永田町で生きている割に自己主張の強いファッションとは言い難い。この傾向は保守層の間で大臣候補の期待が高い小野田紀美参議院議員、立憲民主党の次期党首候補と噂される蓮舫参議院議員にも見られる。中には稲田朋美元防衛大臣のようなセンスの方もいらっしゃるが、男性議員の前で堂々と自分の意見を主張しながらも、装いはコンサバ路線を超えてはいない。

 財界に目を向けても、経団連の南場智子副会長、連合の芳野友子会長は、男性がずっと占めてきたポストに分け入るほどの能力を持ちながら、気品や高級感を感じさせるプレタのスーツを愛用していらっしゃる。これは米国の民主党のカマラ・ハリス副大統領、共和党のニッキー・ヘイリー大統領候補などを見ても同様だ。そちらの装いの方が政界、財界の代表として知性や教養を重んじる姿勢が表せるという意識なのだろうか。

 もう少し詳しく見てみよう。前出の議員さんや財界の方々は、とにかく多忙である。閣僚や経営者ともなれば、分刻みのスケジュールになる。仕事帰りにウィンドウショッピング、行きつけのショップで買い物なんて時間的な余裕はないと思う。当選回数が多いベテラン議員ともなれば、地元選挙区に御用達のショップが何軒かあって、そちらのマネージャーやスタッフにお任せで選んでもらうというパターンが多いのではないか。財界のお二方も似たようなもので、銀座や青山などをぶらっと入ったブランドショップや百貨店で偶然見つけた商品を購入するというのは極めて稀だと思う。

 田中真紀子元衆議院議員はデザイナーの故・森英恵氏と懇意にしており、第一次小泉内閣での外務大臣就任の折には、森氏が一晩でオーダーメードのドレスを誂えてくれたという。だが、外務大臣としての執務時はこちらも至ってコンサバなスーツをお召しになっていた。むしろ若かりし頃、田中角栄総理大臣の外遊に同行した時の方が先端ファッションを着こなし、おしゃれだったという印象が強い。自ら大臣となれば、やはり官僚やメディアの視線を意識せざるを得ず、至って大人しめのファッションに終始されていたように感じる。

 彼女たちを取材する記者、各メディアの政治部キャップにも女性が増えた。彼女たちはほとんどがプレーンなスーツスタイルだ。だが、日本テレビで解説委員を務め、「防衛省ハラスメント防止対策有識者会議」のメンバーでもある菅原薫氏は、先日の監察結果の公表時の装いが目を引いた。オフホワイトでダブルのパンツスーツ、インナーには黒のクルーネックシャツ。もちろん、スタイリストが付いているわけではないだろうから、あくまで自分でコーディネートしているはず。コンテンポラリーでエッジの効いたスタイルは、男社会の中でも決して怯まない自信を垣間見せた。

 メディア関連の女性陣は、上司から自分の武器は何でも使ってスクープを取ってこいと厳命されているかもしれない。だが、カメラが回っている状態では、セクシーさはセーブしなければならないのだろう。まあ、キャバクラ嬢ではないのだから男性好みの装いにまで言及すれば、セクハラと捉えられかねない。あくまで彼女たちの裁量に任せられているとは思うが、紋切り型になってしまうのはどうなのだろうか。

 装いや着こなし、ファッションの嗜好と仕事ぶりは関係ない。確かにそういう意見はあるだろうし、おそらく男性の多くは同じ考えだと思う。ただ、やや陳腐な言い方になるが、女性の生き方は装いに現れるのも事実だ。さらに突っ込んで言えば、男性から愛される=良き妻を目指すことから、仕事をしてしっかり稼ぐ=キャリアを積む女性も増えている。前者と後者のライフスタイルが同じはずはなく、当然、ファッションに対する価値観が違い、装いやテイストも変わってくるのだ。

今の課題に取り組むため、今を着る。

 では、ファッションという概念が絡むライフスタイルとは何だろう。それはただ毎日を生きているだけではないということ。日々の暮らしに精神的な豊かさを求め、生活を取り巻くカルチャーを大事にし、一人の人間としての感性や個性を重んじる。特に女性は生活にファッションを取り入れる=着飾る場合、自分をより美しく見せたい、昨日と今日の自分を変えたいという心理が働く。さらに働く女性になると、仕事に対する熱量やこだわりがある人ほど、服選びにも個性が滲み出る。必ずしも美しいことだけが服選びの条件にはならないのである。

 かたや人間は美しい女性に対しては敬愛し、近寄ってコミュニケーションを取りたくなる。ただ、仕事ができる女性は、多くの人からすれば近寄りがたい雰囲気を持つ。本人はそこまで意識してなくても、周りが何となく壁を作ってしまいがちだ。外見で判断してはいけないのだが、多くの人間は着ている物を見て判断する。だから、多くの人と接しなければならないと、どうしても人を遠ざけない無難な装いになってしまうのである。政治や経済の世界はどうしても男性中心だから、自己主張が強い装いは自分にとってはデメリットに感じてしまうのかもしれない。

 一方で、女性にはいろんな美意識がある。ただ、「こんな女性でありたい」「あんな女性に憧れる」という価値観は実に幅広い。女性らしく甘さのあるフェミニンから、歴史や伝統を重んじるトラディショナル、機能的で活動しやすいスポーティ、少女のような可愛らしさを失わないロマンティック&ロリータ、枠に捉われず外し崩しも許容するストリート、洗練されていながら女性らしさも失わないソフィスティケート、メンズライクなマニッシュ、虚飾を排したデザインを好むモダン、とにかく前衛的で奇抜なアバンギャルド、そして優雅で上品なイメージを大切にするエレガンスまで。

 これらをエージで区切りながら、さらに価格を落とし込むことで、ファッションマーケットが分類される。いろんなアパレルメーカーが存在できるのも、女性ファッション誌が何とか生き残れるのも、それらを販売する各種業態、各店舗が成り立つのも、こうした市場があるからだ。もちろん、各マーケットのボリュームは時代やトレンドにも左右されるし、ビッグマーケットではないにしてもコンスタントに売れ続けるものもある。どの市場をターゲットにするかは、各メーカーの理念や方向性、各業態や店舗の戦略にもよる。

 メーカーにしても、デベロッパーにしても、小売りにしても、やはり大ヒットするアイテムが出現した方がいい。しかし、大ヒットは続かないというのがファッションの摂理でもある。だから、独立独歩で軸がブレずに自らのテイストを貫く小規模なメーカーやショップも存在する。競争が激しいマス市場より、確実な市場を押さえるということだ。しかも、エージで区切るのではなく、マインド=ずっといくつぐらいの年齢でいたいか。心理的かつ精神的な年齢に焦点をあて、トレンドに左右されず、テイストをしっかり維持する服作りもある。

 レディスではコンテンポラリーでミニマルなテイストはそれに該当する。流行にとらわれず、今日的なエッジの効いたデザインで素材やディテールに多少のスパイスを加える。時代に遅れてもいないし、尖りすぎてもいない。時代感覚にジャストフィットする。アップトゥデイトとでも言おうか。ターゲットが歳を重ねても、マインドで区切るので着こなすことができ、流行にもほとんど左右されない。体型をキープできれば、ずっと着こなせていける。

 これを政治や経済に置き換えたらどうか。日本が直面する「今日的な」課題に向け、決して遅れることなく、かといって浮世離れで革新的でもない方針を打ち出し、それに向けた施策を手当する。まさに政治家や経営者として当面の課題に対し、ジャストフィットする手腕。甘さもか弱さもそっと胸の奥にしまいこみ、凛として理念や政策がブレない。保守でも、左翼でもない。まさにコンテンポラリーで中道な信条の持ち主。もちろん、確固とした国家観や歴史観は持ちながら、「今の」国や企業の舵取りに全身全霊を傾ける。そんな女性の政治家や経営者が登場することを望みたい。

 それは女性活躍の風潮だからではない。派閥順送り、社内人事のポスト空きということでもない。人数だけ多ければいいわけでもない。できる人間が女性だったというだけで、一向に構わないのである。おそらく政治手腕や実行力にはその人の生き方そのものが出てくると思う。なおさら、ここは日本だ。中国ではない。装いは政界でも、財界でも相手に不快を与えないなら、もっと自由であっていい。ならば、手腕や能力は着こなしにも現れるのではないか。まさに虚飾のないワーキングスタイルとでも言おうか。女性ならなおさらである。男としてそんな女性は応援したくなる。

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