私たちが衣類を購入するとき、デザインやパターン以外に、どこの国で作られた服なのかをチェックする人も少なくありません。衣類の場合はどこの縫製工場で縫われた品なのかによって「Made in ITALY」や「Made in JAPAN」と表記されるわけですが、昨今改めて日本製の品質の高さに注目が集まっています。服が世に出るまでにはデザイナーやパタンナーも欠かせませんが、実際に服そのものを作るのは縫製工場。普段あまりスポットが当たらない仕事ながら、縫製工場があってこそ服が完成します。そこで今回は、縫製工場について多彩な角度からご紹介したいと思います。
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縫製工場とは
縫製工場とはその名の通り縫製をして製品化することを担う工場のことで、衣類や鞄などの素材を型紙に沿って裁断し、ミシンで縫い合わせ製品を完成させる職種。工程としては、生地を裁断し縫製を行い、アイロンで仕上げて検品を経て出荷するまでが縫製工場の役割で、つまり衣類が商品として私たち消費者の手に届くまでの大部分を請け負っているといっても過言ではありません。「ものづくり」に対してあらゆる面で高評価を得ている日本の産業ですが、こと繊維産業においても高いレベルを維持しています。しかしこの30年弱の間に、日本国内の縫製工場の数は10分の1にまで減少しました。数字で見てみると、1990年には日本国内に500ほどあったのが2018年のデータでは50を切るまでに減っています。この背景には経済のグローバル化があり、縫製工場も利益を追求すべく様々なコストカットを行うために、韓国や台湾、インドネシアなど海外に工場を移転させたのが理由。ちなみに国内の縫製工場は愛知県に多く、ついで大阪、福井、岡山、滋賀と東海と近畿エリアが中心です。
近年の縫製工場
年々減少している日本の縫製工場ですが、その規模は5名程度の小規模なものから30名程度の中規模、50人以上のスタッフを抱える大規模な工場までと様々。しかし従業員の高齢化に伴い外国人技能実習生の存在に頼らざるをえない一面もあります。昨今は海外の縫製工場に仕事を取られ国内の工場は閑散期にありましたが、やや状況が変わったのはコロナ禍と急激な円安。コロナの影響で流通が止まり、マスクや医療用ガウンの生産などを機に国内工場への受注が戻りはじめました。受注の増加を受けて縫製加工賃も上昇傾向にあり、ものづくりの国内回帰ともいえるこの状況ですが、まだ若者がここで働きたいと思えるレベルまでは引き上げられてはいないのが実情です。そこを改善すべく、縫製工場の中にはラボを併設したりオリジナルブランドを立ち上げるという、新たな取り組みに活路を見出す工場もあります。
縫製工場でできること、できないこと
縫製工場であれば生地を服として完成させるまでの全ての工程ができる、と思いがちですが、実のところ縫製工場ではできない部分も多々あります。例えばパターンを引くパタンナーは基本的に縫製工場にはおらず、パタンナーは企画分野の仕事。また、プリントや刺繍といった二次加工と呼ばれる工程もほとんど行われず、これらは専門の工場に委託するのが一般的。それにはプリントや刺繍などに対応するには、それぞれの機械や専門知識を持つ人材が必要となるからで、分業した方がより効率的に工場を稼働させることができるからです。一方で縫製工場でできるのは、生地の裁断や縫製、アイロン仕上げと検品、出荷ですが、これらの作業も分業が基本。1枚のシャツを縫うにしても、襟元や袖口など、パーツごとに専門のチームや人材を置き、分業して縫うことが大半です。
工場によって得意分野がある
縫製工場とひと口にいっても、それぞれ得意分野やカラーがあり、どんな機械やミシンを導入しているかによっても得意分野が変わります。例えば特殊ミシンひとつをとっても得意分野によって選ぶミシンが異なり、例を挙げると、インナーなどを得意とする場合はオーバーロックや2本針、3本針のミシン、布帛の衣類をメインにしているのなら本縫いやボタンホール・ボタン付けミシンが主流。そのため発注側は事前に製品ごとに適した縫製工場見極め、製品によって発注先を変えることで仕上がりのクオリティを担保するのです。
日本の縫製工場はハイクオリティ
Made in JAPANの衣類は縫製が良いので長く着られる。こういう思考を持つ人は昔から一定数いますが、現在は日本製の価値が以前よりも高まっています。それには日本の縫製工場が減少しそもそも日本製の衣類が少なくなったこともありますが、何より日本の老舗縫製工場の魅力はその品質の高さ。国内工場なのでやりとりがしやすく、納得のいく仕上がりを追求できるのです。日本の縫製技術の高さを象徴するのが、日本を代表するブランド、「COMME des GARÇONS」が発注している縫製工場。COMME des GARÇONSは世界規模のブランドですが、展示会やパリコレクションのサンプルは東京の世田谷にあるティー・アイ・プランニングという縫製工場に依頼しています。この縫製工場はCOMME des GARÇONSの他にも「mina perhonen」などを顧客に持つことから、生地や縫製にこだわるデザイナーの審美眼に叶うだけの技術を持っている証でもあります。
下請けからファクトリーブランドへ
縫製工場はアパレルメーカーやブランドの受注を受けて服を作る業務ですが、今や工場自らがブランドを立ち上げることも珍しくありません。これらは「ファクトリーブランド」と呼ばれ、工場自らがアイテムの企画やデザインを行い生産し、直営店やセレクトショップなどで販売する手法。デザインと生産が一括でできるので価格もリーズナブルに抑えられ、かつ高品質の商品を生産できるのが魅力です。ファクトリーブランドが顕著なジャンルといえばデニム。デニムの産地である岡山県には多数のファクトリーブランドがあり、ニット製品の工場が多い山形県では老舗ニットメーカーが立ち上げたファクトリーブランドが有名。これらは各工場が持つ強みを活かすため特色がわかりやすく、かつ培った知識や技術でハイクオリティな商品を提供できるので、ファッション業界からも注目を集めています。
ファクトリーブランドとして成功している事例
今や数多くのファクトリーブランドが国内に存在しますが、中でも成功を収めている代表的な2ブランドを紹介します。まずは「M&KYOTO」。こちらは山形県寒川市に本社を構える紡績・ニットメーカーの佐藤繊維株式会社のブランドで、2001にニューヨークで開催された展示会への出展を機にブランドをスタート。豊富なカラーや自社で紡ぐ糸から生まれる他にないテキスタイルが魅力で、12店舗ある直営店のほか海外にもショップを展開。有名百貨店での取り扱いを多数あります。そしてもうひとつは「HITOYOSHI」。熊本県人吉市に本社工場を持つ日本のシャツファクトリーで、その完成度の高さは世界基準といわれています。HITOYOSHIは2009年、工場の再建を目指すべく大量生産品から脱して高級シャツに的を絞り、後継者を育成するために舵を切りました。大量生産ではなく持続可能なものづくりを目指し立ち上げたファクトリーブランドは、有名百貨店をはじめセレクトショップなどでも高い評価を得ています。これらのブランドのように、培ってきた強みと圧倒的な技術力を持ち、他にはない製品を生み出すファクトリーブランドはきっとこれからも増えていくでしょう。
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