夏休み、数年ぶりに靴磨きをした。自宅の下駄箱に入れっぱなしだった革靴だ。靴屋のスタッフから「定期的にブラッシングをしてくださいね」と言われていたが、ついつい先延ばしてしていた。革靴自体に触れるのも久しぶりになる。ここ3年はコロナ禍で、クライアントに出向いたり、公の場に列席するケースがなく、革靴を履く機会はなかった。ZOOMによる打ち合わせでは足元を気にする必要がないので、外履きはスニーカーオンリーだった。
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本来なら、革靴は履いた後にきちんとケアすべきなのだが、そのままにしていたために革には少し傷んだ箇所やシミが目立つ物もあった。新たにブラシ、クリーナー、クリーム、ケアオイル、シリコンクロスなどを買い揃え、着古した白Tを断裁してウエスにした。靴磨きの専門家ではないので、かつて雑誌で読んで記憶していたノウハウやネットのマニュアルを頼りに、チャレンジした。また、自分でやってみて情報にはないが、必要だと感じたものが見つかったので、取り上げてみたい。
1.メンテナンスの道具や汚れ落とし、クリームを準備
以下のようなものが必須だ。ブラシ、クリーナー、デリケートクリーム、補修剤。ウェスには着古した白のTシャツはハンカチ半分程度の大きさに切って使用する。肩の縫い合わせを解いて丸洞にすれば、両脚を通して太ももを覆い、汚れ防止用の当て布にもなる。
2.ブラシをじっくりかけ、外側の汚れを落とす
外履きの革靴は、敵だらけと言ってもいい。特にアスファルトの道を歩くケースでは、ホコリ、油、湿気が敵になる。当方は多汗症(脂足)なので、足から靴の内側に分泌される汗も敵だ。それらをブラシを使ってじっくり落とす。見た目はそれほど汚れていないように見えても、この地味な作業が大事なのだ。
3.クリーナーを薄く伸ばして汚れを取る
ウェスにクリーナーを少しつけて伸ばし、靴のつま先、左右、踵、ホールカット部分の汚れや古いクリームを順に取り除いていく。特に古いクリームは丁寧に取っておかないと、新しいクリームののりが悪くなる。その点は化粧と同じかも。
4.クリームを塗って油分や色ツヤを補給する
チューブ入りのクリームを塗って、革に油分(栄養)や色ツヤを補給していく。クリームの量は一度に多くではなく、薄く塗って少しずつ革面に広げるようにする。クリームの色は同色か、やや薄めで明るい色を選ぶ。濃いめの色だと、かえって靴の傷や色落ちが目立つから。
5.念入りにブラッシングする
綺麗な布やまっさらのウエスを用い、美しい光沢を出す感じで軽く、丁寧に磨いていく。コバの部分などは特に念入りに磨く。傷などを隠すためにコバ用の塗料を塗ることも有りだが、逆に色が変わることもあるので、判断はプロに相談した方がいいかも。
6.つま先など光らせた箇所はストッキングを利用
女性から聞いたアドバイスだが、ヒール靴はつま先を光らせた方が履いた時の存在感が際立ってくるそうだ。そのため、布ではなく、使い古しのストッキングにワックスをつけて磨くときれいになるという。男性の靴でも応用できそうだ。
7.布(可能ならシリコンクロス)で全体を磨く
シリコンクロスや専用のグローブなどで、つま先から左右両側、ヒールまで丁寧かつ丹念に拭きあげる。防水スプレーを吹きかけておくのもいい。
8.すぐに履かない場合はシューキーパーで固定
すぐに履かないのであれば、型崩れ防止用にシューキーパーを入れておく。最近は100円ショップに売っているので、低額なので利用しやすい。シーズンオフに靴を休める場合もシューキーパーで固定しておけばケアになる。
人間が革靴を履き始めたのはいつ頃からか。かなり昔からではないかと思う。その理由は足を保護するためでもあるが、中世以降は見た目がきれい、足の形やサイズに合わせて加工しやすい、湿気を吸収排出しやすいなどの理由から、天然皮革が靴に用いられるようになってきた。最近では、某SPAが4000円台で革靴を売り出すとの話がある。こちらも服と同様に履き捨てられる運命になるかもしれないが、革靴も少しでもいいものを選んできちんと手入れしていけば、長持ちさせることができるのは事実だ。
ケア付きの中古靴が売り出される
ちょうど、手持ちの革靴数足を磨き終わった頃、ある記事に目が止まった。「三陽山長、認定中古靴を販売」である。三陽商会の紳士靴ブランド、三陽山長は、8月17日から認定中古靴の販売を開始する。同社は、昨年から京都に拠点を置き障害者の若者が靴磨き・靴修理をする「革靴をはいた猫(以下、革猫)」と提携したプロジェクトをスタートしている。今回は寄付で集まった革靴をメンテナンスし、状態が良好なもの12足選定して三陽山長認定中古靴として販売するものだ。
プロジェクトはまず2022年12月16日〜23年1月31日の間、不要になった三陽山長の革靴の寄付を直営4店で募集し、集まった革靴を練習用として革猫に提供し、職人育成を支援する目的でスタートした。革猫では、障害のある4人の若手職人らが年間5000足の靴磨きや靴修理に携わっていたが、より高い技術が求められる高級な革靴を磨く機会が限られていた。プロジェクトへの取り組みを実証することで、革猫のリペアを経たものを認定中古靴として販売することができるのではないかと検討していた。
一方、三陽山長が対象にした靴はグッドイヤーウェルト製法の革靴で、直営店で使える3300円相当のリペアチケット・プレゼントを寄付の特典とした。第1弾では、約1カ月半で18足の寄付が集まり、それらを認定中古靴として販売する第2弾を始めることになった。両社はサステイナビリティー(持続可能性)推進の観点から、取り組みを検証しながら履かなくなった靴を新たなお客に受け継ぐ仕組みを進めていくという。
購入側には、三陽山長の直営店でメンテナンスを受けることができる権利付きで、価格は1足4万9500円(税込)。プライスだけ見れば、多少割高な気もするが、ZOZOTOWNなどで見るブランド靴と比べると同程度かやや下だろうか。それでも、三陽山長という高級ブランド靴がブラッシュアップ&修理され、購入後のメンテナンス付きで、障害者の自立とサスティナビリティーを支援する目的が加味されていることを考えると、妥当な価格ではないかと思う。
中古の革靴はリサイクルショップなどで売られている。ただ、ほとんどがメンテナンスされているかはわからず、価格も買い取られた時の状態で決められた程度で、一方的に売り切るだけの流通手法でしかない。三陽山長はそれから一歩進んで、同ブランドの靴を購入したお客が定期的にメンテナンスに出すことでケアを習慣化させ、不要なものはリユースに回して守るという二次流通の仕組みを作ろうとしている。併せて、靴磨きや修理など障害者を靴職人に育て上げるソーシャルワークの両面を持たせようとしている。
こうした取り組みは、三陽山長のような高級革靴だからできるのかもしれない。ただ、高級な革靴を履く層も長く履いていれば、どんな靴でも飽きが来るケースはあると思う。ブランドの服ならメルカリやネットオークションで売り捌くことができるが、靴の場合は履く人の足の特性などの不安要素から買い手の側に抵抗がある。それが専門の靴職人によってきちんとメンテナンスされ、おそらく消毒なども施されるだろうから、二次流通にも期待が持てる。
最近は靴の買い取りを口実にした「押し買い業者」が問題になっている。「古い靴を買い取ります」「解体して素材をリサイクルします」などで高齢者がいる家庭にアポを取り、一応、買取を依頼すると、履き古しの靴1足あたり数百程度で買い取った後に「他に貴金属はありませんか」という本題に入る。当方の自宅にも1度訪問したことが履歴になっていたようで、二度目にやってきた時はとにかくしつこかった。
家人が「貴金属はない」と断っても、訪問者は会社から「そう簡単に引き下がるな」「相手が折れるまで粘れ」「目標が達成できないと泣きを入れろ」と、指示されているようで簡単には諦めない。その点、三陽山長のようなプロジェクトは、同ブランドに限って寄付してもらうということになるが、顧客からすれば履かなくなった靴を無償で回収してくれるなら、別に代金は要らないと考える方が多数派ではないか。
プロジェクトでは、靴のサスティナビリティーとソーシャルワークの視点が明確になっている。だから、何より信用できるし、店頭に持っていけるから押し買いのようなトラブルも避けられる。障害者が靴磨きや修理の技術を習得することで自立の道が開けるのは社会的に意義は大きい。また、ケアやメンテナンスを通じて中古靴を流通させることは、使い捨てという消費のみの社会を見直すきっかけにもつながる。靴磨きや修理で社会までがブラッシュアップされるのは、すごく気分が良い。ブランド靴以外にも広がって欲しいものだ。
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