コロナ禍による生活様式の変化や健康意識への高まりも相まって関心を集める睡眠市場。「睡眠の質向上」や「ストレス緩和」に着目した「ヤクルト1000」が入手困難になった話題も記憶に新しく、「睡眠の質」というワードのGoogle検索数はコロナ前の2019年と比較して約2倍に増加した。これを機に睡眠市場へ参入する企業も多く、スポーツアパレル企業も例外ではない。高機能ウェアで培った知見や技術を活かし、睡眠時の快適さをサポートするゴールドウインのオリジナルブランド「ニュートラルワークス.(NEUTRALWORKS.)」や、「ミズノ(MIZUNO)」の事例を紹介する。
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Image by: ニュートラルワークス.
ニュートラルワークス.は、2022年8月にオリジナルコレクションの「SLEEP」カテゴリーから初の寝具を発売。近年の様々な生活環境の変化から、室温、体調、心の不安などによって本来取るべき睡眠が保たれていないという悩みが増加傾向にあることに着目し、「人間は24時間のうち、おおよそ4分の1を睡眠に充てている。いかにして質の高い睡眠をとることができるかによって残りの4分3の時間の充実度が変わる」という考えのもと開発を始めた。
Image by: ニュートラルワークス.
健康医学の分野で環境適応や睡眠について30年以上研究してきた大阪府立大学名誉教授・医学博士の清水教永氏を監修に迎え、ゴールドウインの創業地である富山県小矢部市の研究開発施設「ゴールドウイン テック・ラボ(GOLDWIN TECH LAB)」を中心に、ポケットコイルマットレスの専用工場と手を組み、徹底してデータと実感に基づいた寝具作りを進めた。
マットレスは、消臭と防虫機能のあるポリエステル綿や、高密度だが通気性のあるウレタンフォームに加え、独自に開発した2段のポケットコイルが特徴。上段はソフトなエイコーン(Acorn)型8巻コイルを、下段には少しハードなちょうちん型6巻コイルを使用することで、身体にとって程よい反発力を実現した。コイルはそれぞれ独立した構造で、身体の凹凸に沿って複数のコイルが細かに変化する仕様となっている。デザインはミニマルで、劣化しにくいロングライフのコイルを使用したほか、表地はリサイクルポリエステル「SEAQUAL」を使用するなど環境にも配慮している。
素材にも、これまでゴールドウインが培ってきたテクノロジーが活かされている。マットレスでは高純度の微粒子セラミックスを繊維に練り込み、人体から放たれる遠赤外線を輻射(ふくしゃ)して身体を保温。体温をもとに人工的な熱を加えるわけではないため、睡眠中の体温の細かな揺らぎを和らげ、快眠条件のひとつと言われる深部体温を37度に保つようにサポートする。
販売開始から約1年が経ち、販売実績は非公開としているものの、北海道ボールパークの球場内ホテル「TOWER 11」や日光「ZEN RESORT NIKKO」、広島「江田島荘」など宿泊施設からの導入希望の声も多く、品質の良さが高く評価されている。
ミズノは、2023年5月に睡眠市場に本格参入することを発表。睡眠領域アイテムを展開する新シリーズ「ミズノスリープ(MIZUNO SLEEP)」を立ち上げ、第1弾としてマットレスと敷パッドを製作した。ミズノスリープは2019年4月に発足したライフ&ヘルス事業部によるプロジェクトで、ライフ&ヘルス事業部では「スポーツの力で生活をより豊かにする」を事業ミッションにウォーキングシューズやスニーカー、基幹素材を使用したアンダーウェア、運動プログラムなどを展開してきた。同事業では「年齢・性別・障がいの有無などに関わらず、すべての人々が健康で、やりたいことができる未来」の実現を目指しており、睡眠を改善することが日中のパフォーマンスを上げる取り組みや健康寿命の延びに繋がると考え、ライフ&ヘルス事業部が立ち上がった約4年前に寝具の開発を始めた。
Image by: ミズノ
ミズノスリープでは、スポーツ用品の商品開発で培ってきた技術やノウハウを睡眠領域に落とし込み、睡眠時の体の動きの分析や、筋電を使った寝返りの試験を用いたフィジカルサポートマットレス「リフル(ReFull)」と、真夏のアスリート向けアパレルの構造を応用した敷パッド「風道 -フウドウ-」を展開。発表から大きな話題を呼び、クラウドファンディングサイト「マクアケ(Makuake)」で受注販売を行うと目標金額の100万円を大きく上回り、販売開始から1日で応援購入総額が1000万円を超えた。関係者向けに開かれた体験会では、来場者から「低反発のようなフィット感ありながらも、高反発で浮いているような気がする」といった声があったという。今後は、ライフ&ヘルス事業が掲げるテーマ「リカバリー強化」の重要な要素である「睡眠」にも力を入れていくとし、イノベーションセンター「MIZUNO ENGINE」で計測や開発を行っていく方針。ミズノスリープで、2025年に売上10億円を目指す。
スポーツにおいてコンディションづくりのために疲労回復や健康は欠かせないものと捉え、アシックスは快適な睡眠のサポートを目的としたエクササイズ「ビースリープ(B!sleep)」を開発したほか、「アンダーアーマー(UNDER ARMOUR)」はリカバリーウェアを販売するなど、スポーツアパレルメーカーの開発領域の幅は広がっている。矢野経済研究所が昨年10月に発表した「スリープテック市場に関する調査」では、2023年度に75億円、2025年度には105億円の規模に到達すると予測されるなど、睡眠にまつわる市場は拡大が期待されることから、睡眠領域でも運動を通じた身体や健康に対する研究力と、高機能ウェアの素材開発力を活かし、スポーツアパレルメーカーの参入が今後増えていくかもしれない。
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