ベトナム・ハノイで開催 クィアのためのクラブパーティー「スナグ」で過ごす夜
ベトナム、ハノイのSNUGの参加者は、思い切り楽しむ方法を熟知している。PHOTO: TONYA DZYUBENKO
ベトナム、ハノイのSNUGの参加者は、思い切り楽しむ方法を熟知している。PHOTO: TONYA DZYUBENKO
ベトナム・ハノイで開催 クィアのためのクラブパーティー「スナグ」で過ごす夜
ベトナム、ハノイのSNUGの参加者は、思い切り楽しむ方法を熟知している。PHOTO: TONYA DZYUBENKO
「うまく説明できないけど、ここは居心地がいい」──クィアであってもそうでなくても、あらゆる人びとが自分そして他人と居心地良く、安心して過ごせる空間。
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月に一度、ベトナム、ハノイの誰もが憧れる地区タイホーに、街で最もクリエイティブで才能あふれる人びとが一堂に会し、最も得意とすることをする。それは、思い切り楽しむことだ。
Instagramのプロフィールによれば、〈Snug〉(スナグ、直訳で居心地がいい場所)は街の「ファビュラスな人びと、目立ちたがり屋、ビッチ、ダンサー、クィア(同性愛者)」のためのクラブパーティーだ。初開催は、会場であるクラブ〈Savage〉(サベージ)がオープンして間もない2016年。それ以降50回以上開催され、盛り上がりはとどまるところを知らない。今年5月のSnugには約600人が参加した。多くのひとにとって、ここは街で自分を解放し、自分らしくいられる唯一の場所なのだ。
「いつも最高にクレイジーなパーティーになる」と有名なDJでSnugとSavageのファウンダーのウィサム(Ouissam)はVICEに語る。「普段よりも自分を解放し、オープンな気分になれるんだ」
Snugが始まる前、ハノイのクィア・ナイトライフシーンは真面目すぎて退屈だった、とウィサムは打ち明ける。参加者にも音楽にも個性と多様性が不足していて、若者には全くといっていいほど馴染みのないものだった。この街のナイトライフには大きなギャップがあり、それを埋めたいというのがSnugの狙いだった。
そこでSnugは、新たなサウンドをハノイにもたらした。ウィサムは世界中のクィアクラブやパーティーからDJを招き、街の他のパーティーのダークで単調な音とは異なる斬新な音楽を取り入れた。彼によれば、その結果もたらされたサウンドは折衷主義的で、楽しく、気分が上がり、グルーヴィでありながら意外性に満ちているという。このように、Snugはゼロから新たなクィアシーンを構築することに成功した。「最初の2年は理解が得られなくて、なかなか大変だった」とウィサムは振り返る。しかし、人びとはすぐにそのサウンドを受け入れた。Snugのパーティーで何度かプレイしたDJユセフは、このイベントについて「他のどんなパーティーにもない特別なバイブスがある、エレガントで、完璧で、ワイルドなパーティー」と語る。ユセフはテクノDJだが、Snugではさまざまな90年代のハウスやイタリアのディスコトラックとともに、他のベニューでは使ったことのないゴスペルハウスやポップスのヒット曲を取り入れている。5月のSnugにも出演し、今年参加したなかで一番楽しいギグだったと彼は語る。
「ここのエネルギーは別格だよ。純粋な愛と幸せが満ちているのを感じる」と彼はいう。
しかし、Snugは単なるレイヴではない。
2018年、Snugはドラァグパフォーマーのグループ〈Peach〉をステージに迎えた。Peachがプロデュースするドラァグショーは、今や毎月のイベントに欠かせない演目となっている。Peachは他のベニューのショーもプロデュースしているが、メインのショーはやはりSnugで披露するものだ。
Peachのショーは、パーティーの音楽と同じくらい折衷主義的でカラフルだ。Peachは、他のショーやベニューには馴染まない、さまざまなスタイルやアクトを披露する個性豊かなパフォーマーたちのグループだ。このグループにはドラァグだけでなく、他のクィア・パフォーマンスアートも含まれる。Peach主催者でドラァグパフォーマーのアニタゴニスト a.k.a. ブロタゴニスト(AnnieTagonist aka BroTagonist)は、すべてが万人向けというわけではないが、楽しいと思えるものがきっと見つかるはず、と語る。
「私たちがPeachについて誇りに思っていることのひとつが、ターゲットをひとつの層やオーディエンスに絞らない、開かれたクィアのスペースを推奨していること」と彼女は語る。「Peachはどんなときも、パフォーマーとオーディエンスが望むままの場所であってほしい。共同主催者のひとりは、昔から私たちの仕事は『ステージにライトを当て、人びとに語りかけ、様子を見る』ことだと説明してる」
自由に自己表現できるのはPeachのアーティストだけでなく、Snugの参加者も同じだ。
「敬意さえあれば誰でも歓迎される」とアニタゴニストはいう。「ここは日常生活ではできないやり方で自分を表現できる場所なの」
ユセフもそれに同意する。もちろんドラァグパフォーマーは一流で音楽も最高だが、最も大切なのはSnugが「異なるバックグラウンド、ジェンダー、性的指向の人びとが集まってしかるべき充実した時間を過ごすことのインクルーシビティと美しさ」を実感する場所だということだ、と彼は語る。
「クィアのパーティーでプレイするストレートの男性として、僕は自分の生きがいであるエレクトロニックミュージックの成り立ちに敬意を払う機会を与えられている。この音楽のクィアなルーツは誰も否定するべきではないから」とユセフは語る。
設立から7年あまりで、Snugはその名に恥じず、クィアであってもそうでなくても、あらゆる人びとが自分そして他人と居心地良く、安心して過ごせる空間となった。
このパーティーがなぜ参加者にそういう感覚を与えるのか、言語化するのは難しい。しかし多くのクィアの人びとが知っているとおり、ある特定のパーティーが参加者に自分は歓迎されていない、居心地が悪い、安全でないと感じさせる誤った行いやあからさまな行いをしているというわけではない。ただ、なかには他よりも配慮の行き届いたパーティーがある、というだけだ。
ウィサムは参加者の数人から、「うまく説明できないけど、ここは居心地がいい」といわれたという。
明け方近くなることも多いイベントの終わりに、このパーティーは誰もが何にも縛られずなりたい自分になり、したいことをする雰囲気をつくり出すことが全てだ、とウィサムは語った。
「とにかくみんなに楽しい時間を過ごしてほしい」と彼はいう。「ここに来て、『今夜はとにかく楽しもう』というエネルギーを感じてほしい」
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