表参道・原宿エリアにまつわる小ネタ集
■メイン画像協力:生田誠氏(株式会社ココロマチ)
表参道・原宿エリアの文化や歴史にまつわるちょっとしたネタをご紹介する「OMOHARA TIPS」。今回は再開発の動向に注目が集まる「神宮外苑エリア」をピックアップ。渦中の「神宮外苑」や「銀杏並木」はどんな場所で、どんな歴史があるのかを紹介したい。
2023年3月22日に再開発の第一弾として神宮第二球場の解体工事が始まった。再開発の主な目的は老朽化したスポーツ施設の建替えだという。災害時の避難場所として利用できるオープンスペースの整備も一緒に行われるとのことだが、反対の声も大きいことはご存知の通り。
その大きな理由は伐採される樹木の数だ。外苑敷地内の樹木1904本のうち743本が伐採され、275本が移植を余儀なくされるという。
幸いにもメインストリートの銀杏並木は保存される予定とのことだが、再開発による悪影響があるのではないかと懸念されている。銀杏並木が眺めてきた景色とともに、神宮外苑の歴史をあらためて振り返ってみよう。
オモハラエリア有数のフォトスポットとして知られる外苑の銀杏並木には、遠近法を用いたちょっとした仕掛けがある。
実は青山通りの地盤に対して絵画館側の地盤を約1m下げ、突き当たりの聖徳記念絵画館に向かうにつれて徐々に背丈の低い銀杏が植えられているのだ。
銀杏並木の頂点を結んでできるラインを想像してみると、消失点となる絵画館に真っ直ぐ伸びる。この仕掛けが絵画館の荘厳さを際立たせているのだろう。
絵画における遠近法を用いて絵画館を引き立てるという粋な演出が、誰でも簡単にフォトジェニックな写真を撮れることを可能にし、ひいては現在のSNSにおいても注目を浴びるスポットとして存在感を放っている。最初にこの演出を考えた際にはこんな未来を想像していたのだろうか。そんな風に考えを巡らせながら、街や風景の成り立ちを知ると、より一層面白さが感じられる。
さて、そんな演出を手がけたのは近代造園の師と呼ばれる折下吉延(おりしも よしのぶ)博士。お隣の新宿御苑の在来木から採集した銀杏を、現在の明治神宮外苑の境内に蒔き、樹高6m程に育てた1600本の苗木から選抜して並木通りを造成したのだ。道を挟んで2列ずつ植える前衛的な並木も折下氏の発案。合計146本の銀杏が圧巻の景色を生み出している。
ところで、神宮外苑が整備され銀杏並木が植えられる前の明治時代、この場所には軍人を訓練するための青山練兵場が広がっていた。
現代の地図と見比べると、練兵場の輪郭が残っていることがよくわかる。ちなみに今に続く青山という地名は、もともとは江戸時代、現在の青山墓地の場所に屋敷を構えていた大名「青山家」がルーツなのだそう。
土地の歴史を知ることは、先人たちの足跡をたどることでもある。広大な荒地のような練兵場を緑豊かな外苑にするまでには、途方もない苦労と試行錯誤があったことだろう。
人生百年といわれる時代に先立って百年以上の時を眺めてきた歴史ある木々は、先人たちが育て、守り、残してきたものだ。
言うまでもなく再開発には環境へのリスクとストレスがつきもの。再開発が成功するか失敗するか、この場所が将来どのように生まれ変わり、どんな役割を担うのかはまだわからない。だからこそ、土地の歴史を踏まえ、土地に息づく文脈に寄り添っていくことが必要なのではないだろうか。
変わり続けることの魅力を知るオモハラの街だからこそ、残し伝えるべきものの価値をあらためて見つめなおしていきたい。
Text:Yuya Tsukune
Edit:Tomohisa Mochizuki
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