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下北沢定点観測「考察レポート」 新旧のカルチャーが支える憧れのローカルタウンとは

下北沢定点観測「考察レポート」 新旧のカルチャーが支える憧れのローカルタウンとは

ACROSS編集部
ACROSS

サブカルの街、カレーの街、古着の街、演劇の街、ライブハウスの街、レコードの街、飲み歩きの街・・・実に多様なカルチャーが交差する下北沢=通称シモキタ。近年は相次ぐ大型開発により商業施設はもちろん個性豊かな施設やショップが次々と登場し、街の魅力が大きく進化。新旧のカルチャーが織り交ざる街として再び注目されている。

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そしてZ世代を中心に改めて“古着の街”として盛り上がりをみせることでも話題だ。実際に『ACROSS』の定点観測でもここ1~2年、古着の買い場としてシモキタの出現率が急増しており、渋谷や原宿に次ぐ存在感を示している。

そこで『ACROSS』編集では、実際に今シモキタに集うのはどんな人か?どんな目的でやって来ているのか?といった疑問を明らかにするべく、同じく『商業施設が「街」「人」にできることを見つけたい』とのミッションを掲げて日々リサーチを行う、パルコグループの(株)パルコスペースシステムズ(商業施設の内装デザインや運営などを行う。以下、PSS)デザインチームと共同で定点観測@下北沢を実施することにした。

期間は2023年4月7日の土曜日を含む、3日間(+プレサーヴェイ1日)。下北沢駅周辺~世田谷代田駅~東北沢駅方面、南口商店街や北側の一番街商店街など街を回遊しながら20組/計28名にインタビューを行った

**全インタビューは以下よりご欄ください。
https://www.web-across.com/observe/p7l75600000922vy.html

古着を求めてやってくるZ世代

来街目的として最も多くあがったのは、やはり古着。学生を中心に10~20代の若者がお気に入りの古着屋を目指して来街、古着屋めぐりを楽しんでいた。街で見ていても古着屋のショッパーを持つ若者が非常に多いことに驚くが、複数のショッパーを提げる集団も珍しくない。安ければ数百円から購入できる古着は購買ハードルも低く、複数買いやセット購入も多いようだ。中には、ベルサーチのハーフジップジャケットを3万6,000円で購入する高額消費者もいた。

*「ずっと行きたかった、インスタでチェックしていたリロードの古着屋CYANに行ってきました」(23歳/会社員)
https://www.web-across.com/observe/p7l756000009civr.html
*「名古屋から服(古着)と雑貨を買いに来ました。スティックアウトで買い物しました」(20歳/大学生)
https://www.web-across.com/observe/p7l756000009ckhb.html
*「おしゃれな古着が買いたくて福岡から来ました。Gleefulで買い物しました」(20歳/大学生)
https://www.web-across.com/observe/p7l756000009clun.html
*「高円寺のOTSUが下北に新店舗をオープンしたので買い物して、iotでも購入しました」
https://www.web-across.com/observe/p7l756000009cmrj.html
*「tea、ステップアヘッド、熱田屋に行って、ダブルのテーラードジャケットとTシャツ2着を買いました。」(19歳/大学生)
https://www.web-across.com/observe/p7l756000009cnwn.html

なぜいま改めて“古着の街”として盛り上がりをみせるのか

 そもそもシモキタは90年代から良質な古着屋が集まる街として人気だった。一時はファストファッションに押されたものの、近年は昨今の古着ブームや、コロナ禍でスモールタウンが注目されたことも後押しし、関西の大型古着屋など地方勢によるシモキタへの大量出店や既存店舗のドミナント出店が相次いだ。そして、そもそも間口の小さい建物が多いシモキタには、店主のこだわりが際立つ個人店もたくさん存在する。結果、古着初心者~上級者まで幅広いニーズを満たす受け皿となり、若い世代にも改めて“古着の街”として認知されるようになった

大阪発のGRIZZLY(グリズリー)グループは2020年12月の進出以降、系列のCISCO(シスコ)など含むシモキタで10店舗を展開中町田発のMIC (ミック)グループはDESERTSNOW(デザートスノー)6店舗、MICMO(ミクモ)6店舗の計12店舗を運営。名古屋のiot(イオット)グループはSELEN(セレン)、RE:RE:(リリ)など6店舗を展開しており、どの店もシモキタに集中出店しているのが特徴だ。メイン通り~路地まで大小の店が乱立している様子は、まさに古着バブルと言っても過言ではないほど。しかしバブルはいつか崩壊するもの。その後のシモキタは…?と考えると、少し不安がよぎる。

ちなみに、シモキタの古着屋情報を発信するメディア『#シモフル』(運営:下北沢倶楽部)の掲載店舗は140店(2023年5月25日時点)だが、文中には「シモキタにある古着屋は200店舗以上」とのコメントも見られた。

いま“訪れるべき街”シモキタ

また、京都、福岡、名古屋、大阪など地方から観光などで来街している人も少なくなかった。シモキタ以外では、渋谷や原宿、新大久保などが行先にあがり、シモキタがそれに並ぶ“訪れるべき街”として知名度を上げている様子が伺えた。また、海外からの注目度も高く、家族連れから若者まで外国人観光客も多い

*「東京は月1くらいで来ていて、下北沢で古着を見るか新大久保で韓国グルメ食べるかって感じです」(21歳/大学生)
https://www.web-across.com/observe/p7l756000009ck93.html
*「福岡から古着を買いに来ました。このあとは新大久保に行って韓国料理を食べたい」(20歳/大学生)
https://www.web-across.com/observe/p7l756000009clun.html
*「京都からライブで来ました。下北沢以外は渋谷や原宿に行きます」(25歳/ヒップホップアーティスト)
https://www.web-across.com/observe/p7l756000009cjsn.html

“街ブラ”が楽しい

他には、カレーやお茶など飲食のほか、ぶらぶらするという“街ブラ”の回答も多かった中心街に横断歩道がなく道幅も狭いシモキタは、車より人が優先されており「歩行者天国」といえるほど歩きやすい街だ。さらに小田急線の地下化により以前は線路で南北に分断されていた街がひとつになり、線路跡にできた1.7kmの「下北線路街」が東西を繋ぐ散歩空間を演出縦横無尽に街を回遊できる条件が揃い、さらに“街ブラ”を楽しめるようになった

*「ぶらっと買い物に来ました。雑貨や小物を見ようかな」(25歳/会社員)
https://www.web-across.com/observe/p7l756000009cn7z.html
*「花を買いに来ました。何も予定を決めていなくて、いまからプラプラしようと思っています」(21歳/美容師)
https://www.web-across.com/observe/p7l756000009cng7.html
*「珈琲屋さん(COFFEA EXLIBRIS)でコーヒー豆を購入したり、テイクアウトして街ブラをします」(33歳/保育士)
https://www.web-across.com/observe/p7l756000009cl5z.html

商業施設視点で街を観察してくれたPSSの宮田葉那さんによると、「下北沢に新しく出来た商業施設の大きな特徴は、道を歩いているとそのまま入ってしまうようなつくりになっていること」というように、それぞれの施設には大きな扉などがなく街とシームレスに繋がるオープンな構造で、“街ブラ”需要を促していた

多様なカルチャーの発展を後押しする「支援型開発」とは

PSS作成による下北沢MAP

改めてシモキタの大型開発をみてみると、小田急電鉄が手掛けた計13もの施設からなる「下北線路街」が昨年2022年5月に全面開業。2004年9月に着工した小田急線「東北沢駅」〜「世田谷代田駅」の地下化に伴い、全長約1.7kmの線路跡地を開発したものだ。

*以前『ACROSS』で取材した「下北線路街 “BONUS TRACK”」の記事https://www.web-across.com/todays/p7l756000003qn9h.html?ra=1

「下北沢線路街」の公式HPによると、小田急電鉄の開発のテーマは『支援型開発=サーバント・デベロップメント』 “何かを変える”のではなく、開発を通じて街を“支援する”。そんな想いをこの言葉に託しているという。そして誕生した、保育園や学生寮、商店街をイメージした長屋や温泉旅館、商業施設、エンターテイメントスペース、ミニシアターにギャラリー、シェアオフィス、ホテル、子どもが遊べる広場など、多種多様な施設が新旧のカルチャーを後押しする。

昨年7月には京王電鉄が井の頭線の高架下を中心に手掛けた複合商業施設「ミカン下北」がグランドオープンし駅前はさらに賑やかになった。同施設には、『下北沢は多様な文化が交差して変わり続けており「常に未完」』、との想いが込められているという。

“憧れのローカルタウン”シモキタ

「下北沢という街とそこにいる人に対して、新しくオープンした商業施設がしていることは、まずは『下北沢』という街の個性を守ることだと感じました。そのうえで、コロナ禍を経て新しく下北沢に来るようになった若者、かつて下北沢で遊んでいたファミリー世代、個人商店の店主やその周辺のクリエイター、近隣ワーカー、住民など、実際に街にいる顧客を取りこぼさないよう各施設がターゲットとして設定しているようです」(PSS宮田さん)。

街の個性を深く理解したうえで共存を目指すディベロッパーと街に交わる人々の想いはシモキタの魅力を高め、地域への愛着をさらに育んでいる。それはインタビューで聞いた「シモキタの好きなところは?」への回答からも伺い知ることができた。

「人も街もごちゃごちゃしている」「アングラでアットホーム」「全部がぎゅっと詰まっている」「開発が進んで楽しい。新しいところと古いところがある印象」「古着屋さんや喫茶店がある」「街並みと古着が好き」「おしゃれな人が多くて見ていて楽しい」「いる人がおしゃれで、好きな服を着ている人がたくさんいる」「これでもういい。大きな商業施設はもうできないでほしい」「田舎から来ても気負わない」(以上、インタビューより)

 都会ならではの集客力と新旧のカルチャーが交差する多様性を兼ね備えた“憧れのローカルタウン”シモキタは、街と人が織りなすここにしかない“ローカルな価値”を創造し続けられるのか。2025年にはバスやタクシーが乗り入れ可能なロータリーを整備した下北沢駅前広場も完成予定というが、街の変化と共に今後も定点観測していきたい。

【取材・文:中矢あゆみ(『ACROSS』編集)、調査・インタビュー:宮田葉那、青木つかさ、熊倉一花(以上、パルコスペースシステムズ)、堀坂有紀、大西智裕(以上、『ACROSS』編集)】

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