先日、仕事で博多駅前に行くことになったので、延伸された福岡市営地下鉄・七隈線に乗ってみた。これで天神エリアからの交通手段はバスに加え地下鉄が2路線と増えたが、仕事はアポイントの時間を守らなければならないので、定時制のある地下鉄を利用するケースが多い。東京やニューヨークでもそうだったので、習慣化された面もある。
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帰りはその後にスケジュールが入っていなければ、博多駅・天神間くらいなら歩くことが多かった。駅前通りと並行する路地からキャナルシティ博多、西中洲を通って天神南に抜けるコースだ。しかし、キャナルシティ博多が陳腐化し始めると、寄り道することもなくなった。JR博多シティや博多マルイが開業しても、同じテナントは天神にもあるし、ハンズをチェックするのはカインズのPBなどが充実してからでも遅くない。
今回は仕事の後、何も予定がなかったので、各商業施設を見て回った。感じた印象はテナント集めに窮しているところもあるということ。新規テナントのオープン待ちだったり、歯抜け状態だったり。コロナ感染の収束でインバウンドに期待する向きはあるが、外国人旅行者がお金を落とす商材やサービスは決まってきている。それに日本人の買い物スタイルが変わってしまったことを考えると、今後は全てのテナントが潤うことなどあり得ない。
そんな中、福岡地所がキャナルシティ博多のイーストビルの建て替えを発表した。ビル自体はこの5月に閉館され、解体後は「商業施設やハイクラスの賃貸レジデンスなど」からなる複合施設(仮称:新イーストビル)になるという。この3月にはビル近くに七隈線の櫛田神社前駅が設けられた。新イーストビルは駅と直結し、キャナルシティ博多本館ともつながるというから、福岡地所としては新たな企業や人を呼び込む狙いもあるようだ。
イーストビルは2011年、施設拡大の一環で地上4階・地下1階で開業し、ユニクロやザラ、グローバルワーク、H&M、デシグアルなどが入居した。ところが、ザラの姉妹ブランド「ベルシュカ」のように日本全体での販売不振が響いて閉店に追い込まれた。人気店のカルディコーヒーファームは立地と客層がリンクせずに撤退を余儀なくされた。ユニクロやグローバルワーク、ザラは他にも店舗があり、思うような増床効果が得られなかったと見られる。
また、過去10年で消費環境が劇的に変わったこともあるが、デベロッパー他社に言わせると、「(イーストビルは)当初から将来的な建て替えは織り込み済みだった」とか。キャナルシティ博多を構成するサウスビル、ノースビル、ビジネスセンタービルなどが福岡リート投資法人に売却されているのに対し、イーストビルは福岡地所が保有していたのが理由という。また、サウスビルやノースビル、ビジネスセンタービルはRC造だが、イーストビルはS造(一部RC造)で、容易に解体できる構造であることを挙げる。
イーストビルの開業当時、ファッションビジネスコンサルタントの小島健輔氏はテナント構成について、「博多駅や中洲に近いから、富裕層向けの高級ホテルにした方がよかったのではないか」というニュアンスのコメントをされていた。確かに富裕層の外国人旅行者に加え、出張のビジネスマンなどが多い福岡市中心部は宿泊需要も多いのだが、ビルの開業以降はいろんなタイプやグレードのホテルが増えている。計画の段階では、市場の変化に合わせて様子を見ようという目論見だったのではないか。
目下、進行中の天神ビッグバンや博多コネクテッドといった再開発事業では、物件の多くがオフィスビルになる。だが、2023年3月の福岡ビジネス地区(天神など)のオフィス空室率は、前月比0.79ポイント増の5.89%。供給過剰の目安である5%を2ヶ月連続で上回っている。イーストビルをオフィスにしても、全てのフロアが埋まるかは不透明だ。
福岡地所としては、中長期的な視点から賃貸マンションの方が安定した収益が上げられると踏んだのではないか。近隣の第一プリンスビルやロータリー大和がともに築40年以上を経過しても、賃貸物件として利用されていることを考えれば、なおさらである。
誘致するなら足下商圏にあったもの
キャナルシティ博多が開業したのは、1996年。ちょうど筆者がニューヨークから福岡に戻った年。米国におけるSC開発のノウハウを取り入れたため、テナントにも米国でお馴染みのアウトドア系などがリーシングされた。その後、日本市場にあったものや時流の変化で少しずつ入れ替わってはきたが、コロンビアスポーツ、パパス&マドモアゼルノンノ、無印良品、地元専門店など、開業からずっと残っているものもある。
そうは言っても、キャナルシティ博多は業態的には郊外型SCに変わりない。だから、出店するテナントもカジュアル、デイリーが主体で、あとはインバウンド向けの各免税店、FFやカジュアルレストラン、シネマコンプレックス、アミューズメントになる。それらの中には天神や博多駅の商業施設から出店要請を受けたところもあるようで、激しい争奪戦の結果が今のテナント構成を表している。
イタリアのミラノで買った「リトモラティーノ」の新作が日本でも販売されることになり、それを購入したのがキャナルシティ博多B1の時計専門店だった。そこもいつの間にか撤退し、現在は時計店自体が1店舗もない状態になっている。これもスマートフォンやアップルウォッチの浸透が影響しているのだろうか。
腕時計をする層でも機械式の高級ブランドに限って見ると、購入先は百貨店の専用コーナーや路面の専門店になる。機械式はクオーツのように電池交換は不要だが、定期的なメンテナンスが必要だから、逆に顧客化しやすい。分解掃除のようなメンテナンスは数万円かかるので、それが安定的な収益となって店舗を維持できるのだ。
セイコーがクオーツ時計を開発したのは画期的なことだが、それに伴って腕時計が低価格化していき、時計店の商売が厳しくなっていった。低価格でもスウォッチやG-SHOCKのようなブランド時計を除けば、アクセサリー感覚のカジュアルウォッチを品揃えするだけでは、テナント出店してもビジネスを続けるのは難しい。高級ブランドを扱うにしても商社の力や代理店制度があるので、中小の専門店が簡単に参入できることではない。
一方、海外ブランドのアパレルや化粧品、お土産になるスイーツは百貨店が押さえている。アパレルを中心に有力なショップは都市型SCや駅ビル、地下街といった集客力のある立地に出店する。新参の海外ラグジュアリーブランドは、アンテナショップという位置付けから再開発ビルの1階に展開されている。郊外SCでも「マークイズももち」や「ららぽーと福岡」のような後発は、エリア戦略を変えたり、ガンダムといった強力なコンテンツを取り入れるなど、集客方法を工夫して勝負に挑んでいる。
このところのSDGsの潮流は買取業態を勢いづかせ、中古衣料の流通を促している。都市型SCでも買取店をリーシングし、新品の購入に結びつけようとしているところもある。反面、古着も人気が鰻登りで、福岡には有名店が次々と出店しており、大名地区は東京・下北沢のようになっていくかもしれない。元来、若者向けのブランドは路面を好むから、古着店とシンクロすれば、街全体が集客装置になっていくだろう。
となると、天神と博多駅に挟まれ、郊外からも集客しにくいキャナルシティ博多は、八方塞がりの状態に陥る。新イーストビルにハイクラスの賃貸レジデンスが完成すれば、富裕層が入居するだろうから、成城石井や紀伊國屋といった高級スーパー、ラグジュアリーなスパやエステサロン、会員制のジムや理美容院といったテナントのリーシングは可能だ。
問題はノースビルやサウスビルをどう活性化するか。現状のテナント構成では、新イーストビルとの連携は難しいだろう。元々、キャナルシティ博多は商業の面で天神地区に押されていった博多部の再興を目指して開発された面がある。1999年に下川端地区に再開発された「博多リバレイン」との相乗効果にも期待されたが、商業そのものが大きく変わったことで、新たな発想による再開発が必要になるのかもしれない。
天神では北側エリアで「ミーナ天神」がリニューアルした。デベロッパーがファーストリテイリングということもあり、ユニクロやセオリーを1階、2階にはユニクロやGU、PLUSTを展開する。シャワー効果などない現在、自社に有利な戦略が透けてみるが、今時、どこにでもあるユニクロやGUをお客が求めているとは思えない。
もう器を作って最大級、初上陸や初出店を冠にしたテナントを闇雲に集め、商品やサービス単体を提供するだけで集客できる時代ではない。キャナルシティ博多は博多部で生活する人々をしっかり見極め、日常の買い物を中心とした衣食住のバランスを整えないと、活性化も勝算も見込めないだろう。
デベロッパーとしても足下商圏を攻略するSCを核にして、どんな街にし、どう賑わいを増やしていくか。もっと大きな視点で考えていくべきではないか。それはデベロッパーで開発に携わる若いスタッフに課されたミッションでもあると思う。
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