東レが13年ぶりに社長を交代する。6月末の取締役会での正式決定をもって、長年にわたり繊維事業を率いてきた代表取締役副社長執行役員の大矢光雄氏が新社長に着任。現代表取締役社長の日覺昭廣氏は代表権を持つ会長に就任し、二人三脚で2024年3月期からスタートする新中期経営計画に取り組む。
大矢氏は1956年千葉県生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後の1980年4月に東レに入社し、繊維畑で営業マンのキャリアを築いてきた。テキスタイルや縫製など、アパレルにおけるすべての領域を担当したという同社の歴史の中でも珍しい経験を持つ。2012年6月から取締役を務め、専務取締役を経て2020年2月に代表取締役副社長執行役員に就任。営業やマーケティング部門などを率いている。
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エンジニアリング部門出身の日覺社長は“現場の叩き上げ”でキャリアを積んできた。2010年の社長就任以降、リーマンショックで打撃を受けた業績を回復させ、2009年3月期に360億円に落ち込んでいた連結営業利益を2014年3月期には1000億円台に回復。2015年3月期には連結売上収益が2兆円を突破した。在任中には「ユニクロ(UNIQLO)」とのパートナーショップを深めた。中期経営課題「プロジェクト AP-G 2022」では、掲げた課題を概ね達成したが、売上収益2兆6000億円、事業利益1800億円という収益目標は未達の見通し。日覺社長は「高い目標はまだ達成していないが、打つべき手はすべて実行してきた」と振り返った。
日覺社長は技術力、革新的な素材や社会課題を解決する素材の開発力を東レの強みであると定義する一方で、最終製品を作っていないことから社会での認知度が低く、市場価値が評価されにくいことを課題に挙げる。これからはマーケティングの知見を持つ大矢次期社長と二人三脚で東レブランドの価値を訴求し、目標完遂に邁進していく考えを述べた。
今年度の2024年3月期は、新中期経営課題「プロジェクト AP-G 2025」の初年度。経営環境はコロナに加えてウクライナ情勢や経済の停滞など厳しい状況が続いている。大矢次期社長は「いつの時代も環境は変化するもの。その経営課題に落とし込んだ企業が勝つ」とコメント。日覺社長のモットーでもある「答えは現場にある」を引用し、マーケットや顧客の変化に対応しながら収益拡大を目指す。
大矢新社長は現在66歳。若返りとは言い難い新人事に苦言を呈する声も聞こえる。日覺社長は執行役員・取締役員候補の育成に着手しているが、「厳しい経営環境下では知識、経験、人望などを満たす者が社長になるべきと判断。まだ頑張れる年齢だと思っている」とコメント。大矢新社長も自身の外見について言及し「10年前も同じ顔なので、次の10年も変わらないのでは」とおどけながら、「健康であれば年は関係ないと思っている」と前向きな姿勢を示した。
◆新中期では売上収益2兆8000億円、事業利益1800億円実現を目指す
2026年3月期を最終年度とする「プロジェクト AP-G 2025」では前中期経営計画で原燃料価格の高騰などを背景に未達となった売上収益と事業利益の向上に引き続き取り組み、目標値としては売上収益2兆8000億円(2023年2月期の見通しは2兆5100億円)、事業利益1800億円(同1000億円)、事業利益率6%(同4%)を掲げる。
達成のためのテーマとして「革新と強靭化の経営」を掲げ、同社の持つ強みをかけ合わせることで価値創出力や競争力強化のほか、事業の高付加価値化などを推進する。繊維事業では、環境配慮型素材を活用した成長領域での事業拡大と、伸長する自動車市場で主に日本、中国、欧州、アメリカの4大地域で人工皮革やエアバッグの単価・数量増により収益拡大を狙う。また、サステナビリティイノベーション事業で、使用済みペットボトルを活用した「アンドプラス(&+®)」といったサステナ素材に注力する。繊維事業単体では売上収益1兆300億円(同9970億円)、事業利益640億円(同515億円)で微増となる見通しだ。
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