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ニットにおけるサステナビリティ、進化をデザインする

ニットにおけるサステナビリティ、進化をデザインする

クリエイティブディレクター
HAKATA NEWYORK PARIS

 先月、渋谷ヒカリエで東京ニットファッション工業組合(TKF)による「TOKYO KNIT CROSSOVER EXIBITION 2023」が開催された。参加メーカーは産地ブランディング事業に取り組んでおり、今回は認証企業27社がサスティナブルなもの作りを前進させるため、持てる技術を生かして開発したアイテムを公開した。

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 展示会場に並ぶのはリサイクル素材やオーガニックコットン、古着などを使用したフーディと⻑袖Tシャツ24体。中でも筆者が注目したのは、丸和繊維工業のスウェット。生地をできるだけ無駄にしないパターン設計に挑戦し、生地使用率99.8%を実現した。

 生地は全プロセスにおける生産者の顔を開示することで、国際機関が認証を与える100%のオーガニックコットンだ。ミシン調整もより繊細に行って製造し、縫製に使う糸も綿糸にするというこだわりよう。着古した後もより再利用しやすいようとの配慮が伺える。また、染色には土から生まれた自然素材の環境循環型のベンガラ染料を使用。バケツー杯の水で染められる環境にやさしい染色方法を内外にアピールした。

 メーカーとのコラボ企画には、「TENDER PERSON」「YUKI HASHIMOTO」などが参加。デザイナーズブランドらしく、若々しい感性でヴィヴィッドな色使いのニットクリエーション15点を発表した。

 最近のトレンドであるバーチャル技術を駆使したアトラクションも用意された。今回はAR(拡張現実)を利用したもので、スマートフォンをかざしたり、専用のゴーグルをつけると会場に山積みされた裁断クズの周りをモデルがウォーキングする様子が見られる。イベントのメッセージ性をより強力アピールするには大掛かりな仕掛けが必須だが、それをバーチャル化することでできるだけ手間とコストを省く工夫もなされている。

 イベントやコラボはニット業界の課題解決にどこまで繋がるのか。展示物やアトラクションに触れながらも、ついついそちらを考えてしまう。すでに日本で流通するニット製品は98%が海外製。糸の調達から糸の撚りや紡績、加工、編み地や編み方まで、製造ノウハウが海外に浸透し、コスト競争力を持つようになった。近年は中国に代わりバングラデシュの台頭がめざましい。当日、筆者が着ていたスウェットも同国製だった。

 少し前の資料になるが、外務省が2017年に発表したデータによれば、バングラデシュの主要輸出品目でニットウェアは46.8%で、布帛製品(36.2%)を加えるとアパレルが占める割合は全体の約8割にものぼる。人件費が安く、製造が中国に偏りすぎたことや中国の賃金上昇でローコストメリットが薄れてきたことから、世界中のニットアパレルが製造拠点として注目し始めた。労働コストは中国の3分の1ほどと言われ、圧倒的に人口が多いためにミャンマーやカンボジアに比べると、働き手が集まりやすいこともある。

 筆者が着用するバングラデシュ製のフーディーやトレーナーは、ヨーロッパのマイナーブランドだが、生地が厚手でコットンの比率が高いのと、フードや襟ぐりにジップ仕様、グラフィカルなプリントが気に入ってリピートした。縫製も隅々まできちんとしているので、申し分ない。ここまでのレベルと国内勢はどう戦っていくのか、である。

 今回の展示会でも、TKFが産地ブランディングにかける思いは理解できる。海外製品に対し、国内のメーカーとしてこう戦っていく、こんな差別化で臨むという姿勢を示す場にはなっている。取り組みとしても時節柄、サスティナブルは妥当な内容だろう。

 ただ、会場に展示されたフーディと⻑袖Tシャツは、リサイクル素材やオーガニックコットン、古着などを利用したとは言え、お客の側が欲しくなるか、今すぐ着てみたいかと言うと、それも違う。逆にデザイナーとのコラボ企画は、色使いもデザインもいいのだが、クリエーションを追求するがあまり、ファッションアイテムとして着るには腰が引けてしまう。

デザインのバリエーションと進化が欲しい

 毎回、展示会を訪れて直に見たり、ネットを通じてその情報に触れると、日本の素材生産者や工場が自社の持ち味を出し、何とかメーカーやブランドと組みたいという思いがひしひしと伝わってくる。ただ、日本の最大のニット産地、新潟の五泉をはじめ、産業のインフラをどう残していくか。紡績では利益が少ない横網用の糸を生産することを止めるところがあるなど、課題は山積みだ。 

 7〜8年前、知り合いのニッターにローゲージの綿糸による編み立てを相談した時、「日本製の糸はありませんから、あとは中国製を探すかないでしょう」との返答が如実に表していた。それでも、カットソー系では横編みの天竺やリブ、裏毛は、糸から一貫して製品を作ってしまうので、QR対応などが可能なら国内でもやりやすい面はあると思う。

 そんな状況下で、TKFの取り組みを見ると、お客さんにアイテムを手に取ってもらい、購入したい気にさせるアイテム作りに注力するというか、デザイン面の目新しさがもっと必要ではないかと感じる。これは産地や製造工場が抱える構造的な問題でもあるのだが、クリエイティビティやマーケティング力を持つところの手を借りないと難しいだろう。

 若者の間でもSDGsへの関心が高まっているとのデータはある。だが、ファッションである以上、お客が購入の選択肢としてはデザイン、色目が先に来る。展示会で公開されたフーディーやクルーネックのTシャツは、巷にブランドからノンブランドまで溢れている。あくまでサスティナブルをテーマにしたサンプルと言い訳できても、購入の動機づけを欠くのだ。

 スウェットのフーディーはここ数年、トレンドになっている。ラグジュアリーブランドも参入し、有名プロ野球選手がホームゲームの行き帰りに着ている姿も見かける。価格を調べると、最高で30万円以上、最低でも10万円台後半になる。ならば3分の1程度の原価率かと言えば、そんなことはないだろう。もちろん、中国製やバングラデシュ製とは比べるとはるかに上質とは思うが、ブランド、ノンブランドに関わらずもっといろんなデザインのバリエーションがあってもいいのではないかと感じる。

 スニーカーショップの「atmos(アトモス)」が数シーズン前にオリジナルで企画していたフーディーは、フードとボディの色を切り替えていた。この程度のアレンジなら斬新さを感じるが、今シーズンはマルチカラーはあるものの、共地のプリントものに戻っている。やはり、別注企画程度では、切り替えと言ってもコスト増になり、粗利が減るからだろうか。

 クルーネックの⻑袖Tシャツでは、ファクトリエが「上質コットン100%のドレスTシャツ」「シルク100%のような着心地」を謳って企画している。こちらは汗かき専用Tシャツを手掛ける和歌山の森下メリヤスと提携したもの。ただ、購入者のレビューを見ると、「生地が薄くて透けてしまう為、インナー無しでは恥ずかしくて着れません」といった意見もある。素材や縫製を超える商品企画とまでには至っていない状況だ。

 やはり、あくまで下着なのか、アウターライクのTシャツでもいけるのか。商品コンセプトが製造に偏ったことで、ファッションとしての着用目的が希薄なった感は否めない。アウターを意識すれば、素材のバリエーション、アイテムのデザインがものを言う。そのためには商品の企画力を高めなければならない。それはファクトリもそうだが、TKFにも言えると思う。

 筆者はトレーニングやタウンに裏毛で厚手のトレーナーやフーディー、端境期や秋冬用には極厚の⻑袖Tシャツを多用する。だが、アイテムデザインがワンパターンになるので、展示会のたびに新しい企画に期待するのだが、なかなか巡り会えない。それでなくても、裏毛やカットソーはデザインでのバリエーションが少ない。

 だから、サスティナブルなもの作りを考えるなら、無理なく自然に返せるコットン100%を前提に⻑袖Tシャツなら10oz、裏毛なら12oz以上など厚さのバリエーションを広げ、デザイン面でも「Col Montant」、いわゆるタートルネック、また、「Gilet」、前あきのジップ仕様など、新たなトレンドを起こすような仕掛けにしても良かったのではないか。

 タートルネックは襟が詰まった分、フーディーより冬場の寒さを遮断できる。カンガルーポケットも手を温めるに過ぎないのなら、スマートフォンや財布を入れることができる脇ポケット仕様にした方がいい。さらにタートルをプルオーバーではなくジップ仕様にすれば、着脱が簡単でトレーニングにもタウンにも着れるユーティリティなアイテムになる。その辺りの企画がニットにおけるデザインの肝になるのではないか。

 また、裏毛についても、厚手で上質なものはそのままニットジャケットに仕立てられる。それにベンガラ染めを使用すれば、生分解性などの手を借りずに自然に戻せるアウターにも位置付けられる。海外と棲み分けして紡績や糸生産を残し、糸染業者も踏みとどまる。

 三方がウィンウィンの関係になるのは難しいが、活性化につながるチャンスは絶対にある。それがアイテム企画のブラッシュアップ、進化をデザインすることではないだろうか。まずは戦略をデザインの進化に統一させることで、お客に着てみようと買う気にさせることだ。

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