ファッション業界において、SDGsなどに対する意識が高まる中で、株式会社島精機製作所が開発したサステナブル素材が、再生紙を用いた紙糸「REPAC™」だ。
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従来、紙糸に再生紙を活用することはリサイクルの観点で注目を集めていたものの、再生紙の配合率と紙糸の強度の兼ね合いなどが難しく、多くの企業が実現できなかった。その中で2020年当時、同社調べで世界初の発明となった。
現在では牛乳パック中心の再生紙を用いており、より高品質で強度が高いだけでなく、機能性にも優れた紙糸になっているという。
そこで今回、島精機製作所でサステナブル素材ブランド「ReMateri®」を立ち上げ、再生紙による紙糸「REPAC™」を開発したプロジェクトマネージャーの岩崎伸哉さんに、開発の背景や紙糸の特徴から、現在の展開、今後の展望まで聞いた。
PROFILE|プロフィール
岩崎 伸哉(いわさき しんや)
株式会社 島精機製作所
グラフィックシステム開発部 主任
社内ベンチャーの形で、素材ブランド「ReMateri®」を立ち上げ、紙糸「REPAC™」を開発。
「ReMateri®」プロジェクトの背景
島精機製作所と言えば、ニットを編むコンピュータ横編機のメーカーとしてその名が知られている。その中で、なぜサステナブル素材の開発を行うことになったのだろうか。
「当社は、昨今の世界情勢を踏まえ、事業の多角化をしていくことが課題でした。その中で2年前に、社長から全社員に対して、自分がやりたい事業、特に社会課題を解決する事業を考えて欲しいという提案があったんです。その中で、私は『牛乳パックから糸を作る』というアイデアを提案しました。
なぜかと言うと、当時中国で古紙の輸入を規制する動きが出始めた頃で、日本の古紙の行き場がどうなるのか懸念されるタイミングでした。そこで素人ながら、紙糸に古紙を活用できれば古紙リサイクルの幅が広がるのではないかと考えたのです」
岩崎さんの提案は新規事業の一つとして採用され、社内ベンチャー「ReMateri®」のプロジェクトがスタート。実際にリサーチを始めたところ、過去にいくつもの企業が同様の試みをしていることが分かった。新聞紙や段ボールなどの古紙を活用したものの、そもそも糸にならなかったり、強度不足であったり、成功していないことが判明した。
その背景には、糸と紙を作る業界が分業になっていることから、「糸屋は紙に詳しくなく、紙屋は糸に詳しくない」という状況も大きな要因として存在した。
そこで、この両者が一丸となった取り組みが必須であると判断。同社の糸に対する知見を活かしながらも、紙を専門とする外部企業のアドバイスを取り入れて開発を進めることで、開発が大きく進展した。その上で、古紙の配合率にもこだわった。
「たとえば、配合率を1%に下げてしまえば、ほとんど普通の紙糸と変わらないので作れるかもしれませんが、それでサステナブルと言えるのか。反対に、限界まで配合率を上げると、たくさんの古紙を有効活用出来ますが、安定した強度を持つ紙糸として提供することは難しい。そのバランスを考えて試行錯誤する中で、最適な配合率に辿り着きました。もちろん、今後100%まで高めることは目標の一つです」
牛乳パックの様々な利点
再生紙の糸「REPAC™」の名前の由来にもなっているが、様々な種類の古紙の中から紙糸に適した素材の調査を繰り返し、牛乳パックの存在が浮かび上がったという。
「牛乳パックをリサイクルした再生紙は品質が高いんです。なぜかというと、防水のために表面にラミネート加工がされているんですけれど、層の上に文字などが印刷されていることがほとんどなんですね。なので、ラミネートをはがしてしまえば、中の紙は新しい紙に近い。それに対して、新聞紙のように直接文字などを印刷してしまうものは、なかなか品質のいい紙が抽出できないんです」
現在は牛乳パック中心の再生紙を活用しているが、1kgの糸に1ℓの紙パックが約10本再生されている計算になる。全国牛乳容器環境協議会によると1ℓの紙パックを焼却処分せずに、リサイクルするとCO2排出削減量が23.4g削減できるとの事なので、1kgの糸製造あたりで約234gのCO2排出量削減に貢献している。
さらに、牛乳パックを活用した副産物として、外部機関検査において強度や洗濯が問題ないことが証明されただけでなく、高い吸水性や消臭性を持つことも分かった。
「はじめて形になったのが靴下だったのですが、自社の機械で実際に編んで足を通したとき、忖度なしに履き心地の良さを実感することができました。やはり、SDGsやリサイクルに関心が高まる中でも、『快適だから使っていたものがサステナブルな商品だった』とわかるのが、製品として一番良いと思っています」
2020年の発明を経て、約1年前から「REPAC™」の販売がスタート。現段階では大々的な販売には至っていないが、メーカーなどの協力により「泉州タオル」や「トートバッグ」、「エプロン」や「ワイシャツ」、「ニット帽」など様々なアイテムが作られている。
昨年は、東洋大学と文化祭で販売するトートバッグを製作。また、東京のセレクトショップ「THE SHOP URL」と和歌山のセレクトショップ「tunagu」での取り扱いをスタートした。
現在は一部店舗やイベントでの販売などに限られていることから、ECストアの開発を進めており、消費者の手に届く機会を増やそうとしているとのことだ。
また、学校との連携の一つとして「給食で出る牛乳パックの回収」も行った。和歌山県の田辺市立高雄中学校と協力した取り組みでは、1か月間の回収で約7,500枚のパックが集まるとともに、子供たちに対して身近なモノからサステナブルとは何かを考えるきっかけになったという。
「日本のリサイクルにおいて牛乳パックはアイコニックな存在です。サステナブルという意味でも理解しやすいですし、製品も身近に感じてもらえると思います。学校やカフェなど牛乳と関わりがある方々との取り組みにより、もっと認知向上も含めた広がりが出せるのではと考えています」
「REPAC™」の可能性
2020年の発明を経て、徐々に広がりを見せる「REPAC™」。最後に、これからの展開について聞いた。
「『REPAC™』の目標としては、やはりこの紙糸を販売して、メーカーやブランドなどに採用いただき、製品化してもらうことです。試作という形で紙糸を購入いただくケースは増えてきているので、私自身、今後の展開が楽しみです。
また、現段階で『REPAC™』と組み合わせて使っている素材は綿などに限られているんです。加えて、アパレル業界では様々なリサイクル素材が生まれてきていますので、そうしたエコな素材と色々組み合わせ、素材の特徴を生かした使い方をもっと提案していければ、受け入れられる余地がたくさんあると思います。その点を、もっと発掘していきたいですね」
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