2022年の6月にデビューした「オーテックキャンプ」は、あのオーディオテクニカが手がけるキャンプギアブランド。イヤホンやスピーカー、レコードプレイヤーなどのオーディオ機器で有名なメーカーがなぜ?そんな疑問とともに話題となった新進気鋭のブランドだが、プロダクトを見てみると実に緻密に設計されていて、革新的なギミックに溢れていることがわかってくる。
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これまで最高の音を通して感動体験を届けてきた同社が、新規事業で届けるのはアウトドア体験を通じた感動。今回は「オーテックキャンプ」の発起人である廣水樹さんに、ブランドに託した想いとプロダクトの魅力についてインタビュー。同ブランドの成り立ちから今後の展望まで語っていただいた。
オーディオテクニカが誇る精密技術を、生活を彩るキャンプギアに落とし込む
2022年に創業60周年を迎えた、日本が誇る音響機器メーカー「オーディオテクニカ」。私たち一般消費者からすれば、ヘッドホンやイヤホンなど日常的に使われるものから、プロユースのマイクや音響機材、さらにはアナログオーディオ製品まで幅広く商品を展開している会社というイメージがある。しかし実は、食品加工機器も手がけていることはあまり知られていない。
「オーディオテクニカ内に特機部という部署があり、食品加工機器や産業用クリーニング機器など、オーディオ以外の特殊な機械を作っています。
なかでも『オーテック』というブランドではお寿司を握るロボットなどを製造開発していて、あまり世間一般的には知られていませんが、シャリ玉を製造する機械のメーカーとしては世界でもトップクラスのシェアを誇っているんです」と、同社の特機部・オーテックキャンプ担当の廣水さん。
もともとは「オーテック」のすしロボットなどの設計をしていたという廣さんだが、キャンプに対する情熱とアイデアとともに、今ではオーテックキャンプ専任の担当に。製品企画からブランディング、広報までマルチに担当している。
オーディオテクニカの柱は様々な精密機械を作る技術力。それを活かしながら、自分たちが情熱を注ぎ込んで、なおかつユーザーの皆さんに喜んでいただけるものを作りたいと思い立ち、昨年誕生したのが『オーテックキャンプ』なんです。
この新規事業の企画を立案したのは、キャンプ好きの私ともう一人の先輩。最初はプロジェクト単位の小さな動きだったのですが、音響の設計者やデザイナーも巻き込み、ブランドを立ち上げるまでになりました」
機能性・収納性・耐久性を追求した美しいアウトドアブランドを目指して
キャンプが広く親しまれ、すでに数多くのキャンプギアが世の中にある中、見方によれば後発にも見える「オーテックキャンプ」だが、どの製品にも独自性があり、他社のヒット商品をまねて開発されたものではないことが伝わってくる。
「いつか音響に絡んだ製品も作りたいと考えていますが、現状は『変わった音を奏でる焚き火台』などではなく(笑)、まずは実直に、アウトドアファンの方に認めていただけるような使い勝手の良い製品を作っています」
そう廣さんも語る通り、デビュー時点のラインナップは焚き火台が二種類とコーヒードリッパーで、第二弾として焚き火ライフをサポートする二種のアイテムを追加。いずれも持ち前の高い金属加工技術を感じさせるステンレス製のギアで、機能性、収納性、耐久性を重視しながら、彼らのアイデンティティを感じさせる意匠に落とし込んだ。
最高のアウトドアコーヒーを実現するドリッパー
展開中のアイテムの中でも廣さんが特に思い入れがあるのが「ブランドの企画段階で一番に思いつき、真っ先に図面を描いた」と語る、「ドリプロ」というコーヒードリッパーだ。
アウトドア用のコーヒードリッパーの多くは、基本的にコンパクトさと使いやすさに重点が置かれている。しかしオーテックキャンプは、アウトドア環境下でも美味しいコーヒーが楽しめるという、プラスαの価値を提供することを目指したのだという。
「開発時にカフェなどをリサーチして分かったのが『外でおいしいコーヒーを淹れるのはとても難しい』ということ。コーヒー抽出に最適なお湯の温度は90度前後。ただ沸騰したお湯を入れるだけではダメなんです。かといって、そのために温度計や注ぎ口の小さいポットなどを持ち込むのは大変です……。
さらに寒い屋外では抽出中にすぐさま湯温が変化してしまうなど、温度管理がそもそも難しい。そこで、屋外でも外気温に左右されにくく、道具やテクニックが無くても美味しいコーヒーを淹れることができるこのドリッパーを開発しました」
ドリプロの使い方は簡単。折りたたみ式の本体にシリコン製のアシスターを装着し、沸騰したお湯を注ぐだけ。課題であったお湯の温度に関しては、沸騰したお湯がアシスターを通過する過程で冷まされ、抽出に適した温度に調整されるという機構で解決されている。
アシスターの滴穴は先細ケトルでドリップする時に狙うような位置に設けられており、直径や間隔、水圧なども計算して設計。また同時に、アシスターが蓋となることで外気への熱の発散はより少なくなり、蒸らしもより効果的になっているというのだ。
トライアングルデザインを取り入れた二つの焚き火台
オーテックキャンプのプロダクトデザインは、ヘッドホンなどのデザインを手掛けているデザイナーが携わっており、いずれもオーディオテクニカ社のロゴと同じようなトライアングルデザインを取り入れてクールに仕上げられている。
「三角形は最少の頂点数で平面を形成しつつ重量を均等に分散し、安定化を計るのに効率的なカタチでもあります」
フラッグシップ的焚き火台の『トライアングリル』は、20秒で設営できる組み立て式の焚き火台だ。
「スリットによる調理に適した燃焼効率も特徴なのですが、デザインとしては焼き網のハニカム構造(正六角形)の穴もポイントです。これはオープンイヤー型ヘッドホンのハウジングの穴の形を模したもので、弊社らしさを見た目として取り入れつつも、剛性の向上に繋げることができました」
そして、アシンメトリーなデザインが珍しい焚き火台「コックピット」は同ブランドの中でも一番の売れ筋アイテム。少し小ぶりなサイズだが「トライアングリル」同様に焼き網を動かさずに薪を操作できる設計で、A4サイズにスリムに収納できる点や850gという軽量さも特徴となっている。
「ブランドをローンチして半年が経ち、最初はオーディオテクニカがキャンプ道具を作るという意外性で注目をしていただいている状態でしたが、徐々にアイテムそのものへの高い評価をいただけるようになりました。勇気を出して買ってくださったお客様の良い口コミがSNSで広まっていたりと、認知に繋がっている実感があります」
オーテックキャンプの展望
最後に、「オーテックキャンプ」としてはどのような未来を思い描いているのだろうか。その胸の内を語っていただいた。
「2022年は火の周りの製品を多く発売しましたが、ラインナップは幅広くしていきたく、最終的にはキャンプ道具の総合ブランドを目指して今は一生懸命企画を練っているところです。当社だからこそできるようなものを。現時点だと具体的にどのような製品というのは言えないのですが……、ぜひ期待してお待ちいただければと思います!」
PROFILE|プロフィール
廣 水樹(ひろ みずき)
株式会社オーディオテクニカ
特機部TCL営業課アウトドアG
東京都港区出身。兄の喘息をきっかけに2歳で自然豊かな都内八王子市に引っ越し、秋川渓谷で初キャンプを経験する。小学生時代は山や川で遊んで育ち自然に親しむ。高校時代に自然科学に深く興味を持ち、北里大学物理学科に進学し卒業。また幼少期より工作がとても好きであったため、メーカーのモノづくりに興味を持ち、大学卒業後は製品機器メーカーに入社し筐体・駆動設計を担当する。2017年に株式会社オーディオテクニカへ中途入社し寿司マシンの開発を約3年間担当した後にキャンプ用品の開発を企画立案。
https://www.auteccamp.jp/
Text by Junpei Suzuki (ALTANA inc.)
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