2022年は世界の多くの地域でパンデミック規制が緩和されたことで、やっとコロナが収束に向かっているかなと感じられ始めたと思ったら、記録的なインフレ、ロシアのウクライナ侵攻、気候変動の影響による異常気象など、経済的にも環境的にも、かなり変化の大きい一年だった。
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おそらくこの流れは2023年にも継続され、人々の生活も、社会環境も、仕事の仕方に対しても新しいアプローチが求められてくると思われる。言い換えると、これまでよりも一層イノベーションが求められる時代になってきた。
では、2023年にどのような変化、そしてそれに対するイノベーションが生み出されるのかについて、10の予想をしてみる。
1. SNSの利用率が下がり始める
2010年代から破竹の勢いでユーザーを増やし続けてきたSNS。しかし、今年は転換期になりそうな予感がする。
若者のFacebook離れから、イーロンマスクがTwitterを買収した事によるサービスの変化。そして、米国におけるTikTokの禁止の可能性などなど、そろそろ右肩上がりのSNSにもかげりが見え始めているのではないだろうか。
SNS上の誹謗中傷やプライバシー問題などの懸念もあり、多くのユーザーがSNSに対しての不満や不安を感じている。
また、ユーザーの行動を追いかけるSNSのアルゴリズムの危険性を不安視する声も出ている。
それもあり、不特定多数のユーザーが集まる大型SNSチャンネルから、Discord、Mastodon、Geneva、Substack、Patreonといったプライベートな空間でのコミュニティ形成を重視するサービスへの人気が移行し始めている。
これらのニッチなプラットフォームの中には、従来のSNSサービスを模倣したものもあるが、多くはスクロールに何時間も費やしたくない、短時間の利用を好むユーザーに対応している。
例えば、BeRealは、日に1枚しか写真を撮れない。WeAre8では、1日にスクロールが8分間に限定されている。
これらの新しいサービスの人気は定量的にも実証され始めている。例えば、BeRealの会員数は、2022年の1月から4月までの間になんと315%増加している。
TwitterやFacebook, Instagramがすぐに無くなるようなことはないだろう。
しかし、ユーザーはより安全で快適なコミュニティを求めるようになり、SNSの勢力図が大きく変わっていく可能性が高い。
2. VCはユニコーン企業よりも黒字化企業への投資を優先する
2013年、ベンチャーキャピタリストのアイリーン・リーが、10億ドル以上の評価額を得た非上場スタートアップを「ユニコーン」と定義した。「ユニコーン」と名付けられたのは、そんなスタートアップは神話上の生物と同じくらい珍しいものだったからだ。
当時はUberやAirbnb, WeWorkなどのユニコーンに対して、猫も杓子も投資をしたがる「ユニコーンバブル」が広がり始めていた。
しかし、2010年代半ばになると、サンフランシスコやシリコンバレーを中心に、「ユニコーン」だらけになり、日本の国民的スナック菓子とんがりコーンと同じくらい一般的な存在になってきた。
それがエスカレートし、多くのVCが必ずしもその評価額に値しない企業に対しても巨額の資金を投じた。
その後、ユニコーンバブルが弾け、WeWork、Theranos、FTXといったユニコーンは、数百億ドルの価値を消し去り、見事に崩壊した。
加えて、ここ数年の景気の不透明感から多くの投資家がソフトバンクのヴィジョンファンドに代表されるように投資基準を格段に厳しくし、ユニコーンだからといって安易に投資しなくなってきている。
実際に、スタートアップへの投資とユニコーン出現率の鈍化は顕著で、CB Insightsによると、2022年第3四半期に誕生したユニコーン企業はわずか25社で、2021年の同時期と比べても5倍も少ないというデータがある。
言い換えると、投資家たちはスタートアップや起業家に対してこれまでのような幻想的な賭けに出ることを躊躇し始めている。
これからは巨大な評価額よりも、堅実に売上と利益を出せるスタートアップへの投資を優先していくだろう。
スタートアップとしても、1、2年での一攫千金を狙うのではなく、長期的に利益の確保が可能になる企業を目指す必要が出てくるだろう。
3. リモートワークからハイブリッドワークへ
パンデミックの影響で2021年中は完全リモートワークを許容していた企業も、少しずつではあるが “Back to Office” を始めている。TwitterやAppleに代表されるシリコンバレーのテック系企業のいくつかも社員のオフィス出社を義務付けている。
やはりリモートだけでは不可能なタイプの仕事や、対面の方がより良い結果が出せるタスクも多いことがその理由。
また、家で一人で仕事をすることで孤独を感じ、メンタルに影響が出ているケースも増えてきている。オフィスに出社するメリットも少なからずあるようだ。
おそらくそれが理由で、LinkedIn Economic Graphの分析によると、リモートワークの求人広告が減少していることがわかった。10月にLinkedInに掲載された求人情報のうち、リモートワークの選択肢を提供していたのは7件のうち1件だけだった。
今後はリモートワークとオフィスワークを混合させた、ハイブリッドなワークスタイルを採用する企業が増えてくるだろう。
ハイブリッドワークではリモートワークの柔軟性を確保しながらも、時折対面してのメンタリングや交流の場を設けることができる。
スタンフォード大学の経済学者であるニック・ブルームもオフィスでのコラボレーションが重要であると唱える。
マイクロソフト社の調査によると、ハイブリッドワークは短期的な生産性を高めるが、長期的なコミュニティや創造性を低下させる可能性もあるという。
ブルーム氏によると、企業は従業員のニーズに合わせて、会社全体で1つのスケジュールを作成するか、チームに決定させるかを決める必要があるとのこと。
2023年はハイブリッドワークがより正式なものになり、会社が出勤日を指定したり、スタッフが事前にオフィス に出勤する日を調整するようになってくるだろう。
4. AIの実用化が加速する
これまでもずっと「AIがヤバい!」と言われてきたが、いまいちその凄さが実感できなかった。
しかし、2022年後半ぐらいからStable Diffusionによる画像生成や、ChatGPTによる文章作成など、リアルにAIの「ヤバさ」を見せつけられている。
そして、我々の目に付く範囲だけではなく、さまざまな産業において我々はAIの恩恵を受けている。
看護師はAIを利用して健康状態が悪化しそうな患者を見守り、投資家はAIを利用して投資ポートフォリオを調整する。モデルナ社の新型コロナウイルスワクチンの開発でも、AIは重要な役割を果たした。
これからAIはより直感的になり、複数の「感覚」を同時に使うことが増えていくだろう。マルチモーダルAIアプリケーションにより、AIシステムは音声、視覚、言語データを組み合わせて、また互いに関連づけながら処理することができるようになってくる。
例えば、テキストプロンプトに基づいてオリジナルアートを生成できるDALL-Eのようなツールは、このアプローチの初期の例と言えるだろう。
マルチモーダルAIは、AIシステムが高度に洗練されたニュアンスでデータや環境を分析できるようになるため、今後数年のうちに新しいアプリケーションで飛躍することが期待されている。
医療分野では、マルチモーダルAIが患者の画像や履歴、バイオセンサーからのデータを組み合わせて検査し、診断や治療法の提案を行なえるようになる可能性がある。
また恐ろしいことに、マルチモーダルシステムへの移行により、AIは現在よりもさらに創造的な力を持つようになる。
例えば、Netflixがユーザーごとに単にお薦めを表示させるのではなく、それぞれのユーザーの好みに基づいて全く新しい映画を創り出すことも、近い将来起こっていくかもしれない。
AIツール Stable Diffusionによって生成された動画
5. 医療従事者の人手不足をテクノロジーが解決する
世界では、医師や看護師などの医療従事者が不足している。
WHOの保健医療人材ディレクターであるジム・キャンベルによると、医療従事者は人口の3倍の速さで増加すると予想されているが、それでも2030年までにさらに1000万人の臨床医が必要になるとのこと。
この状況に対処するために、2023年には、世界中の病院、ハイテク企業、政府機関が団結して、2つの重要な方法を取ることが予想される。
それは、手元にある限られた人材資源を共有することと、患者への対応と新しい医療従事者の育成のために新しいテクノロジーを導入すること。
アマゾンウェブサービスの国際公共部門健康担当最高医療責任者であるローランド・イリングは、「こうしたニーズを補うため、バーチャルケア、遠隔モニタリング、在宅医療などの動きが活発になっています」と述べている。
「また、将来の医療従事者を育成する必要性もあり、デジタルヘルス教育の新しい方法に焦点を当てた製品が増えている」とも語る。
WSは、シアトルに拠点を置くHurone AIなどのスタートアップに資金を提供していく予定。
Hurone AIは、ルワンダでアプリをテストしており、人口1300万人の国全体で、20人足らずの腫瘍医の治療を支援する。
また、米国心臓病学会は、バーチャルリアリティ手術トレーニング会社のOsso VRと提携し、特定の心臓手術のためのグローバルカリキュラムを作成しようとしている。
このように、医療従事者の人手不足を補うために、急ピッチでテクノロジーによる解決策が進んできている。
6. サステイナブルファッションが注目される
国連によると、我々が衣料品に使用する素材の約60%はプラスチックで、毎年約50万トンのプラスチック製マイクロファイバーが海に放出されていると言われている。
この環境負荷を軽減するため、デザイナーやメーカーは、藻類、パイナップルの皮、キノコなどの新素材から衣服を作るなど、植物由来のソリューションにますます注目するようになっている。
これはアパレル業界においても、よりサステイナブルな素材に注目が集まっているということだ。
例えば、畜産業が環境に与える影響を考えると、植物由来の生地はレザーの代用品として特に魅力的と言われている。
デンマークのブランドGanniは、2023年までにレザーを使用しないことを計画しており、ブドウの皮、植物油、水性ポリウレタンでできたVEGEAのような代替品を使用する予定。
キノコやその他の菌類の糸状の根である「菌糸」は、いくつかのレザー代替品の基礎となっており、実はエルメスやStella McCartneyが早くから着目し、採用している素材だ。
ココナッツとコルクを使った完全プラスチックフリーの生地「Mirum」は、BMWを含む投資家から8500万ドルの資金提供を獲得している。
藻類と海藻は、テクニカルファブリックの分野にも進出していくだろう。
英国の生地会社Pangaiaは、海藻パウダーを使ったレジャーウェアを作っており、藻類を使った吸汗速乾素材の研究にも着手している。
サステナビリティ・コンサルタントのソーニャ・パレンティは、植物由来の布地の多く、特に完全にプラスチックフリーのものは、まだまだ実験段階であると述べている。
一方で、より分解しやすいバイオベースの素材の比率を高めた新しい生地が登場することを期待している。
「ファッション界のプラスチック危機を解決することはできませんが、化石燃料から完全に脱却するための解決策の一部になる可能性があります」と彼女は語っている。
7. 都市部を中心にヴァーティカル・ファーミング(垂直農法)が広がる
2022年に世界人口は80億人を超えた。それに合わせ、世界的な食糧難が危惧されている。
加えて、今世紀半ばには65億人もの人々が都市部に住むと推測されている。都心部に屋内農場を設けることで、急増する都心部の人口の食糧を賄うのに役立つと考えられている。
これはヴァーティカル・ファーミング(垂直農法)と呼ばれる仕組みで、倉庫を改造して、葉物野菜からハーブ、イチゴに至るまでさまざまな作物の栽培スペースにするというものである。
2022年上半期、投資家は8億ドル以上を垂直農場系の企業に投じた。2030年までにこの屋内農業ビジネスは、330億ドル規模になる可能性があるとされる。
気候管理された屋内農場には、従来の農場と比較して重要な利点があるとされる。
年間を通じて栽培が可能で、植物を積み重ねることができるため、より少ない土地でより多くの食料を生産でき、害虫や異常気象の影響を受けにくいのだ。
また、農場を消費者に近づけることで、輸送や冷蔵の必要性も少なくなる。
この業界では、毎月のように新しい垂直型農場が誕生している。
AeroFarmsは最近、バージニア州ダンビルに150,000平方フィートの施設をオープンさせた。
ブルックリンに拠点を置くGotham Greensは、2023年にいくつかの農場を建設する予定だ。
また、Plenty Unlimited社は、バージニア州リッチモンド郊外の120エーカーの土地に世界最大の垂直農法のキャンパスを建設する計画を立てている。2023年はアグリテックにとってもかなり熱い一年になるかもしれない。
8. メタバースのB2B利用が広がる
2022年はメタバースにとって良い年とは言えなかった。
最も著名なメタバース・プラットフォームであるDecentralandとSandboxの2社は、それぞれ10億ドルを超える評価を受けていたが、日々のアクティブユーザーが1,000人以下であることが明らかにされた。
また、MetaのHorizon Worldは、スタッフでさえ使うように圧力をかけなければならないほど不人気だった。
ARとVRはまだ黎明期にあると言える。そもそもVRデバイスを手に入れる人は一握りかもしれないし、この分野の技術が主流になるにはまだまだ時間がかかりそうだ。
しかし、2023年、ついに我々はメタバースがビジネスの世界に飛び出すのを見ることになるかもしれない。
VRとARは、今まさにパイロットや外科医の訓練に使われている。
そして、パンデミックの間、自動車メーカーは新しい車を設計するためにこの技術を採用し始めた。2023年には企業の研修、大学、トレーニングプログラムに留まらず、さらに大規模な方法でメタバースが活用されることを期待したい。
一般消費者向けの展開はまだまだ先かもしれないが、まずはB2Bのフィールドでメタバースはどんどん広がっていくことが予想される。
9. フェムテックがビッグビジネスに
フェムテックとは、フェミニンとテクノロジーを組み合わせた造語で、不妊治療や生理など、女性の健康に関する問題をテクノロジーを使い解決する分野のことを指す。
例えば女性の更年期障害は大きな課題となっている。ミシェル・オバマは更年期障害の大変さをメディアで語り、俳優のコートニー・コックスやナオミ・ワッツは、その経験について声を上げている。
それくらい女性の更年期障害は主流な社会問題になりつつあるのだ。
長い間タブー視され、恥ずべきこととされてきた「更年期の会話」は、人口動態の変化が一因となり、盛り上がりを見せている。
世界の更年期および閉経後の女性人口は毎年4,700万人ずつ増加し、2030年には12億人に達すると予測される。
このような数字から、フェムテックが解決するべき一つの課題である更年期障害は急速に非常に大きなビジネスになってきている。
すでに多くのフェムテックのスタートアップ企業は、更年期障害の症状を和らげ、発症を遅らせるための治療法を提供しようとしている。
ナオミ・ワッツは、女性たちが自分たちのストーリーを共有するためのコミュニティを立ち上げ、商品ラインも用意している。
また、アイルランドを拠点とする小売業者プライマークは、ほてりなどの症状を緩和するためにデザインされた、史上初の更年期用衣類ラインを立ち上げた。
2023年には企業も授業員の更年期障害に新たな形で注目することが求められる。
英国では約10%の女性が、不快感から辞職したと回答。アイルランド銀行は10月、更年期を経験した女性に有給休暇を提供すると発表した。
また、デロイトは、グローバルな多様性、公平性、包括性の課題に更年期障害を取り上げ、熟練した労働者の流出リスクが高まっていることに対して、十分な対策を検討するようクライアントにアドバイスしている。
このように今後フェムテックが解決するべき課題がどんどん増え、それに合わせ市場も拡大される見込みだといえる。
10. 世界中でノンアルドリンクがブームになる
日本ではすでにかなり馴染みのあるノンアルコール飲料であるが、アメリカではまだまだ知られていない。しかし、そろそろ流行り出すかもしれない。
その最初のきっかけはヨーロッパだろう。ノンアルコールのシャンパン、ビール、そしてラム酒が、アルコールフリーのワインを専門に扱うパリのショップで、フランス人の愛好家たちを虜にしている。
好みは分かれるかもしれないが、市場の専門家は、この傾向は世界的に拡大すると考えている。
アメリカの成人の3分の1はアルコールを飲まず、ニューヨークのような都市では「酔わないこと」を特徴としたノンアルバーが増えており、おしゃれなノンアルカクテルをサーブしている。今後はより多くの飲料ブランドが棚のスペースを競うことになると見込まれる。
お酒を飲まない若者は、海外にもどんどん増えているようで、ノンアルドリンクに対するニーズも高まってきている。
今こそ日本の飲料メーカーの腕の見せ所かもしれない。
以上が2023年に世界を変える10のイノベーション予測だ。今年の業界動向に注目したい。
2023年は皆様にとってどのような1年になるでしょうか?
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